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TITLE12 雲の中の羊飼い

著者: 鈴木陵生

TITLE12 雲の中の羊飼い

僕らは、雲の中を歩いていた。耳をすませば何か聞こえる。「カランカラン」と「メェメェ」、そしてノリノリのヒップホップ。真っ白な先に、人の気配がする。警戒していると、絶妙なタイミングで雲が晴れてきた。じんわり見えてきた大地の上には、ベルを付けた羊の群れと、3人の少年が立っていた。

アフリカ南部に位置する小さな王国、レソト。土地の80パーセントが標高1800mを越えるという、まさに天空の王国だ。僕らはこの国を横断し、東の国境“サニパス”までやって来た。小さな国境オフィスとまばらな民家、そして一軒のホテルのほかは何もない辺境の地だ。何もないが、景色は素晴らしい。標高3000m近い高原で、晴れた日は眼下に南アフリカの山々がどこまでも見える。曇りの日には、そこに雲海が広がる。まるで防波堤に立っているかのように、雲が波みたいに押し寄せる。そうした雲が、サニパスを散策していた僕らを飲みこんだのだった。

雲の中から現れた羊飼いの少年たちは、凛として独特の雰囲気を持っていた。マントのように巻かれた毛布からは、羊と太陽の匂いがする。口笛の吹き方を教えてくれたり、子羊を抱かせてくれたり、彼らはとても優しかった。気になったのは、一人の少年の胸元の携帯から聞こえる音楽。カニエ・ウェストだ。辺境にカニエが鳴り響く。カメラに向かい、キメッキメのポーズをとる彼らに、僕らはなんだか微笑ましい気持ちになった。

鈴木陵生(Ryosei Suzuki)

映像作家。2011年より夫婦で世界一周を始める。旅の様子を発信する映像サイト「旅する鈴木」が、平成26年度文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に。2014年11月、DVD&Blu-ray「World TimeLapse」(KADOKAWA)をリリース。【URL】 http://ryoseisuzuki.com

【PS】

どこへ行っても絶景が続くレソトの中でも、サニパスは群を抜いて良い場所でした。村に唯一あるホテルは南アフリカ側の経営で、各コテージに暖炉が付いていて、Wi-Fiも飛んでいます。南アからレンタカーで行けるようなので、身近な辺境として非常におすすめです。