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「プレゼンする」

著者: 牧野武文

「プレゼンする」

スーパー・ササダンゴ・マシンというプロレスラーをご存じだろうか。以前、新潟プロレスに所属し、現在はプロレス団体DDTに準所属、なぜか文化人枠で松竹芸能にも所属するという正体不明のマスクマンだ。桜庭和志選手といった人気レスラーとも対戦する実力派でありながら、最近では「煽りパワポ」で人気急上昇中でもある。

スーパー・ササダンゴ・マシン

新潟県出身。血液型は金型。2012年10月21日、新潟プロレスの新潟・福祉施設山王苑大会における、ときのひな戦でデビュー。主なタイトル獲得歴はKO-D6人タッグ。新潟在住の謎のマスクマンで、DDTには2013年7月15日、新潟市鳥屋野総合体育館大会で初登場。松竹芸能の文化人枠に所属してタレント活動も行っている。

レスラーはビッグマッチの直前に煽りパフォーマンスを行うことがよくある。会場を盛り上げるとともに、自分自身の闘志を鼓舞するためだ。多くは、マイクパフォーマンスや自作のビデオパフォーマンスを行うのだが、スーパー・ササダンゴ・マシンは、なぜか会場の演台に立ち、MacBookを開いて、パワーポイントで作成したスライドを使ってプレゼンテーションを行うのだ。この「煽りパワポ」の内容があまりにも面白すぎると評判になっている。

ビッグマッチの前には、MacBookを開いて、その試合の方針などをプレゼンする。このプレゼンで会場は大いに盛り上がる。

この「煽りパワポ」の人気の秘密は、プレゼンのレベルの高さにある。「見よう見まねでパワポを作りました」というノリではなく、相当数のプレゼンを実際にこなしている人であることがわかる。敵レスラーの商品としてのポートフォリオを分析し、「王者を譲って花形選手を増やしたほうが、団体としての収益率があがる」という結論で、暗に敵レスラーに負けることを勧めて煽ってみたり、自身の成長戦略を「既存市場、新規市場」「既存技術、新規技術」のマトリックスに当てはめ、自身は新技術(オリジナル必殺技)開発戦略をとるべきだと結論づけたりする。ビジネスの現場でも即通用する高い説得力があるプレゼンになっているのだ。

2014年、スーパー・ササダンゴ・マシンは、長いキャリアの中で初めてオリジナル技を開発した。これを新潟プロレスで_臨床実験”し、相手にインタビューすると「ヒットポイントが35%減った」という実地データを得ることに成功する。この減少率をグラフに描くと、なぜかリーマンショック後の日本の金型生産額の減少グラフと酷似していることを発見。こうして、必殺技「垂直落下式リーマンショック」が生まれた。スーパー・ササダンゴ・マシンは、HPを35%減少させるこの必殺技を3回繰り出せば、「相手をマットに沈めることができる。敵が企業であれば必ず倒産に追い込むことができる」と豪語している。

おわかりのとおり、この必殺技理論は「だいぶ怪しい」部分があるのだが、前半のプレゼンが的確すぎるために、このくだりに差しかかるときは、会場はすでに「ササダンゴマジック」にかかっている。

こんな達人クラスのプレゼンテクをもったマスクマン、スーパー・ササダンゴ・マシンとはいったい何者なのだろうか。

スーパー・ササダンゴ・マシンは謎のマスクマンということになっているが、ファンの間ではその正体は完全にバレている…!?

─MacBookは昔から使っていたのですか?

プライベートではずっとMacですね。iBookのときからです。iBookは2台ぐらい、MacBookエアになっても2台ぐらい買いました。そして、今はMacBookプロですね。

─なぜこのような「煽りパワポ」を始められたのでしょうか?

タイトルマッチに臨むにあたって、自分の意気込みを伝えたい。プロレス団体も企業ですから、自分が王者になった場合、団体にどのようなメリットがあるのかも示さなければなりません。同様に、自分が王者になるにはいくつもの課題があって、それをどのように解決していくのかということも示さなければなりません。

─でも、なぜ「パワポ」プレゼンなんでしょう?

プロレスを見にきてくださるお客さんは、僕と同世代の30代、40代の方が多いんです。仕事で、プレゼンを見たり、自分で作ったりすることも多いと思います。パワポで自分の思いを伝えれば、共感していただけるんじゃないかと思ったのです。

─しかし、あまりにもプレゼンスキルが高いのに驚きました。どこでそのスキルを学ばれたんですか?

実家が金型製作をする坂井精機という会社をやっていまして、それを継ぐために一度レスラーを引退しているんです。その後、経営を学ぶために新潟大学大学院の技術経営研究科に入学しまして、そこでプレゼンの技術や経営理論を教わっています。

─煽りパワポには、ピケティの格差理論など難しい内容も登場しますね。それも大学院で学ばれた?

そうです。僕はレスラー生活が長かったので、大学院で経営戦略や経済理論を教わっても、いったんプロレスに置き換えなければ理解できないんですね。だから、今でも大学院の先生からは「煽りパワポ」はケチョンケチョンにダメ出しされます。そういう割には学部の授業で、「煽りパワポ」をプレゼンの教材として使っているらしんですけど(笑)。

─ケチョンケチョンですか?

勝率に結びつかないんです。必殺技の開発プロセスや勝つための課題解決法をプレゼンするんですけど、花道の奥に控えている対戦レスラーもそのプレゼンを聞いているんでね(笑)。

─「煽りパワポ」がここまで人気になったことをご自身ではどう分析されていますか?

プロレスって、やっちゃいけないことをやることなんです。小学校で先生から叱られることだけをやるエンターテインメントなんです。大きな声で相手を罵ったり、相手を殴ったり蹴ったり、高いところから飛び降りたり、走り回ったり。それをやればやるほどお客さんは喜んでくれる。「煽りパワポ」はそのやっちゃいけないことの手順を説明するから面白いのかもしれません。普通の会議室のプレゼンでは、やっちゃいけないことはやりませんし、説明しませんよね。やっちゃいけないことばかりプレゼンするから「煽りパワポ」をお客さんは喜んでくれる。「煽りパワポ」はプロレスそのものなんですよ。

2014年6月29日、後楽園ホールで煽りパワポが初めて登場した。自己紹介のあと、対戦相手の的確なポートフォリオ分析が行われる。

次に自分の製品分析を行い、新規技術を既存市場に投入すべきだという結論を得て、新必殺技の開発を決意する。

新必殺技が相手のヒットポイントを減じていくグラフと、リーマンショック後の国内金型生産額のグラフが酷似していることを発見。こうして必殺技「垂直落下式リーマンショック」が生まれた。