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アプリデザインから考える

THEME 18 「行動先読みアプリ」がユーザの手間を極限まで減らす

著者: 宇野雄

THEME 18 「行動先読みアプリ」がユーザの手間を極限まで減らす

新しいUIの仕組み

近年、IoT(モノのインターネット)の本格的な幕開けにより、コンピュータやスマートフォンだけでなく、さまざまなモノがインターネットにつながり、それに伴い、新しいUIがたくさん生まれています。中には、スマートフォンの画面をまったく見ないで操作できる仕組みも出てきており(スマホをかざせば、自宅の鍵が自動的に開くシステムなど)、「入力」といった作業がいらなくなることもあるようです。こうした仕組みが今後増えてくるとしたら、究極的にはUIデザインという概念自体がいらなくなるのではないかという話まで出てきました。

将来、頭に思い浮かべた操作を感知するスマホが出たとしたら? Siriのようなアシスタント機能が、自分の未来の行動を先読みして必要な情報を教えてくれたら? もちろん、技術的な課題はまだまだ残っていますが、ユーザの操作をできるだけ省略しようというプロダクトや機能は、これから確実に増えていくでしょう。今回はそんな未来への一歩を踏み出している例を紹介します。

人の行動を先読みする

フォースクエア(Foursquare)やフェイスブックの「チェックイン機能」など、今いる場所の位置情報をほかの人に通知するアプリがあります。備忘録的に訪れた場所を記録している人が多いようですが、場所に着くたびにいちいちチェックインする動作は、どこか作業チックになってしまい、面倒ですよね。

それならば、こうした作業を自動化してしまおうという発想でできたのが「Moves」というアプリです?。このアプリはスマホで位置情報や移動速度を取得することで、「どの場所にどれくらいいたか」「どういう交通手段でどこまで移動したか」などを自動的に記録していきます。そのため「記録する」という単調な作業のためにアプリを起ち上げる必要がありません。

一方、人の行動を先読みすることで、作業を効率化する方法もいくつか考えられています。たとえば、以前ここで紹介したグーグル・ナウは、過去の行動履歴から予測を立てて、先読み提案してくれるという仕組みでした?。

それと似たような方法ですが、すでにある情報を利用し、効率化が図れるアプリがあります。たとえば、「明日15時に渋谷駅で友人と待ち合わせ」という予定が皆さんにあったとしたら、事前にその時間に間に合うよう、移動時間を調べると思います。しかし、今いる場所と行き先がわかっているならば、この一連の作業を自動化できると思いませんか?

「PROPELa」というアプリは、すでにカレンダーに登録してある情報を使って、ユーザの行動を先読みします?。要は、次の移動先への移動時間を自動的に調べてくれるのです。そのうえで、移動すべき時間に通知とその移動方法を提示してくれるので、「移動の時間を考える」「移動の手段を考える」といった機械的な作業から開放されます。

最近リリースされた、OS Xエルキャピタンにも、いわば先読みの機能が追加されています。メールで、連絡先に登録していない相手からメールが届くと、その相手を連絡先に登録するよう提案してくれるので、いちいち名前やメールアドレスなどを入力しなくても、ワンクリックで連絡先に登録ができるようになりました?。そのほか、待ち合わせなどの日時が入ったメールが届くと、その時間や場所をカレンダーに追加するように提案してくれる機能も追加されました?。

? Movesは毎日の運動、通勤、特定の場所で過ごした時間を自動的に追跡記録してくれるアプリです。iPhoneをポケットやバッグに入れたままで、特別な操作は必要ありません。

Moves

【発売】ProtoGeo

【価格】無料

【カテゴリ】AppStore>ヘルスケア/フィットネス

? グーグルのパーソナルアシスタントがグーグル・ナウです。バックグラウンドであらゆることを予測し、通知します。写真は、Gmailから、レストランの予約を割り出し、表示しています。

? PROPELaは、カレンダーの予定にある場所情報を元に、「予定から予定」への出発時刻を自動で可視化してくれます。カレンダーに開始時刻と終了時刻、場所を入力するだけでOKです。

PROPELa

【発売】TofuONE Inc.

【価格】無料

【カテゴリ】App Store>仕事効率化

? 連絡先に登録していない相手からメールが届くと、図のようにその相手を連絡先に登録するよう提案してくれます。これにより連絡先登録の手間がかなり軽減されます。

? メール内に待ち合わせなどの日時が入っていると、その時間や場所をカレンダーに追加するよう提案してくれます。

未来の操作方法は?

このようにさまざまな形で入力作業が軽減できる仕組みが生まれているわけですが、文字入力や操作に関して、キーボードやマウスに取って代わる方法はこれから出てくるのでしょうか?

文字入力では、OCRと呼ばれる自動文字認識の仕組みが、名刺管理やレシートの認識など身近な場所ですでに活かされています。印字された文字を、テキストで打ち直すという単調な作業は、可能であれば機械にまかせたいところですよね。

グーグル翻訳アプリでは、カメラ機能を利用して、カメラに写した単語を自動的に読み取ったうえで翻訳をしてくれます?。特に外国語を翻訳したい場合、読み方も入力の仕方すらもわからない文字がたくさんあるので、文字入力するよりも大幅に手間を軽減できることでしょう。

また、ジェスチャで操作をできるデバイスも多く出てきています。キネクトやリープモーション、リングなどが代表例です。こういったデバイスはマウスやトラックパッドなどが担っている細かい操作などには向いていませんが、逆にそれらが苦手とする動きが得意な場合もあります。

たとえば、「スフィロ(Sphero)」というボール型のデジタルトイがあります。これは通常、スマホのアプリで操作をしますが、本体が球体という特性もあり、そもそもあまり細かい動きができません。アプリ内の十字キーで操作をしようとすると繊細な操作ができないものに対して繊細な操作をしようとするので、うまく操作するのに骨が折れます。

そういった場合はリープモーションなどで手の動きを認識させて前進/後退などを行ったほうがより直感的ですし、細かい動作をしない分、感覚的に操作ができるでしょう。

? キーボード入力による翻訳はもちろんですが、カメラを使ってのリアルタイム翻訳も可能で、26言語に対応しています。また、キーボードを使わず、手書き入力も行えます。

Google翻訳

【発売】Google, Inc.

【価格】無料

【カテゴリ】App Store>辞書/辞典/その他

UIは不要になるのか

いずれ、マンガ『攻殻機動隊』のように、脳みそとインターネットがつながる時代が来れば、既存のUIはなくなってしまうかもしれません。そうなると、筆者のようなUIデザイナーの仕事はなくなってしまうのでしょうか?

UIとは、その意味のとおり、機械と人間の架け橋であり、単なる接点にすぎません。「UI」と聞くと、今はアプリやWEBサイトなど、特にユーザと接点の多い身近なものが思い浮かびますが、そこに機械と人間がある限り、UIは存在します。その接点をどのようにつなぐのか、そこで何ができたら便利なのかを考えるのは人間の仕事であり、UIデザイナーの力の見せ所です。

UIデザイナーとしてはむしろ、未来の世界のUIを見てみたくてワクワクしています。それが、時代とともに形を変えていくこの仕事の魅力なのだと思います。

【COLUMN】音声入力の未来

手軽に使える入力方法として、音声入力が挙げられます。Siriをイヤフォンマイクなどで利用すれば、iPhoneやアップル・ウォッチの画面を一切見ずに操作が可能です。現在、Siriはあくまで操作の起点(電話やアプリの起動など)にしか利用できませんが、そのうちアプリを起動したあとの操作もできるようになるでしょう。カーナビアプリの行き先を変更したり、近くのオススメのラーメン屋への行き方を指示してくれたり、音声だけでそれらの操作ができるようになれば使い方の幅は一気に広がりますよね。未来につながる機械と人の接点の持ち方として、今後も注目したいです。

【買収】

ライフログアプリ「Moves」を開発したのは、もともと「ProtoGeo」という企業でした。2014年4月にフェイスブックに買収され、同社の運用になっています。

【PROPELa】

「PROPELa」には移動状況の自動判別など、さまざまな便利機能が搭載されています。また、アップル・ウォッチにも対応しており、iPhoneをポケットから取り出すことなく、次の予定への出発時刻などが確認できるのです。

文●宇野雄

ヤフー株式会社にてUI/UX設計、デザイン、コーディングなどを担当。まったく新しいモノづくりよりも、すでにあるモノを新しい視点で捉えるデザインが好き。