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アップルはこれからの10年をどう変えるのか?

著者: 牧野武文

アップルはこれからの10年をどう変えるのか?

モバイルファーストの時代がもたらしたもの

私たちMacユーザにとってiPhoneの登場は大きな出来事だったが、世の中に大きなインパクトを与えた。当時インターネットは生活に浸透していたものの、あくまでもパソコンから使うメディアチャンネルのひとつで、テレビや新聞、映画と並ぶものでしかなかった。しかし、iPhone以降はネットが最優先のメディアで、その次にほかのメディアがくる意識へと変わった人も多いだろう。私たちの身体の周囲はモバイルインターネットが寄り添い、その外側に各種メディアが取り囲んでいる感覚になった。つまり「モバイルファースト」の時代になったのだ。

このモバイルファースト化の前後を比べてみると、私たちの暮らしは激変していることがわかる。たとえば、若者のワンルームでの生活は10年前と今ではがらりと様子が違っているのだ。一部のマニアを除いてオーディオ機器を持っている人はほとんどゼロに近く、iPhoneやブルートゥーススピーカを使ってアップル・ミュージックなどを楽しんでいる。

10年前はiPodが全盛であったが、それでも音楽ソースといえばCDが一般的だった。手持ちのCDやレンタル店で借りたCDを一生懸命iTunesに取り込んだ記憶がある人も多いはず。つまり、10年前まではラジカセやコンポは消えかかっていたが、CDドライブは部屋の中にあったのだ。ところが、今のMacには光学式ドライブすらついていない。この10年で完全に“円盤の時代”は終わったことになる。

モノを持たないミニマリストの登場

さらに、今の若者の部屋には据え置きの電話機がない。パソコンすら持たないことが多い。iPhoneがあれば加入電話やパソコンの出番はほとんどなくなる。レポートや卒論はどうやって書くのだと思うが、今の学生はiPhoneで書いてしまうのだという。「そんなばかな」と思われるかと思うが、実際に学生に話を聞いてみると納得できる。

普段、寝転がっていたり電車に乗っているときに書くべき要点やフレーズなどを思いついたそばからiPhoneのメモ帳に入力しておき、大学にあるパソコンでiPhoneに書き溜めたパーツを転送してワープロソフトで整えて提出するのだという。ノートもiPhoneカメラで撮影してクラウドに保存するだけだ。

そしてパソコンが必要ないため部屋にデスクというものが存在しない。そこには食事用のテーブルがあるだけだ。さらには本棚もない。これは人にもよるが、本の読み方もまるで昔とは異なる。10年くらい前までは、本は買って読んで本棚に並べるものだった。本棚は本の保存庫というよりも、自分の読書履歴を一覧して楽しめるものだった。それが今は小説のような2度読みしないタイプの本は、古書店で買って読み終わったらすぐ古書店に売ってしまうという「リース」に近い形態をとるようになっている。

電子書籍よりも紙の本が読みやすく、古書店のほうが安く手に入るというのだから合理的だ。一方で、名作漫画のような繰り返し読みたい作品は電子書籍に移行している。電子書籍の市場でコミックはそれなりの収益が上がっていて、それは「保存したいけど、場所を取られるのが嫌だ」というニーズに合っているからだと思われる。

また、テレビはまだ持っている人が多いが、本音を言うとなくしたいのだという。ある人は「レコーダ内蔵テレビだったら欲しいけど、録画できないテレビはいらない。ネット経由では見られない番組がまだ多いのでやむを得ずテレビを置いている」という。これもテレビの見方が完全に変わったことを示している。オンデマンドで自分の好きなコンテンツを見ることが標準で、地上波放送のように指定された時刻に見なければならない仕組みは不自由に感じているのだ。さらに壁掛け時計、目覚まし時計、カレンダーもない部屋がある。「iPhoneで充分、余計なものを置くのは目障り」ということらしい。

では、若者は新居に入るとき、いったいどんな家電や日用品を買っているのか。「洗濯機と冷蔵庫。ソファとテーブル、ベッド、間接照明にするための照明器具。あとは自分の好みで、壁や窓にタペストリーやカーテンなどで部屋の雰囲気づくりをする」ということらしい。10年前の部屋から比べると、恐ろしいほどモノがないシンプルな部屋になっている。これはiPhoneだけが原因ではないが、モバイルファーストの時代にはシンプル、ミニマルに価値が置かれるようになったのだ。

自動運転車が都市の集積度を上げる

では、これからの10年でどんな変化が起こるだろうか。間違いなく起こるのは「IoT(Internet of Things=モノのインターネット化)」だ。その中でもっとも世の中に影響を与えそうなのが、ドライバーレスカーと人工知能ロボットだろう。特に自動運転車の可能性は大きい。グーグルの走行実験レポートを見ると、公道走行距離が300万キロメートルを超え、無事故無違反(停車中のもらい事故と人間運転中の事故のみ)、法的な環境や安全試験の問題はあるが技術的には発売までのスケジュールが立てられるところまできている。

また、アップルもすでに自動運転車(当初は人が運転する電気自動車になるともいわれている)の開発を公言していて、このプロジェクト「タイタン」に従事するスタッフはすでに600人の大所帯になっているという。これを1000人規模に増員し、2019年には発売するという報道もある(アップルは公式にコメントしていない)。

日本でも自動運転技術の開発は進んでいるが、グーグルやアップルが決定的に違うのは「個人所有しない」ことが前提になっていることだ。社会で所有し、利用するときはiPhoneで予約して目の前まで来てもらい、目的地に着いたらリリースする。これで世の中の何が変わるかというと、施設に用意する「駐車場」が不要になるのだ。法改正は必要だが、土地の有効利用ができるのはもちろん都心に競技場やショッピングセンターといった大規模施設が作れることになる。

日本ではいまだに「地方創生」「都市への一極集中の解消」など人口の分散が大きなテーマになっているが、世界の多くの国では都市への人口集中が進んでいて「都市のさらなる集積化」が大きなテーマになっている。実際、東京区部の人口も平成7年に800万人程度で底を打ち、増加に転じている。都心の再開発が進んで都市生活の快適さが見直されていることが原因だろう。そのとき、駐車場不要で道路渋滞が起きづらいドライバーレスカーは必須の交通インフラとなる。

「アップルが自動車を作る」というと、とても突飛な印象を受けてしまうが、この10年というより1984年から世界を変えようとしてきたアップルが、これからの10年でさらに世の中を変えようとするのであれば、自動車に注目するのはしごく当然なことなのかもしれない。

部屋の写真を共有するSNS「RoomClip」では、2015年の夏に「モノを持たない暮らし:ミニマムライフインテリアコンテスト」を実施した。入賞作品の部屋のモノが少ないことに驚かされるが、こうしたミニマルライフはインテリアの新しい潮流になりつつある。【URL】http://roomclip.jp/

グーグルの自動運転車プロジェクトのWEBサイト。日本語字幕はないが、グーグルがなぜこのプロジェクトを進めるのか、どの段階まで到達しているのかが映像で解説されている。【URL】http://www.google.com/selfdrivingcar/

自動運転車に興味があるならTEDの講演「Google's driverless car」と「How a driverless car sees the road」を見ていただきたい。前者はドライバーレスカー開発に協力したセバスチャン・スルンが「米国で若者の死因第1位となっている交通事故で失われる命を救いたい」と訴え、後者はドライバーレスカーがどのように周辺状況を把握しているのかが詳しく解説されている。【URL】https://www.ted.com/

知恵の実の実【知恵の実の実】

グーグルデザインのドライバーレスカーの発売日は未定だが、現在の課題は技術的なことよりは法的環境の整備や安全性だ。数年のうちに、私道での運用が始まり、10年後には間違いなく公道を走っているだろう。

【知恵の実の実】

知恵の実の実自動運転車は高齢化社会にも大きなメリットがある。TEDの講演を見ると、自動運転車は周囲の動きを予測して走行ルートを決めるので、割り込みや赤信号無視で飛び出してくる自転車などにも対応できている。「自分よりも安全運転だ」とため息をついてしまう内容だ。