1秒1台ペースで
今年のブラックフライデーセールに、アップルは参加せずに主役になった。
ブラックフライデーというのは、感謝祭(11月の第四木曜日)の翌日の金曜日である。米国では年末商戦の開始日であり、小売店が軒並み大セールを行う。1年で最大のショッピングデーになる。「ブラック」と付けられているのは、この日1日の売り上げによって黒字になるほどのインパクトがあるからだ。普段は値引きをしないアップルもここ数年はブラックフライデーセールに参戦し、1日限りで値引きしたり、ギフトカードのおまけを付けてきた。ところが、今年アップルストアは通常通りの営業に徹した。
ブラックフライデーセールからの撤退は、小売・オンラインストアを切り回すアンジェラ・アーレンツ氏の意向である。「ビジネスを繁栄させるなら、まずは店員を重んじるべき」というのが同氏の考え方だ。スタッフに負担を強いて1日限りの特大セールを行うよりも、スタッフにも家族と感謝祭を祝う時間を与えたいと述べていた。
アップルストアの撤退にによって、ブラックフライデーセールからアップル製品が消えてしまったかというと、むしろここ数年でもっとも目立っていた。
アップルストアの代わりに、今年はターゲットやベスト・バイ、ステープルズ、サムズ・クラブといったアップル製品取り扱い店が、アップル製品をブラックフライデーセールの目玉にしたのだ。たとえば、iPadエア2の64GBモデルを150ドル引き、iPadミニ4の16GBモデルを100ドル引き、アップル・ウォッチが100ドル引きなど。ターゲットでは小売店とオンラインストアを合わせると1秒に1台のペースでiPadが売れた。ほかにもアップル・ウォッチやBeatsソロ2が感謝祭の連休のトップセラーに食い込み、2014年を上回る売上を達成した。
2013年に小売・オンラインストアの責任者に就任して以来、アップルストアの店員の意識を変えてきたアンジェラ・アーレンツ氏。たとえば、店員のスキルの向上が小売店の質の向上につながると、海外の小売店に店員を赴任させるプログラムを拡大し、小売店にグローバルな文化を根付かせた。
値引きは販売パートナーに?
感謝祭に店員を休ませるというのは、ブラックフライデーセール撤退の表向きの理由ではないかとも指摘されている。値引きではなくストアカードを提供するなど小売店ごとに値引きの方法は違っても、対象製品や値引きの程度に大きなばらつきはなかった。だから、2015年アップルは自身でブラックフライデーセールを行わず、販売パートナーのセールの支援に徹した可能性がある。そして、それは今回限りではなく、これからは販売パートナーをセールの窓口にする新たな販売チャンネル戦略ではないか、というわけだ。
本当のところはわからない。ただ、アップルはアップルストアを展開しながら、一方で直営店を置いていない地域をカバーしてくれる販売パートナーとの関係を築かなければならない。めったに値引きされないアップル製品は、小売店にとってブラックフライデーのようなライバルとの客の取り合いになる特別セールの看板商品になる。1日で黒字になるといわれるブラックフライデーだ。その効果は大きい。普段は値引きできず、アップルストアとの競争を強いられても、アップル製品を扱い続ける意義になる。
一方、アップルは値引きをしないという姿勢を貫くことで、アップルストアのステータスを築き上げられる。近年はiPhoneの新製品発売でも直営店の前の行列を避ける販売方法にシフトしている。特別セールで店内を混乱させるよりも、ブラックフライデーでも落ち着いてサービスを提供する場であったほうがアップルストアらしいといえるだろう。
自ら値引きすることなく、アップル製品は好調だった2015年のブラックフライデーセールをけん引する存在になった。これがアップルの戦略だったのだとしたら、まさに今年のブラックフライデーセールを同社は戦わずして勝ったことになる。
買い物客が殺到してオンラインストアがダウンするというトラブルに見舞われたものの、感謝祭の連休を通したブラックフライデーセールを成功させたターゲット。iPad、アップル・ウォッチ、アップルTVなどを値引き販売した。
【News Eye】
感謝祭の連休に外に出かけずに、自宅でモバイルデバイスを使って買い物をする人が年々増えている。カストーラのデータによると、2015年はオンラインストア利用者が39.3%。その内、iOSデバイス利用者は78.3%、アンドロイド端末利用者は21.5%だった。