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世の中には、製品やサービスが星の数ほど溢れていますが、それでもなお、新しいモノやコトが日々生まれ続けています。そんなさまざまなアイデアの中でも一際光るのが、制約の中で生まれたアイデアではないでしょうか。お金がない。資源がない。人が足りない。こうした制約があるからこそ、知恵を絞り出し、あっという斬新な発想が生まれる。
遠い昔に読んだ『貧乏トヨタの改善実行術』という書籍は、お金がない中で知恵を絞り、10を50に、そして50を100にする「改善」について語るものでした。世界には、それがもっとも必要とされている場所で、0を1にする、つまり「ないものを作る」ことにチャレンジする人達がいます。その「ないもの」とは、ずばり電力です。
2006年からさまざまな形状のソーラランタンを開発してきたパナソニックによれば、世界には「電気のない暮らし」を強いられる人たちが、実に13億人いるといいます。その多くは、アフリカやアジアなどの開発途上国の家庭です。家の各部屋に灯りがともり、夜になると規則正しくネオンがきらめく日本の生活からは想像もつきません。
家は真っ暗なため、近くの道路に街灯があれば、そのもとで勉強する子どもたち。家に灯りがある家庭でも、灯油ランプが使われることが多いので、火災の危険や煙で健康を害すリスクと常に隣り合わせの生活です。こうした子どもたちが、日中はサッカーに興じていることに着目して誕生したのが、「ソケット(The Soccket)」です。2008年、ハーバード大学の学生4名によって開発されました。ボールが転がる際に発せられる運動エネルギーを蓄えて、それをあとから充電や電気などの電力として使うことができるサッカーボール。30分間サッカーをすることで、1つのLEDライトを数時間ともすことができます。
毎日のようにお天道様に恵まれるロサンゼルスでは、太陽光発電の導入が進んでいるようです。当たり前ですが、太陽光発電は「晴れている」という前提に立って機能する仕組み。つまり、太陽が沈んでしまう夜間は、完全に稼働時間外になってしまう。そんな中、片時も離れることなく私たちとともにある「重力」に着目したのが、「グラビティライト (Gravity Light)」です。鎖歯車から吊るした重り(石や砂)が、1分間に 0・0 4インチのスピードで落ちることでジェネレータを動かし、LEDライトが25分間点灯します。2016年の出荷を予定し、価格は一体20ドルほど。毎月、世帯収入の約20パーセントが灯油代に消える家庭の経済的負担をも軽減します。
これまでに88カ国で100万個以上が販売されているのが、2012年に登場した「ルーシー(Luci)」です。太陽の下に置くことで、最大12時間ライトを照らすもの。ビーチボールのような素材でできたルーシーは、ウォータープルーフで、軽量かつ壊れにくいという性質を持っています。使わないときは折り畳めて、空気を吹き込んで膨らませるだけで使えるため、アウトドアキャンピング利用者なども愛用。同形状のランタンは、パナソニックやランドポートなども開発しています。
無電化地域に電力を届けるという社会的課題に対するこれらのソリューションは、比較的安価で持ちが良く、利用者に新たな習慣の習得を強いることなく、その生活に自然な形で灯りをもたらします。また、継続的なソリューション提供のために、先進国での収益化も考え、先進国と途上国間の連携も育んでいます。たとえば、ソケットは先進国の利用者が一球購入すると、途上国の子どものもとにも一球届けられる仕組みなのだとか。
太陽が昇るたび、サッカーボールが蹴られるたび、重力がかかるたび、灯りがともる。制約の中だからこそ生まれた知恵とアイデアの最たる例がここにあります。
Yukari Mitsuhashi
米国LA在住のライター。ITベンチャーを経て2010年に独立し、国内外のIT企業を取材する。ニューズウィーク日本版やIT系メディアなどで執筆。映画「ソーシャル・ネットワーク」の字幕監修にも携わる。