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テクノロジーに見るアップルの革新

2015年のMacにはこんな「未来」がつまっている●Apple製品購入ガイド2016?

2015年のMacにはこんな「未来」がつまっている●Apple製品購入ガイド2016?

【Technology 1】CPUは世代じゃない省電力とのバランスがキモ

Macは多くのウィンドウズPCと同じインテル製のCPUを搭載しています。ただし、最新世代に移行するスピードは決して速くありません。この年末商戦には第6世代コア・プロセッサ(スカイレーク)を搭載したウィンドウズPCが多数登場していますが、Macは27インチのiMacが搭載するのみで、多くは第5世代コア・プロセッサ(ブロードウェル)にとどまっています。

では、Macが劣っているかというと、そんなことはありません。新世代のCPUによって、コンピュータのパフォーマンスがめざましく向上したのは一昔前の話。CPUの処理性能が十分な域に達してからは、パフォーマンスの伸びは劇的ではなくなり、省電力とのバランスが図られるようになりました。ここ数年の開発では、実使用時、特に高負荷時の消費電力を低減させる効率化や、内蔵するGPUの性能強化などが進められています。

もちろん性能重視のデスクトップPC向けCPUには、パフォーマンスが問われます。ただ、今やそうしたCPUを必要とするのは映像制作のプロやゲーマーなどの一部のみ。現在主流のモバイルPC向けCPUでは性能面で世代にこだわる必要はありません。むしろ問われるのは、消費電力とパフォーマンスのバランスに対するPCメーカーのビジョンです。

インテル第5世代コアの一員である「コアM(Core M)プロセッサ」はTDP(熱設計電力)枠が4.5ワットと低く、第4世代の製品に比べると若干性能は劣るものの、それ以上に大きな省電力性能を実現しています。こうしたCPUの進化はシステム設計の自由度を生み、その可能性にしっかりと取り組むことで、これまでになかったマシンが実現します。その好例が12インチのMacBookです。コアMを搭載したファンレスPCはいくつも登場していましたが、MacBookほどコアMの真価を引き出し、モバイルPCの未来を示した製品はありませんでした。

今年5月に登場した15インチのMacBookプロは第5世代コアを搭載せず、第4世代コアのままでした。第5世代コアの開発の遅れで標準電圧版が短命に終わるのをアップルが嫌った形ですが、見方を変えると性能面だけなら一世代程度で無理に採用するほどの差はないということです。

【Technology 2】進化する統合型GPU今や4Kにも対応

フォントやコンテンツを美しく表示することにこだわるアップルにとって、GPUはMacの重要なパーツです。GPUの役割はグラフィックス・レンダリングだけではありません。並列処理性能を活かせる演算処理にも利用されており、CPUにかかる負担をシステム全体に分散させる役割も担っています。今日のGPUはコンピュータのもう1つの頭脳と呼ばれるほどなのです。

アップルは、プロ向け機種には独立型のGPUを搭載していますが、廉価帯や普及帯ではCPU統合型(CPUに内蔵された)GPUを採用します。この統合型GPUに対して「非力」というイメージがあるようです。しかし、ここ数年のCPUの進化において、CPUメーカーは積極的に統合型GPUの進化に力を注いできました。その結果、インテルは同社がGPUに取り組み始めた2006年から100倍もの性能向上を果たしています。そのグラフィックス性能がMacの要求を満たせるなら、統合型GPUからは省電力や省スペース、低コストといったメリットを引き出せます。

アップルは統合型GPUのパフォーマンス面での成長を見越して、Macのロードマップを描いてきました。たとえば4K環境です。今年iPhone 6sシリーズが4K動画の撮影に対応しましたが、Macでは昨年、インテルの統合GPUの上位シリーズにあたる「Iris Pro」を積極的に採用し、またサンダーボルト2へ移行して4K出力を可能にしてきました。最近でも、Iris Pro Graphics 6200を用いて21インチiMacの4K化を果たすなど、ユーザが4Kコンテンツを扱える環境を着々と整えています。

OS Xエルキャピタンは、よりダイレクトにGPUの性能を引き出せるグラフィックスAPI、メタル(Metal)をサポートします。ゲームをはじめとする、さまざまな用途でグラフィックスの向上が期待されています。ゲームグラフィックスには力不足だと思われてきた統合型GPUですが、それを引き上げることで、高性能なGPUのユーザに限られていたリッチなグラフィックスの世界を、アップルはすべてのMacユーザに広げようとしています。

Iris Proの登場で統合GPUによる4K出力が現実になりましたが、4Kディスプレイを使うための帯域幅を確保する必要があり、最大20Gbpsの転送速度を実現するサンダーボルト2が、その要求に応えました。

【Technology 3】ストレージの高速化が進行高価格への対応策も

PC関連の記事などで「ボトルネック」という言葉を目にしたことがあると思います。ビンの首が細いと、中身がちょろちょろとしか流れ出てきません。転じて、コンピュータシステムではデータの流れを悪くする部分をボトルネックと呼んでいます。つまり、CPUやGPUが高速でも、どこかにボトルネックが存在していたらシステム全体の体感速度は遅くなるのです。

HDDがストレージに使われていた頃は、HDDがボトルネックになっていました。容量こそ大きく増えていたものの、ディスクの読み書きの速度の伸びは停滞していたからです。そこでアップルはボトルネックを解消するために、積極的にフラッシュストレージ(SSD)への移行を進めました。フラッシュストレージは高速なだけではなく、消費電力が少なく、発熱も小さいというメリットがあり、Macの薄型・軽量化にも貢献しました。

その後もシステム全体の性能向上を整えるために、アップルはストレージの強化に努めています。フラッシュメモリの高速化によってSATAの転送速度がボトルネックになるのを見越して、PCIエクスプレスバスを使った接続を採用。2レーン分(x2)を使ってストレージを接続していたのを、Macプロから4レーン(x4)接続に拡大し、MacBookシリーズにもPCIエクスプレスx4接続を広げています。12インチのMacBookにはNVMエクスプレス対応のストレージを採用しました。

フラッシュストレージにはGBあたりの価格が高いという弱点があり、大容量ストレージは高価になります。そこでアップルは、デスクトップ機種向けに、フュージョンドライブを用意しました。HDDに比べたら高価ですが、大量のデータ保存と作業の体感速度向上を両立させられる効果的な投資になります。価格によるボトルネックまでアップルは解消しているのです。

Macミニの下位モデルは5400rpm(回転/分)のHDDを搭載しています。それをフュージョンドライブにアップグレードすると、システムの起動は2.2倍、4GBのファイルコピーは4倍に向上します。

【Technology 4】解像度以上の進化がここにレティナは本当に美しい

人間の網膜が認識できる限界を超えた解像度という意味で用いられる「レティナ」。iPhoneを皮切りに、iPadやMacでも次々に採用されるようになり、アップル製品のディスプレイの標準規格になりつつあります。

実際にレティナで表示した文章を凝視すると、本当の印刷物のようにフォントのラインがなめらかに表示されて、その高精細さにため息が出てきます。しかし、今では高解像度のディスプレイを搭載したコンピュータはたくさんあります。でも、レティナディスプレイと同じようにテキストや写真を美しく映し出すディスプレイは決して多くはありません。

つまり、高解像度であるということは、レティナである要因の1つに過ぎないのです。たとえば、最新のiMacのディスプレイは赤色・緑色蛍光体のLEDを採用し、一般的なsRGBよりも25%も広いP3の色域をカバーしています。現実の世界を映し出すような正確でバランスの良い色です。TCONと呼ばれるタイミングコントローラがピクセル1つずつを正確に動作させ、補償フィルムとIPSパネルによって広い視野角で同じようにきれいな表示を実現しています。ディスプレイのエッジがわずか5ミリと薄いのも、画面の美しい表示を際立たせています。

上質なヘッドフォンが広い音域でバランスよく繊細に音を表現するように、レティナディスプレイは私たちが普段網膜で捉える自然な色を鮮やかに映し出します。そんな体験を実現するディスプレイを、アップルはレティナと呼んでいるのです。最新のレティナのように色が表現されれば、写真本来の美しさをディスプレイで楽しめます。メールや文書作成、WEB閲覧などでも、フォントがきれいに表示されると作業に集中でき、また目の疲れも抑えられます。一般ユーザからプロフェッショナルまで、レティナはあらゆるユーザに大きな恩恵をもたらしています。

レティナ搭載のiMacは、タイミングコントローラ、ピクセルの干渉を防ぐ有機パッシベーション、コントラストを整える光配向、ディスプレイから出る光を制御する補償フィルムなどを配して「キャリブレーションいらず」といわれる精密な色補正を行っています。

【Technology 5】バタフライ構造のキーボードは究極のキータッチ

キーボードの好みは人それぞれですが、長時間使っても疲れず、正確にタイピングし続けられるキーボードが望ましいことに異論はないと思います。そのためには軽いキータッチが適していると多くの人間工学の専門家が指摘しています。それならばキーストロークが浅いキーボードのほうが疲れないように思えますが、実はその距離よりも打鍵感のほうがポイントになるそうです。つまり、ストロークが短くても、ソフト過ぎたり、打鍵感にばらつきがあると手は疲れます。すべてのキーで安定して、軽いけど、しっかりとした打感があってこそ快適にタイピングし続けられるのです。

アップルが目指しているのは、手首や指に無理なく自然に打てるキーボードです。浅いキーストロークを1つの解として、長くシザー構造のキーボードを提供し続けてきましたが、理想のキータッチを目指してキーボードの再設計に取り組みました。そして誕生したのが、今年4月発売のMacBookに採用されたバタフライ構造のキーボードです。キートップ下で支える機構が左右対称になっていて、シザー構造よりもキーが40パーセントほど薄くなりました。手を置いただけで押されてしまいそうな見た目ですが、各キーは適度な反発力を備えています。慣れるのに時間を要するものの、使いこなせるようになったら、なめらかにタイピングできるようになります。

つい見逃してしまいますが、打鍵の音もタイピングを快適にする要素の1つです。アップルは「正しいキータッチには正しい音が必要」と考えて、キーボードの開発ではアコースティックテストを徹底しています。望ましい音が得られなければ、構造や素材から見直すこともあるそうです。そのようにして作り出された打鍵音は、ユーザの集中の邪魔をせず、キーを快適に打てるリズムを作り出す音になっています。

キーごとにLEDを配置した新しいバックライトと、中央が大きく均等に開くバタフライ構造の組み合わせによって、バックライト点灯時にキーキャップの文字がクリアに浮かび上がるようになっています。

【Technology 6】「感圧タッチ」という新しい操作体験を実現

数多あるコンピュータの中で、MacだけがMacと呼ばれて区別されているのは、MacがMacにしかない利用体験を常に提供してきたからです。グラフィカルユーザインターフェイス、ユニボディ、高速なフラッシュストレージなど、さまざまなテクノロジーがMacによって世に送り出され、やがて業界のスタンダードになっていきました。

2015年が終わろうとする今、Macらしい利用体験を生み出しているテクノロジーを1つ挙げるとしたらトラックパッドに採用された感圧タッチです。コンピュータを選ぶうえでトラックパッドの違いなんて小さな要因だと思うかもしれません。でも、ガラス製の大きなトラックパッドもMacにしかない体験を実現していました。一度MacBookのトラックパッドを使ったら、それまで気にならなかったほかのトラックパッドの表面のざらつきや反応の悪さが不快になり、使いにくく感じられるようになります。

ガラス製の大きなトラックパッドが従来のトラックパッドの進化形だとすると、感圧タッチトラックパッドは再設計といえます。感圧タッチは圧力を感知できる感圧センサと、圧力に対して振動を返すTapticエンジンで構成されています。見た目も使い方も従来のトラックパッドと同じなので、感圧タッチに気づかないユーザも少なくありません。でも、感圧トラックパッドは、ダイビングボード式の機構では押せなかった上端部分を含むパッドの全体が圧力に反応します。そして感圧センサがタップ、クリック、強いクリックといった圧力の違いを感じ分けられるので、押す力の変化を使ったトラックパッドの新たな操作が広がります。

その違いに気づいて感圧タッチを使いこなし始めたら、Macの操作性や生産性がどんどん向上していきます。そのうちに従来のトラックパッドに触れたときに、強いクリックを認識しないことを不便に感じるようになるでしょう。もう以前のトラックパッドには戻れなくなってしまいます。

マルチタッチジェスチャを感知するガラスパネルの背面に張り付くように感圧センサが配置されていて、パッドを押すとTapticエンジンが裏側から叩くような振動を返して、擬似的にクリック感を作り出します。

【Technology 7】モバイルノートの未来に不可欠なUSB-C

アップルは、MacBookでUSB-Cをいち早く導入しました。しかも拡張インターフェイスがUSB-Cポート1つのみという思い切った実装だったため、賛否両論の大きな議論を巻き起こしたことは記憶に新しいでしょう。アップルのハードウェアに関する2015年最大の事件だったといえます。

USB-Cは、将来のモバイル機器を見越して設けられたUSBケーブルとコネクタの新仕様です。コネクタは小型で表裏のないデザインで、ケーブルは高速なUSB 3.1規格に対応したデータ伝送と大容量給電を1本に集約できます。ただ、MacBookのように電源ポートが外部機器の接続用ポートを兼ねると、アダプタを利用しない限り、充電中は外部機器を利用できません。拡張性を重んじるユーザからは戸惑いと不満の声が上がりました。

アップルには、これまでにもフロッピードライブやADBポート、光学式ドライブなどをばっさりと切り捨ててきた過去があります。でも、同社が新しいテクノロジーをユーザに強いるような設計をしたときは、マルチメディアやストリーミングといった新しい利用スタイルへの移行を加速させようとしたときでした。

MacBookで実現しようとしているのは、ワイヤレスでクラウドにつながるモバイル環境です。外付けストレージもUSBドライブも必要ない、高速な無線LANでどこからでもアクセスできるユビキタスな環境です。考えてみると、私たちはノートブックに外部機器を接続するのを当たり前と思い、持ち出すときに外していました。それではモビリティが損なわれます。MacBookは優先順位が逆なのです。いつでも持ち出せるように普段は充電ケーブルだけで使用し、どうしても必要なときにはアダプタで外部接続機器をつなぐというスタイル。モバイルノートの使い方として、どちらが自然であるかは明白です。それが可能になるのはデータ伝送と大容量給電を1つに集約できるテクノロジーが存在してこそ。だからアップルはいち早くUSB-Cを採用し、USB-Cによって実現するモバイルを形にしたのです。

グーグルのエンジニアが米アマゾンのレビューで、仕様を満たしていないUSB-C変換機器を次々に糾弾したことが話題になりました。USB-Cはまだ周辺機器ベンダーの混乱が収まっていないほど、新しい仕様なのです。