コンテンツブロックの自由化
今年9月にiOS 9がリリースされ、新たに実装されたコンテンツブロックAPIを利用した広告ブロックアプリが次々に登場した。広告ネットワーク事業者やWEB媒体は猛反発し、モバイルWEB全体を巻き込む広告ブロック戦争の幕開けといわれたが、それから数カ月が経ち、好転の兆しが見え始めている。
広告ブロックがなぜ大きな対立を生み出したかというと、WEBのビジネスモデルが大きく影響している。多くのWEBサイトやサービスは広告で収益を上げ、ユーザが無料で利用できる仕組みを採っているが、広告の増加はページの表示速度に影響し、モバイルではパケット通信料を消費する。また、WEBでの行動をトラッキングされることに抵抗を感じるユーザも多い。スマートフォンは数多くのセンサを搭載し、ユーザのさまざまな情報を記録するだけになおさらだ。
一方で、媒体やサイトの運営者は広告をブロックされると、大きな収入源を絶たれてしまう。ページを広告まみれにし、ユーザデータの収集にしのぎを削る業者が多いのも事実だが、広告モデルを利用して良質な情報を発信している媒体もあり、広告ブロックはWEBの生態系を崩しかねないと懸念されている。またアップルが、情報やコンテンツに触れる方法の主流をアプリに引き込もうとしている、という意見もある。アップルが提供する「ニュース」アプリを含めて、アプリはサファリのコンテンツブロックの影響を受けないからだ。
いずれの主張にもうなずけるところがあり、議論は堂々巡りである。アップルは同機能の実装を公の場で喧伝しておらず、真の目的がどこにあるのかもわからない。
ユーザのための広告を
一時は広告関連組織や媒体が訴訟を匂わせ、広告ブロック対策技術の導入を宣言するなど波乱の様相を呈していた。しかし、広告を提供する側に非があったのも事実であり、進歩的な解決の糸口が見え始めている。
インタラクティブ広告の業者団体であるIABは行き過ぎた広告提供の非を認め、CEOのランダル・ローゼンバーグ氏が4つの提言を行った。「WEBの閲覧を遅延させない」「コンテンツを優先する」「消費者に広告を押しつけない」「媒体は利用体験の管理を行う」である。ユーザが不快に感じず、ユーザの興味を引くように広告を提供することで、コンテンツとの共存を図るというわけだ。また世界新聞・ニュース発行者協会(WAN-IFRA)とデジタルメディアの業界団体であるデジタルコンテンツネクスト(DCN)も共同で、消費者から信頼される広告を提供する「広告2.0」の実現を呼びかけた。
もちろん、これらの提案が徹底されるとは限らないが、今日のユーザは広告ブロックという「盾」を手に入れた。提案が実行されなければ、盾で身を守ればよい。広告関連組織や媒体は広告ブロッカーの攻撃性を非難しながらも、ユーザとの対立は避けようとしている。
一方で広告ブロッカーも、ユーザが無闇に振りかざして良質な媒体や広告ネットワークまで潰してしまうと不利益を生む。使い方によっては諸刃の剣になるだけに、ブロックの適用にもルールが設けられるべきである。そこでファイアフォックスなどを開発する非営利団体モジラ(Mozilla)がコンテンツブロックの3原則を提言している。広告のみをターゲットにせず、ユーザにとって有害なコンテンツをブロックする「中立性」。ブロックされている内容をユーザが管理できる「透明性とコントロール」。そしてWEB全般において公平にブロックが実行される「オープンネス」だ。
広告提供側、ブロック側、今はまだどちらの動きも提案の段階に過ぎない。だが、ユーザを中心にコンテンツと広告が共存共栄できる方向に進み始めたのは大きな前進である。
広告ブロッカー「クリスタル(Crystal)」で広告をブロックする前(左)と後(右)。広告ブロッカーのベンダーは、広告がモバイルWEBの利用体験を損なっていると強く非難している。
【URL】http://goo.gl/LbmzgM
英紙ガーディアンは広告ブロッカーのユーザに対して、率直に同紙のサポートを訴えかけ、有料メンバーシップのページを紹介している。
ニュースサイト「re/code」では、WAN-IFRAとDCNのCEOが「広告2.0」に進むための議論を提案した。
【URL】http://recode.net/2015/09/24/advertising-2-0-a-call-to-think/
広告ブロッカー「ピース(Peace)」は、公開の2日後、作者により削除された。作者のマルコ・アーメント氏は、「ブロッカーは有用なアプリだが、行儀の良い広告もブロックしてしまう。その差異は調整可能だが、私は裁定者になりたくはない」とブログに綴っている。
【News Eye】
かつて、アップルがiOSでフラッシュ(Flash)をサポートしなかったことも論争になったが、今年8月、ついに「グーグル・クローム」もフラッシュを使用した広告をデフォルトでブロックするように変更された。ノートPCやタブレットなどの電力消費を抑えるためだという。