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DEPによって実現したIBMのMac導入に迫る

生産性を向上しつつ、コストも削減「Mac@IBM」成功の理由

著者: 山下洋一

生産性を向上しつつ、コストも削減「Mac@IBM」成功の理由

予想を上回るMac使用率

IBMは早くからiOSデバイスを同社の業務に導入し、昨年4月にはiOSを用いた企業向けモバイルソリューションの提供でアップルと提携した。IBMはモバイルにおけるアップルのビジネスパートナーであり、大きな顧客でもある。そんなIBMでも、Macの導入を開始するまでにはしばらく時間がかかった。PCに比べると価格が高く、新しいプラットフォームを追加するには専用のサポートチームを用意しなければならないため、コスト増に二の足を踏んだのだ。

この春にMacの導入に乗り出したのは、iOSデバイスの導入が成功したことと、多くの社員からMacの採用を求められたからだ。調達コストの問題についても、パートナーシップを通じてアップルの企業文化に触れ、同じグローバル企業であるアップルの効率的なデバイス管理に一考の価値を認めた。そして、まずはBYOD(Bring Your Own Device、私的デバイスの業務活用)でMacの使用を解禁した。

フォレスターリサーチの分析によると、企業で社員がMacの使用を求める理由のトップは「仕事のツールの選択」である。そして、ツールをみずから選択したい理由のトップは「生産性の向上と効率化」である。それらの実現はワークライフバランスの向上にもつながる。

BYODでMacを利用する社員の伸びを見て、IBMは今年5月に「Mac@IBM」をスタートさせた。社員は業務用のコンピュータにウィンドウズ、リナックス、Macのいずれかを選択できる。当初の見通しでは年末までに5万台の導入が予定されていたが、Macはそれを大きく上回る1900台/週のペースで選ばれており、4カ月で3万台を突破した。

ヘルプ利用者わずか5%

IBMにとってMacの導入は、単なる新しいPCプラットフォームの追加では済まない。企業では、一度導入したレガシーなインフラやソフトウェア、周辺機器との互換性が長い間重んじられてきた。そうした古いものを切り捨てて、より柔軟に前進するよう、環境も考え方も変えていかなければならない。

IBMは、アップルの提供する一括導入ソリューション「DEP(Device Enrollment Program)」をMacで利用する最初の顧客になった。企業がデバイスを一括導入する場合、社内のITスタッフがそれぞれの環境で使用できるようにカスタマイズするキッティング作業を行う。DEPでは、キッティングまでアップルで行われたうえで出荷される。顧客企業は納入されたMacを社員にそのまま配付するだけ。社員がそれぞれのアカウントでログインしたら、すぐに業務で使えるようになる。PCを大量導入する企業ではキッティングが社内スタッフの負担になっており、業者に依頼することも多い。いずれのケースでも、DEPは導入コストの削減につながる。

アップルは企業向けにビデオなどを用いたセルフサポートの仕組みを充実させている。社員がみずから問題を解決しやすく、IBMではPCユーザの40%がヘルプデスクを利用しているのに対して、Macユーザの利用者はわずか5%と少ない。しかも、ほぼすべてが1回のヘルプスタッフへの連絡で問題を解決できている。アップルデバイスのヘルプスタッフは24人で、社員5375人に対してスタッフ1人という割合だ。これはまだ調整段階であり、ヘルプスタッフは十分な数には達していないが、業界平均の242人対1人に比べると比率の差は圧倒的だ。こうしたサポート費用の削減に加えて、残存価額の違いなども考慮すると、Macは1台につきPCよりも約270ドルのコスト削減につながるそうだ。

IBMはサポート費用の削減分をヘルプデスク関連のテクノロジーへの再投資に充てており、また社内にジーニアスバーを開設する計画も進めている。

アップルは2014年のWWDCで、iOS 8のエンタープライズ向け機能の目玉としてDEPをアピールした。そうしたポストPC時代の業務用デバイスのあり方をIBMは認め、同社はMacでいち早くDEPを採用した。

BMのMac@IBMプログラムでは、納入されたままのMacにセルフサポート・ページのアドレスが書かれたポストイットを1枚貼って社員に配付する。【URL】http://www.jamfsoftware.com/resources/mac-ibm-zero-to-30000-in-6-months-video/

一般のMacユーザがセットアップ時にアイクラウドアカウントを入力して簡単にパーソナライズを済ませるのと同じように、IBMでも社員アカウントを使って社員がみずから業務用のセットアップを完了できる。【URL】http://www.jamfsoftware.com/resources/mac-ibm-zero-to-30000-in-6-months-video/

Mac@IBMの半年間の成果は、2015JAMFネーションユーザカンファレンスにおいて、IBMのWorkplace-as-a-Service事業を担当するバイスプレジデント、フレッチャー・プレビン氏が講演した。【URL】https://twitter.com/jamfsoftware/status/654325446616576000

【News Eye】

第4四半期決算発表などでティム・クックCEOが公表したデータによると、2015年度のアップルのエンタープライズ関連の売上は250億ドルだった。全体の売上高2340億ドルに比べるとまだ小さいものの、前年度比40%増の大きな伸びを記録している。