Mac業界の最新動向はもちろん、読者の皆様にいち早くお伝えしたい重要な情報、
日々の取材活動や編集作業を通して感じた雑感などを読みやすいスタイルで提供します。

Mac Fan メールマガジン

掲載日:

Box Works、Adobe Maxで感じたこれからのMac

クリエイティブ=Macは過去の話? iPad Proこそが未来の鍵か

著者: 松村太郎

クリエイティブ=Macは過去の話? iPad Proこそが未来の鍵か

攻勢をかけるマイクロソフト

アドビシステムズ(以下、アドビ)は毎年ロサンゼルスで行われるクリエイティブの祭典「アドビ・マックス(Adobe Max)」を、10月3日~7日の日程で開催した。今年は最大規模の6000人が世界中から参加。最新のアドビ製アプリやクラウドサービスに耳を傾け、互いに刺激を与え合い、コミュニティの連帯を確認するイベントとなった。

2015年はフォトショップが25周年を迎えたこともあり、イベントブースでは1990年に発売されたMacintosh Classicで動作するフォトショップ1.0が展示されていた。当時を知る人ならば、ここからフォトショップがデザイナー、出版業、印刷業などのプロフェッショナル業界に浸透していき、フォトショップを使うためにMacを導入する人が増え、「デザインやクリエイティブにはMac」を印象づけたことをご存じだろう。こうした理由から、今でもアドビ製品といえばアップル、そんなイメージを持つ人も少なくないはずだ。

しかし、その印象は、過去のものになりつつある。アドビ・マックスを例にすれば、同イベントの最大のスポンサーはマイクロソフトであり、昨年は参加者全員に同社のタブレットスタイルのPC「サーフェス・プロ(Surface Pro 3)」が配られていた。また、アドビはすでに同社のクリエイティブアプリを購読型サービスへ移行していることから、会場ではMacを主として使っているデザイナーも、同じアプリをサーフェスプロ3ですぐに試していた。

さらに、アドビは今年のアドビ・マックスでフォトショップやイラストレータといった主要アプリをタッチ操作に対応させ、直感的な操作性をデスクトップでも行えるようにしたことをアピール。アップルはタッチ操作対応のMacを発売していないため、すっかり蚊帳の外に置かれてしまった。つまり、タッチ対応のトレンド、ソフトのパフォーマンスの最適化も含め、Mac=クリエイティブ作業というイメージはすでにない。裏を返せば、マイクロソフトのアドビ・マックスに対するプロモーションは実にうまく、クラウド時代の環境移行のしやすさを体験させる意味でも実に効果的であったといえる。

今年のアドビ・マックスでは、フォトショップ25周年を記念して、Macintosh Classicとフォトショップ1.0、そして1990年当時の調度品を揃えた展示を行っていた。

Macのお株は奪われた

現在のアップルのビジネスの半分以上はiPhoneが占めている。その要因はiPhoneが一般消費者へと広く浸透したことであり、アップルはiPhoneを糸口としてほかのアップル製品を訴求し、売上を拡大しようと目論む。ビジネスの教科書に出てくるような真っ当な発想といえるが、その正しい戦略はMacの市場での立場を弱くしかねない。

アップル・ウォッチがiPhoneユーザのためのウェアラブルデバイスであるように、今では「アイクラウド(iCloud)」や「ハンドオフ(Handoff)」機能を介してiPhoneと連携できるMacもまた、iPhoneのアクセサリとしての側面が強まっている。その結果、Macにはプロフェッショナルやクリエイティブといった印象が薄れつつあるからだ。それはノート型Macで顕著であり、現に最新のMacBookはiPhoneと同じカラーリングで揃えることはできたものの、搭載されているインテル・コアMプロセッサは、お世辞にもパフォーマンスマシンが採用するCPUではなかった。

その一方、ノートパソコンとタブレットを両立するマイクロソフトの「サーフェス・ブック(Surface Book)」は、MacBookプロ15インチの2倍の性能をうたい、初回分の予約はすでに売り切れだ。ハイパフォーマンスで薄型軽量のモバイルマシンのお株は、完全にマイクロソフトに奪われてしまった格好だ。

アップルのティム・クックCEOは、9月下旬にサンフランシスコで行われた「ボックスワークス(BoxWorks)」に登壇し、改めてOS XとiOSの融合はないと明言している。まるで登場前のサーフェス・ブックの考え方に賛同しないことを示唆していたようだった。ではこれから、アップルはどのようにしてコンピューティングの世界を再構築し、マイクロソフトに対抗していこうと考えているのだろうか。

アップルのティム・クックCEO。ボックス・ワークスに登壇し、ボックスのCEOであるアーロン・レビ−(Aaron Levie)氏と対談した。

モバイルはまだまだ伸びる

ボックス・ワークスの場でアップルのティム・クックCEOは、モバイルが企業を強くする、との考え方を披露した。同時に、エンタープライズ市場の「新参者」としてすでに協業に取り組んでいるIBM、シスコシステムズ、そしてエンタープライズ向けクラウドサービス「ボックス(Box)」などのパートナーとの連携を強化する姿勢を見せた。

すなわち、エンタープライズ向けモバイル市場はまだ伸びしろが大きく、取り組むべき分野であるとの方針を示したのだ。その戦略を実現するきっかけが、iPadプロである。アップルはiPadプロについて、過去1年に発売されたPCの8割よりも高い処理性能、9割より高いグラフィックス性能であることを豪語する。また純正のペンシルとキーボードカバーを用意し、サーフェス・プロよりも快適に動作するインターフェイスを目指している。

iPadプロ発表時には、マイクロソフトとアドビがiPadプロでのデモを行い、優れた操作性に加えてその顔ぶれにも会場は驚いた。アドビ・マックスの貴重講演でも、iPadプロがデモで利用され、またクリエイターにいち早くiPadプロの書き味を体験してもらうためのプライベートイベントを開催する力の入れようだった。

我々の生活におけるコンピューティングの大きな部分を、iPadもしくはiPadプロがカバーできるまでに充実している。iPadの売上はここ1年低迷しているが、こうしたエンタープライズ向けの取り組みとiPadプロによるパソコンの代替は、トレンドに変化を加えるきっかけとなるはずだ。

アドビ・マックスの貴重講演では、iPadプロを使ったデモが行われた。「フォトショップ・フィックス(Photoshop Fix)」による写真の修正や「アドビ・コンプCC(Adobe Comp CC)」「アドビ・キャプチャCC(Adobe Capture CC)」といったアプリを連携させたポスターデザインは、モバイルデバイスのクリエイティブ活用の新たな時代を感じさせてくれた。

その上でMacの未来

アップルは10月13日に、iMacシリーズの刷新を行った。27インチモデルは5Kレティナディスプレイのみに統一し、21・5インチモデルには4Kレティナモデルを追加。 注目はディスプレイの品質向上だ。新しいデジタルシネマの色空間の標準であるDCI−P3をサポートし、これまでと比較しても格段に色の再現性が高まっており、市場でこのディスプレイだけ購入しようとしてもiMac本体とさほど変わらない値段になる。

これは製品ラインアップで横断的にレティナディスプレイを採用する流れの一貫ではあるが、Macに対しては、よりハイエンドのプロ向けの道具としての側面を打ち出していくことで、モバイルはiPad、デスクトップはMacという棲み分けを明確化しようとしているようにも映る。

MacはiPhoneやiPadが売れ続ける限り、そのアプリを開発するための唯一の手段として、一定の販売増を見込むことができる。そのため、プログラミングもこなせるMacBookエアを進化させる必要もあるだろう。ただ、Macのメインストリームは、よりプロを意識した存在になるのではないだろうか。

だとすれば、失いつつある「クリエイティブはMac」というイメージを、新しい形で再び取り戻せるかもしれない。しかし、これまでのようにすべてをMacでこなす世界ではない。

アドビは今回のイベントで「クリエイティブ・シンク(Creative Sync)」と呼ばれる、デバイスやアプリ間で横断的に作業データやフォント、デザイン素材などを同期・共有することができる機能を発表した。これにより、すべての機能を備えるデスクトップ向けアプリに加えて、1つずつの機能を快適なタッチもしくはペン操作で実現できるモバイルデバイス向けアプリが、創作活動で活用しやすくなった。 アドビだけでなくマイクロソフトも、クラウドを活かしてモバイルデバイスもワークフローに参加させられるようにしている。結果的に、タブレットは、こうしたビジネスやクリエイティブの現場で活躍できるようになる。

こうした再定義が行われている中で、Macが再び、クリエイティブの代名詞の座を勝ち取るには、プロの道具としての側面を強化する、妥協なきスペックの追究が最適だろう。iMac 4Kモデル、iMac 5Kモデルからはそのこだわりが感じられる。ノート型のMacについても、iPhoneのお供ではない存在感が出てくることに期待したい。

アドビが披露したクリエイティブ・シンクは、作業データやデザイン素材をプロジェクトとしてクラウドに同期・共有できる機能。これにより、アドビのモバイルアプリもより円滑にデザイン作業に取り組めるようになった。

アドビ・マックス期間中、アップルはプライベートパーティーを開き、ワインやビールを片手に、未発売のiPadプロをデザイナーに触ってもらう機会を作った。写真右は、アップルでマーケティング担当上級副社長を務めるMichael Tchao氏。

【NewsEye】

アドビ・マックスでは、アドビのフォトストックサービス「アドビ・ストック(Adobe Stock)」のアップデートも発表された。約4000万点のロイヤリティフリーの画像のみならず、動画素材も使えるようになったのがトピックだ。

【NewsEye】

マイクロソフトは、タブレットとノートPCの2in1スタイルを実現する新型サーフェス・ブックをイベントで即日展示。キーボードとディスプレイを分離でき、キーボード部分に外部グラフィックスプロセッサを搭載して、ハイパフォーマンスにも対応する。