【Innovation 5】知られざる「ホームハブ」としての要素
アップルTVには、アップル自身があまり触れていない隠れた役割もある。それは、ホームハブ、すなわち本当の意味での「家庭の中心」になるということだ。アップルは以前に、Macがデジタルライフスタイルのハブになるというデジタルハブ構想を打ち出したことがあったが、近い将来にはアップルTVこそがIoT系のスマート家電などと連係するハブの役割を担うと考えられる。
ホームキットとの相性
これから、いわゆるスマートホームの流れが加速していくと、メーカーを越えてさまざまなスマート家電を結びつけ、連係して機能できるようにする標準的な枠組みが必要となる。アップルは、iOSデバイスの普及率の高さを背景に、そうした仕組みを自ら構築する必要性を感じ、2014年6月にホームキット(HomeKit)というフレームワークを発表した。
ホームキットは、当初、iOSデバイスからスマート家電をコントロールしたり、スマート家電同士の連係を容易にするために開発されたが、iPhoneやiPadは外に持ち出されて家の中にないことも多いため、インテリジェントなリモコンとしての用途が主体になる可能性が高い。しかし、常にリビングに置かれ、インターネットに常時高速接続されているアップルTVは、恒常的にスマート家電との間で情報交換や制御ができ、アイクラウドとのデータのやりとりにも適している。
その意味で、アップルTVとtvOSこそがホームキットの能力を最大限に活用でき、家の頭脳として機能するものと期待できる。
娯楽面を強調する理由
では、ここまでホームキットとの相性が良いにも関わらず、なぜアップルは現時点でこの分野におけるアップルTVのメリットについて、多くを語ろうとしないのだろうか? そこには、以下のような理由があると考えられる。
まず、さまざまな要素を勘案して製品発表のタイミングを決めることで知られるアップルとしては、今はエンターテインメントを強調するほうが家庭内に入れやすいと踏んでいること。
確かに業界的にはIoT(モノのインターネット)がトレンドでありバズワードとなっているが、ごく普通の家庭で実際にIoT系の家電製品を導入しているところはまだ少ない。そこにいきなりハブを投入しても、つながる機器もなく、ユーザ体験が損なわれるだろう。また、新たにそうした機器を導入するにはかなりの費用がかかってしまう。それならば、IoT家電がもう少し普及し、機が熟してから、実はアップルTVはハブに最適というアナウンスをするほうが新たな購入に結びつきやすいといえる。
次に、ホームキットが発表されてから1年以上経つが、対応製品の登場が遅れているという事情。その理由として、アップルがサードパーティに要求しているセキュリティ機能の組み込みなどの作業負荷が大きいことが挙げられる。
ホームキット対応製品が揃えば、アップル・ストアで扱うことで売り上げにもつながるため、こちらのラインアップの充実を待ったほうが良いとの判断が働いても不思議ではないわけだ。
そして、それらの理由とも不可分だが、アップルは情報を小出しにして常に注目を集めることが得意である。現時点では、新型アップルTVはSiriリモートやアプリ、ゲームに対応したことだけでも話題性十分なので、ホームキット関連の情報は次の機会のためにとっておいたという部分もあるだろう。
いずれにしてもアップルTVの隠し玉は、近い将来に、製品の別の魅力としてクロースアップされることになるはずだ。
外出先からもアクセス
アップルTV(第3世代以降)があれば、外出先からでもSiriコマンドを使ってホームキット対応のスマート家電を操作できる。iOSデバイスと自宅のアップルTVで、同じアップルIDを使ってアイクラウドにサインインしている必要がある。
日本国内で買えるホームキット対応製品
ホームキットの発表から1年以上が経ち、ようやく日本でも対応製品の販売が開始された。ドイツのElgato Systems社の製品である、ワイヤレスホームセンサEveシリーズ「イブ・ルーム(Eve Room)」と「イブ・ウェザー(Eve Weather)」だ。設置した場所や空間の温度や湿度、エアクオリティ(空気中の有機化学物質の状況)などをiPhoneやiPadのアプリを通じてモニタリングすることができる。こうした対応製品が充実していくにつれ、アップルTVの「ホームハブ」としての役割は強まっていくに違いない。
Eve Room / Eve Weather
【販売】ソフトバンクコマース&サービス
【価格】1万1232円(ルーム)、6912円(ウェザー)
iOSデバイス&Macとの連係で広がる用途
アップルTVは、単体でも十分に利用できるが、他のアップル製品(iOSデバイス、Mac)との組み合わせにより、その価値はさらにアップする。それは、純正のクラウドサービスであるアイクラウドとの連係や、ワイヤレスのメディアストリーミング技術のエアプレイ(AirPlay)の活用だ。このコラムでは、それらを使いこなすことによって生まれるメリットを紹介しよう。
自分のコンテンツを迫力ある大画面で
アップルTVは、アイクラウドを介して写真アルバム全体や直近撮影分のフォトシェアリング、あるいはミュージック/動画ライブラリの共有が可能だ。特に、写真や動画はテレビの大画面で表示または再生すると、iOSデバイスやMacの画面以上の迫力で楽しむことができる。
アップルTVでアイクラウドを利用するには、当然ながらアイクラウドにログインする必要がある。ログインしていない場合には、ホームスクリーンの「設定」を選び、表示される画面から[iCloud]を選択してサインインを行う。
一方で、たとえば写真の場合、iOSでは設定アプリから[iCloud]を選び、項目リストから「写真」を選択すると(「写真」アプリの設定でも可)、アイクラウド・フォトライブラリとマイフォトストリームのオン/オフスイッチが現れる。前者は、写真アルバム全体を共有するので便利だが、アイクラウドの空容量に余裕がない場合には後者のマイフォトストリームのみのオンでも十分メリットがある。
Macでは、システム環境設定の[iCloud]の項目リストにある[写真]の「オプション」を選ぶと同様の設定項目が現れる。
これらの設定の完了後に、アップルTV側でアイクラウド・フォトアプリを開き、目的のライブラリやストリームを選択すれば、アイクラウドに保存されている写真を表示したり、スクリーンセーバで利用することができる。
ビジネスや教育でも使えるエアプレイ
アップルTVが第2世代モデル以降でサポートしているエアプレイは、Wi−Fi環境がなくてもピア・ツー・ピアで映像や音楽をワイヤレスストリーミングできる技術だ(ピア・ツー・ピア接続は第3世代のRev・A以降のモデルでサポート)。エアプレイの利用時には、アップルTVは受信側となり、iOSデバイスやMacが送信側となる。
ポイントは、iOSデバイスやMacの画面をそのままミラーリングできることだ。つまり、資料やプレゼンテーションの手元での表示と操作を、そのままアップルTVに接続した大型テレビやプロジェクタで映し出せるのである。
しかも、ワイヤレスなので話し手は自由に動き回ることができ、別の参加者や学生のデバイス内の資料を表示するのも、個々の画面からアップルTVを選択するだけで済む。
アップルTVでのエアプレイの設定は、ホームスクリーンの[設定]を選び、[AirPlay]を選択して「入」にすればよい。また、アップルTVへの接続時に、パスワードまたはオンスクリーンコードによる認証もかけられる。
Macとの連係では、ミラーリングか個別ディスプレイとして作業スペースを広げるかを選ぶこともできる。
自宅でも大画面で作業したいときなどに使えるので、アップルTVを手に入れたら、ぜひ試したい機能だ。