?パーソナルコンピュータがユーザにとって能動的なツールであるのに対し、テレビは受動的な製品だ。しかし、そのスクリーンは、すでにリビングに存在している大型の表示デバイスだといえる。アップルTVは、この大画面を同社のエコシステムに組み込むために開発された。そして、同社はあるべきセットトップボックスの姿を求めて、地道に改良を続けてきたのだった。
故ジョブズ肝いりの製品
アップルTVは、もともと2006年9月に、「iTV」というプロジェクト名で発表された製品だ。ただし、その時点ではまだ開発段階にあり、実際に発売されたのは2007年1月だった。アップルが開発中の製品に関する情報を前倒しで漏らすことのない企業として知られていることを思えば、その登場の仕方は異例といえたが、新ジャンルのプロダクトだけに、前倒しの発表によって、消費者やコンテンツプロバイダーの反応を探る目的もあったものと推測される。
アップルTVは、いわゆるセットトップボックスというカテゴリに属している。既存のデジタルテレビやプロジェクタに接続して、コンピュータ上のiTunesと同期することで音楽や動画を再生できる製品としてスタートした(のちのソフトウェア・アップデートにより、単独でiTunesストアにアクセスできるようになった)。
ところが、故スティーブ・ジョブズが「アップルTVはホビーに過ぎない」と言い続けたように、特に第1世代モデルの販売台数は決して多いものではなかった。それでも、開発をやめることなく改良を続けてきたのは、彼自身が特別な思いでこのプロジェクトを推進していたことの証だと考えられる。
たとえば、コンパクトなキューブ型PCの先駆けとなった「Power Mac G4 Cube」もジョブズのお気に入りの製品だったが、販売不振のためにわずか1年で製造中止された。それを思うと、アップルTVがいかに特別扱いをされてきたかがわかるだろう。
リビング攻略の鍵
2010年に発売した第2世代モデルでは、製品サイズが約4分の1に小型化され、大胆な低価格化を実現した。さらに、コンテンツのダウンロード販売をレンタル形式に改め、アメリカでは映画だけでなく大手放送局の人気番組もラインアップに加えたことで、販売に弾みがつき始めた。その後も、2012年の第3世代モデルで、プロセッサの高速化や出力解像度の向上などの改良が加えられ、ついに第4世代モデルへとバトンタッチされるところまできたのである。
アップルが、ここまでアップルTVにこだわる理由は、ジョブズが亡くなる前に取材を受けた公式伝記の中にヒントがある。彼自身が「ほかの機器やアイクラウドとシームレスに同期」し、「想像もつかないほどシンプルなインターフェイスを持つ」テレビを開発中であると明らかにしているのだ。
結局のところ、ディスプレイ付きのアップルTVは(おそらく消費者にテレビを丸ごと買い替えさせる必要があることのリスクから)お蔵入りとなったが、そのコアとなる部分を独立させたものが最新モデルだと考えてよい。つまり、既存のアップル製品やアイクラウドとの相性も良く、ボイスコマンドとタッチコントロールに対応したSiriリモートによって操作される、インテリジェントなセットトップボックスであり、これで既存のテレビが抱えている課題を一掃しようというわけだ。
アップルは、デスクトップ(Mac)、モバイル(iOSデバイス)、ウェアラブル(アップル・ウォッチ)と3つのセグメントでそれぞれの存在感を示してきたが、アップルTVはそのエコシステムをリビングにまで広げるうえで必要不可欠な存在なのである。
消費者と開発者のメリット
第4世代のアップルTVの登場により、消費者は、直感的な操作方法で、ストレスなく観たいコンテンツや遊びたいゲーム、使いたいアプリを利用できるようになる。その中には人気のテレビ番組も含まれ、ラインアップが充実するに連れて、これこそが新たなテレビの在り方を示す存在となるはずだ。
また、アプリ開発者にとっては、アップルTV専用のアップストアが起ち上がったことで、Siriリモートや大画面に対応した新世代アプリを販売するチャンスが訪れた。それは、iPhoneやiPadがそうだったように、新たなスターデベロッパーを生み出す契機になるに違いない。
時代の要請に即した進化の系譜
ここで、最新の第4世代モデルへとつながる歴代アップルTVの特徴を振り返ってみよう。
そこには、アップルが時代と技術の進化を睨みながら
理想のセットトップボックスの姿を模索してきた軌跡が見てとれる。
【第1世代】2007年
第1世代モデルは、Macのコンパニオンデバイスとしての性格が強く、特にリリース当初は、iTunesで管理されている動画コンテンツをシンクロして、テレビの大画面で楽しむための周辺機器という位置づけだった。
Macとの接続は無線LAN(IEEE 802.11b/g/nドラフト)もしくは有線のイーサネットを介して行われ、40GBまたは160GBの内蔵ハードディスクにコンテンツを保存することができた(価格は40GBモデルで3万6800円)。また、CPUには1.0GHzのインテルCroftonプロセッサを搭載し、アップル製品としては初めてデジタルテレビ接続用のHDMI端子とコンポーネントビデオ端子を備え、出力解像度は720pに対応していた。付属のアップル・リモート(アップルTV用のリモコン)は、樹脂製のものが採用された。
2008年のソフトウェア・アップデートで直接iTunesストアにアクセスすることが可能となり、GUIも変更されて、徐々に独立した製品へと立ち位置が変化していくことになる。
【第2世代】2010年
第2世代モデルでは思い切った改良が行われた。動画の再生をレンタルとストリーミングに限定することで大容量のハードディスクを割愛。さらに、コンポーネントビデオ端子をなくして、従来の約4分の1の本体サイズと8800円の低価格を実現したのである。
レンタルコンテンツには大手放送局の人気テレビ番組、ストリーミングにはネットフリックスも加わり、スマートテレビ的な性格が強まった。また、CPUは純正のA4プロセッサが採用され、アップル・リモートもアルミ製の高級感あるものに変更された。
革新的だったのは、エアプレイ(AirPlay)の受信機能を初めて備え、iOSデバイスからの動画と音楽のストリーム再生や画面のミラーリングのサポートも進めていったことだ。この機能はプレゼンテーションなどにも応用できたため、学校の教室や企業の会議室などへアップルTVが導入されていくきっかけともなった。
【第3世代】2012年
第3世代モデルでは、第2世代の外観はそのままに、基本性能の向上が図られた。CPUはシングルコアのA5プロセッサとなり、出力解像度も1080pのフルハイビジョンへとグレードアップされた。さらに、2013年にマイナーアップデートされたRev. Aと呼ばれるバージョンでは、エアプレイをWi-Fiネットワーク環境なしにピア・ツー・ピアで行えるようになり、利便性が一層高まった。
【第4世代】2015年
今回登場した第4世代アップルTV。次ページから詳しく解説していくが、デュアルコアのA8プロセッサの搭載による大幅な性能向上と並んで、画期的なSiriリモートが採用されたことや、サードパーティへのアプリ開発の解禁と専用のアップストアの開設に大きな意義がある。
アプリを保存するために新たにストレージ用のメモリを搭載し、その容量の違いから32GBモデルと64GBモデルが用意される。筐体デザインは、第2世代や第3世代と共通のモチーフだが、厚みが23ミリから35ミリへと増えた。増加部分は主にヒートシンクで占められ、性能の高さを暗示している。
Wi-Fiあるいはイーサネットケーブルで、インターネットに常時接続されることが前提のアップルTV。HDMIケーブルでテレビと接続することで、iTunesストアほか、さまざまなコンテンツをテレビの大画面で楽しむことができる。 【価格】1万8400円(32GB)、2万4800円(64GB) 【サイズ】35(H)x98(W)x98(D)ミリ 【重さ】425グラム 【プロセッサ】64ビット アップル・デュアルコアA8