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さまざまな断捨離が進んでいくアップルストア直営店

変革を迎えるアップルストア 次に狙う「優良顧客」はいったい誰?

著者: 氷川りそな

変革を迎えるアップルストア 次に狙う「優良顧客」はいったい誰?

直営店の「静かな改革」

アップル・ウォッチ(Apple Watch)の発売と前後して、アップルの直営店「アップルストア」の店内が変わりつつあることにお気づきだろうか。メインプロダクトとしてアップル・ウォッチが大きくフィーチャーされ、ストア内のかなりのウェイトを占めていることにはじめ、その変化は大きなものから小さなものまで多岐にわたる。

たとえば、周辺機器やソフトウェア、ケースといったアクセサリ類が大幅に整理され、棚から消えていっている。それがたとえアップル製品でも例外ではなく、純正の周辺機器にもかかわらず店頭に出ていないものもある(しかし、バックストックのみで取り扱っているものもあり、スタッフに問い合わせれば購入は可能だ)。

これに続くように、7月にはアップルストア内で取り扱うサードパーティ製品のパッケージを、白に統一する動きを開始。シンプルなデザインにすることで、陳列されている棚全体に対して、種類の多さよりも「並んでいる見た目の美しさ」をより重視したようなプラノグラム(棚割り)へと切り替えている。

レイアウト変更はさらに続いた。8月中旬、iPad 2を使った商品説明ディスプレイ「スマートサイン」をフロアから撤退。iPadを使ったデジタルサイネージショウケースとしての役割も果たしてきたこのソリューションだが、テーブルスペースをよりすっきりとシンプルに見せるアップルの意向に沿って終了したとみられる。今後は、それぞれのデバイスの中に専用アプリ「価格と仕様」がインストールされ、製品を触りながらその製品の詳細を確認できるようになった。

そして、9月には10年近く続けてきたパーソナルトレーニングサービス「One to One」の終了を決定。既存の加入者にはサービス終了を通知するメールがアップルから送られているという。

次世代の顧客を求めて

こうした動きが意味するものは何だろうか。サードパーティ製品の充実は「アップル製品は対応する周辺機器やアクセサリが少ない」という誤解や不満に対するソリューションの提供であったし、パーソナルトレーニングは「周りにMacを学習できる環境や機会がない」というニーズを、アップルが率先して満たそうとする意欲的なサービスの1つだったはずだ。

「よりよい体験が顧客のロイヤリティ(忠誠・満足度)を高める」というのは小売ビジネスでは常識であり、鉄則でもあるといえる。その点でもアップルは非常に優れており、業界内でも「more than a retail(従来の小売店以上の存在)」と評されるビジネスモデルを築いてきたのは間違いない。

しかし、こういった過去の資産を切り離してでもアップルは次のステップに進もうとしている。かつては、取り扱い店舗もユーザ数も少なかったアップル製品だが、いまやスマートフォンのシェアはもとより、タブレットやコンピュータ、あらゆるIT機器の分野においてアップル製品の利用者は過去と比較にならないほど増えている。それに呼応するように周辺機器やアクセサリも増え、今では1つの「エコシステム(生態系)」を形成していると指摘されるほどにマーケットは成長した。その点では直営店の限られたスペースで無理やりすべての製品を取り揃える必要がなくなった背景がある。

もう1つ、ここ数年で変化したのは顧客層だ。iPhoneの爆発的なヒットはアップル製品を「コンピュータにあまり詳しくない層」にまで一気にリーチしたが、その反面従来のアップルユーザに備わっていたコンピューティングに関する基本的なリテラシーも持たないユーザが大多数を占めるようになった。加えてアップル・ウォッチのような製品はファッション業界などを中心として、これまでITに関係がなかった分野でアップルがその存在感を示し始めている。

ファッションやアートといった分野では、CPUの速さやストレージやメモリのサイズ、カメラの画素数といった従来までのスペックは指標にならない。その代わり、デザインの「かわいらしさ」や「質感」といったものが重視され、評価される世界だ。彼らは性能ではなくデザインそのものに対価を払う、いわば「優良顧客」としてはこのうえない存在だ。ここを取り込むためには、優れたデザインや機能をもつ製品を絞り込んで取り揃え、よりわかりやすく、明確なメッセージで伝える必要がある。アップルストアの転換が見据えるその視線は、従来の延長線上にない別のものを探し続けているのだ。

Photo●Apple

【NewsEye】

本稿執筆時点ではすでにOne to Oneメンバー向けのグループトレーニングの開催終了を予定しており、トレーニングサービスは無料で開催されているワークショップへと移行し、こちらのサービスが今後拡充していくとみられる。