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オリジナルキャラで探求するクリエイティブ表現の奥義

14 キャラクターをつくる〈塗装編〉

著者: 佐分利仁

14 キャラクターをつくる〈塗装編〉

5号ぶりになるが、フィギュアづくりがようやくクライマックスを迎える。3Dプリントで作成したボディ(3月号掲載)を今回塗装し、次回で完成となる予定だ。

塗装が決めるクオリティ

塗装はあらゆるものの品質を決める非常に重要な要素。車だろうと携帯電話だろうとオモチャだろうとパソコンだろうと、塗装が綺麗かどうかでかなり満足度が違うはず。塗装がチープだといわゆる「質感」が悪く感じてしまい、購買意欲も下がる。映像も似たようなところがあり、手数が足りてないと、特に最近の高解像度化でインパクトが不足してしまう。

映像の中に使うフィギュアも、解像度が高くなればなるほど細かいディテールを施さないとチープな印象になってしまう。3DCGもモデリング以上にテクスチャが大事だといわれており、その精度で最終的な品質に差が出てしまう。WEBサイトみたいな平面のデザインでも、パーツの質感に工夫があると全体的な雰囲気が一気によくなったりする。つまり、何かをつくるときに、何が一番影響があるのか、何を間引いても影響が少ないのかの塩梅を把握することによって、工期と品質のバランスを計ることができるようになる。

コダワリと時間の関係

理想からいえば、ものづくりの現場はできるだけの時間を欲しがるもの。アイデアを研究したり、試作する時間も欲しい。最高のものにしたいので、煮詰めていく時間も欲しい。しかし、たいていなんらかの締め切りが存在し、間に合わせる必要が出てくる。常に最大限の出力をできるスキルやセンスを養うのも大事だが、思ってるより時間を削られてしまうことも多々ある。そんなとき、クリエイターは何ができるのか。

僕は超トップレベルの天才的職人に比べるとスキルが足りないので、「いい感じに手を抜く」分析をすることにしてる(怒られそう)。先に書いたように、どの工程が最終出力に対してインパクトが大きく、どこは手を抜いて時間短縮してもよいのかを把握して、残された時間をどう使うと纏まるかを検討している。もちろん、時間はあったほうがいいけど、時間がないなりに品質を最後まで犠牲にしないほうに比重を置いている。

Macintosh Plus風の塗装と適度な汚しを施す

完成したボディは、3Dプリントで出てしまう積層をもう少し丁寧に磨くべきだったが、当時の工業用プラスティックの特徴であるキナリに塗装して、最後に透明のコートを施して、レトロな質感を再現できた。墨をティッシュでポンポンと撫でるように汚しをつけ、30年前風の雰囲気に。

 

【サブ】3Dプリントを塗装する際平坦にするのが大変

3Dプリント素材のホワイトアクリルは、プリント用の素材としてはかなりスムーズなものではあるが、そのまま塗装すると結構隙間が目立つようになってしまう。今回、簡単にパテで埋めて磨いたが、もっと丁寧にしたほうがよかったと反省。簡単にプリントできる時代ではあるが、形状ができてから塗装する前の処理が非常に手間なのが課題。一番安いナイロンだと表面も粗く、かなり労力も時間を要する。

 

【サブ】基本のキナリペイントをスプレーする

使用したのは缶で売っているノンフロン、アクリルスプレーでバニラという色。最近の缶スプレーは広い範囲で均一に噴射されるようになっているので、15センチ以上離したところから一定速度で吹き付けるだけでそんなに技術がいらない。厚く塗らずに、全体的に塗ったら乾燥させ、それを数回重ねると綺麗に仕上がる。これは要らないダンボールの上で吹き付けたが、新聞紙でもなんでもOK。換気がよいところで行う。

 

【サブ】マークの色入れはアクリル絵の具

プラモデルなどが得意な人だともっと上手にできると思うけど、とりあえずなるべく細い筆を買ってきて、アクリル絵の具でリンゴマークを塗装した。旧ロゴみたいに6色ストライプにしようと思って6色分買ってきてたが、技術が足りず、1色にすることにした。パソコンが得意な人だったら、最近はデカール(転写画)をインクジェットプリンタでつくることもできる。

 

【サブ】「汚し」て全体的にディテールを追加

プラモデルなどでは常識だが「使用感」を追加すると、かなりリアルな印象になる。このフィギュアはボディがレトロMacなので、汚れを追加することによって、よりノスタルジックな佇まいになると考え、墨をティッシュにつけ、汚れが溜まりやすそうな細部のところや入り組んでいる場所を中心に黒くかすれるように塗りつけた。本来は一番上の層に汚れがくるが、最後に保護層としてクリアラッカーを吹き付けて、プラスティックの光沢を表現して完成。

 

【サブ】iPhone 4を入れてボディ部分完成

ちょっと留めが甘く下がっているが、iPhone 4をハメて光らせると、ほぼMacintosh Plus風な雰囲気になって完成。ミニチュアをつくる際は、なるべく細かなディテールを追加して、映像の説得力を上げるように手間を惜しまないほうがよい。特に最近はHDでの撮影が基本で、いずれ4Kになっていくので、この手間はよりいっそう大事になってくるはずだ。

【サブの補足】

長年いた東京を去り、2015年8月からは会社も自宅も石川県の金沢市に越した。インターネットや物流がよくなったこと、北陸新幹線などのインフラ整備、そして仲間がいっぱいできたことなどを総合的に考え、移住することにした。

【サブの補足】

もちろん、仕事の中心は変わらず東京や世界をメインと思っており、現地の仕事を奪うみたいなことはしない。キョービちょっとした打ち合わせならスカイプなどでも行えるし、自分や家族の毎日の環境がよいほうを選んでみた。

佐分利 仁(さぶり・じん/サブリン)

企画/グラフィック/映像/WEB/アプリ開発/音楽など幅広く活躍。制作会社「メタルレッド」代表取締役クリエイティブディレクター。ハリウッド映画「ウルヴァリン:SAMURAI」の空撮などを手がける。【URL】http://metalred.com/