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第30話 英語=グローバルという誤解

著者: 上野美香

第30話 英語=グローバルという誤解

いろいろなところで耳にしたり目にすることが多い「グローバル」という言葉。世界で活躍できる人材、世界で勝負しようという製品や会社を表現するときに使われますね。セミナーや転職資料、イベントなどでも頻繁に用いられるキーワードです。将来子どもに言語や国籍を超えて活躍してもらいたいという理由で、英語教育投資に積極的な人もいます。グローバルである(世界で活躍する)とは、どんな状態で、そこにはどんなスキルが必要だと思いますか。「英語が話せること」と同義になっていないでしょうか。

私はごくごく普通の一般家庭出身で、学生時代の留学や家族で海外移住などといった機会はまったくありませんでした。それでも、縁あって海外(主に米国)に本社があるベンチャーの日本支社で働くことが多かったのですが、仕事や日本以外の友人たちとのやりとりをとおして実感するのは、グローバルなチームの中で働いたり活動するとき、英語が流暢に話せることは最重要事項にならないということです。それ以上に大切なポイントがあると感じています。

グローバルなチームでは、日本人の数は少なくマイノリティであることが一般的です。そうした中で自分の立場を明確にし、自らの強みや提供できる価値を伝えられるかどうか、というのが自分のポジションを得る最初の一歩になってきます。

そのうえで、出身地も育った環境も職種も違う人が集まって議論したり物事を進めたりするわけですが、考え方やものの見方、その伝え方は本当に多様です。多様というと聞こえはいいかもしれませんが、視点がまるっきり逆だったりすることもあれば、その考えは一体どこからくるの? というくらい根本から違うこともあります。自分の中にはないそうした発想を、まずそういう考えもあるのだと理解しようと努めなければいけません。でもそれは相手にとっても同じ。お互い違うもの同士なのですから、自分も違う(理解されていない)ことを前提に説明したり、やって示したりしなければなりません。考え方や発想の違いなどは、文化の違いとよくいわれますが、文化を形成する言語の成り立ちが違えば思考回路そのものが違ってくるんだなということを日々実感しています。

日本人の場合は共感というか、横のつながりというか、何かしら同質性を求めたり感じたりすることが多いと思いますが、「根本から違う」こうしたやりとりの中では「感覚」でわかり合えるような要素はまったくありません。でもそれが世界。日本国内でもいろいろな人がいるように、日本という枠を出れば(出なくても入ってくる時代ですが)「違う」レベルが異なります。そういう人たちがごちゃまぜの中で、目的のためにそれぞれがどう役割を担ってどう対応するか、プロとして対等に渡り合うのがグローバルなチーム。英語が話せればグローバル、とはいかないのです。これは日本に限ったことではなく、たとえばアメリカでも同じで、“グローバル”チームといいながら、自分たち(アメリカ)のやり方や考え方でやっていれば世界に通用すると思っている人たち、意外に多いんです。これはアウト。

ツールとしての共通言語はとても大事ですが、それ以上に自分の育った環境と国、文化をしっかり理解して自分のアイデンティティを確立し、それを強みとしてきちっと表現できることが重要です。そして、自分とは根本から違う考えや文化があることを理解しようとする姿勢を持ち、違うことが当たり前の環境の中で相手を尊重しつつ物事を進められること。そうしたことが、グローバルな仕事をするうえではとても大切だと思います。

Mika Ueno

ネット・IT系企業のマーケティング、広報、IRに関する業務支援を行うフリーランサー。Twitter Japan、音楽家坂本龍一氏の「skmtSocial project」を経て、現在Evernote日本法人にてマーケティングを担当。TED×Tokyoにも関わる。