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目指すは医療従事者と医薬品・医療機器メーカーの橋渡し

著者: 木下健司

目指すは医療従事者と医薬品・医療機器メーカーの橋渡し

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medyの仕組み。これまで薬剤情報、医療情報を提供するWEBサイトは各企業ごとにアカウントを管理していた。これだとユーザである医療従事者は複数のログインアカウント・パスワードを管理しなければならず煩雑だ。これを解消するのがmedyによるシングルサインオンだ。

うかつにインターネットが利用できない医療関連業界

インターネットは、世の中の全情報が詰まっているのではないかと感じるほどのメディアに成長したが、こと医薬品や医療機器の業界では事情が異なる。

医療業界は、薬事法によって広告などが制限されているため、一般の人に目に触れるオープンな形での広告や情報公開が行えないのだ。風邪薬や鼻炎薬などの「一般用医薬品」はWEBサイトでも広告を目にするが、処方箋に基づいて使用される「処方箋医薬品」と呼ばれる薬はオープンな場での情報開示が限られる。同じく、医師が使用することを目的とした医療機器も広告などが制限されている。つまるところ、メーカーが医師・薬剤師などの医療従事者向けに販売している商品の多くは、資格を持たない一般患者の目に触れない方法で情報提供を行わなければならず、インターネットの利便性をダイレクトに享受できないのだ。

もちろん、薬事法による制限があるとしても、インターネットがまったく使えないというわけではない。医療関連企業は、医療従事者向けのエリアに職種や資格を確認する認証ページを設置したり、医療従事者に発行したアカウントによる会員制サイトを構築するなどして対応しているのだ。

しかし、それもベストな解決策とはいえない。検索サイトで医療従事者向けの検索を行っても必要な情報を探し出せないことや、利用者が各会員サイトごとにアカウントを管理しなければならないといった不自由さがある。

この問題の解決に当たっているのが、今回取材に訪れた日本アルトマークであり、同社が運営する医療関係者共通アカウント「medy」なのだ。

 

医療関連企業のサイト運営を手助けする「medy」

同社は、製薬企業や医療機器関連企業が収集した、医療施設や医師・薬剤師などの顧客情報データベースを一括管理する会社だ。各企業が情報収集や管理を個別に行っていると、転勤や退職といった顧客情報の更新に膨大なコストがかかり、医薬品・医療機器等の製品を利用するための正しい情報が届かない場合がある。それを代わりに管理することで、各企業のコスト削減や素早い情報更新が実現する。こうした業務を業界団体ではなく民間企業が請け負うことは珍しいそうだが、同社は医療・福祉・保健分野など限られた企業団体による会員制で、このメディカルデータベースを50年間管理してきた。

こうした実績を持つ企業が、昨年新たに開始したサービスが「medy」だ。医療関係者向けの共通アカウントサービスで、医療従事者は、medyのアカウントを持っていれば提携各社の会員制サイトにログインできるようになる。製薬企業ごとにID・パスワードを取得する必要がなくなるのだ。

認証手順はWEB上での申請の後に郵送やFAX等による本人確認が行われ、最終的には審査結果が郵送とメールで申請者に送られる。なお、申請時にフェイスブックやグーグル、ヤフーなどのアカウントを利用すると、氏名や住所などの入力が省けるほか、そのID・パスワードがmedyのアカウントとしても使用できるようになる。

提携企業側には、申請後の審査を日本アルトマークが行うため、アカウント発行の手間を省けるというメリットがある。さらに、medyアカウントは、医師、薬剤師、看護師、臨床検査技師などの属性に分類されており、これを企業側が利用することで、医師向けや薬剤師向けなどの情報を属性別に提供することも可能になる。

まだ始まったばかりのサービスだが、開始後3カ月でユーザ数は5000名を突破している。医療従事者限定という利用者属性を踏まえると、この人数は好調なスタートといえるだろう。

「開始したばかりのサービスなのでまだ提携企業の数は限られていますが、今期中には2~3社と提携を行う予定です。これまでのデータベース事業では100社以上の契約を行っており、こうしたパートナー企業の参画を促進していきたいと考えています」と、MDB事業部・事業開発部部長の佐藤晃氏は目標を語る。

 

medyから広がる新しいサービス

同社では、共通アカウントのmedyを発行するだけではなく、medyアカウントを取得したユーザ向けのアプリを提供したり、ユーザ同士のコミュニケーションが行える「メディスクエア(medySQUARE)」といったサービスも開始した。

iPhone/iPadアプリ(medyアプリ)は、RSSリーダのように医療関連企業による最新ニュースを表示するニュースコンテンツリーダだ。このmedyアプリによってアカウントの申請や管理の手間が省けるだけではなく、各社WEBサイトを巡回する時間の短縮や労力の軽減が行え、最新ニュースを効率よく入手できるようになる。

また、medyアプリでは受け取り手の好みや専門性に応じた情報を表示することも可能だ。例えば、循環器医療が専門の医師の場合、循環器医療の情報のみを集めたり、優先度を上げて表示させることができるのだ。「医療業界では、そうした情報のインタレストマッチが進んでいませんでした。受け取り手の専門性とはまったく関係のない情報ばかりが届けられる状況だったのです」(佐藤氏)。medyアプリはその状況改善にも貢献するという。

一方のメディスクエアは、WEB上で展開されるコミュニケーション機能だ。

「医療業界では、SNSの利用はまだまだ限定的です。その理由としては、SNS上のつながりによって医師が患者さんとのコミュニケーションに追われてしまうことや、患者さんも見られるパブリックな場で専門的な発言がしにくいといったことが挙げられます」(佐藤氏)

その点、メディスクエアは、medyアカウントのユーザのみがアクセスできるコミュニケーション機能なので、クローズドな場所で医師同士のコミュニケーションが可能となる。現在、掲示板やメーリングリスト、専用メールアドレス「medyメール」といった機能が提供されている。

 

当面は独自アプリのリリースに注力する

同社では、医療従事者のiPhone/iPadの利用率に注目している。現状の普及率は2~3割程度だが、若い医療従事者になるほど利用率/保有率が高くなるという。ほかの医療情報サイトとは一線を画すという意味でも、モバイルからニュースを見たり、モバイル向けのコンテンツを提供していく意義はある。

直近では、画面のチェック項目を選択することで病気の種類を振り分けることができる診断予測アプリのリリースが予定されている。これは、医学用語を多用するために医師向けとなるが、いずれは解りやすい言葉に置き換えた患者向けバージョンも作成していきたいという。また、現場の医師が使いやすいように工夫した薬剤関連のアプリも構想中だ。

薬事法をはじめとしたさまざまな制約がある医療分野でのインターネット利用だが、日本アルトマークの尽力が実を結べば、その不自由さも徐々に解消されていくことだろう。

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シングルサインオンという発想をさらに一歩進めたのが、iPhone/iPad版のmedyアプリだ。イメージとしてはRSSリーダに近いアプリで、ユーザはさまざまな医療情報サイトにアクセスすることなく、このアプリでまとめて情報を取得できる。

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medyはアプリだけでなく、WEBブラウザ上で動作するサービスとしても提供される。現在はニュースリーダとしての性質が強いが、今後はコンテンツを拡充して医療情報のデータベース化を図る。

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また、医療関係者間のコミュニケーションに利用できる「メディスクエア」サービスも提供。ユーザはサービス内でグループを作成し、そのグループ内でディスカッションを行う。利用イメージはメーリングリストに近い。

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日本アルトマーク、MDB事業部 事業開発部部長の佐藤晃氏(左)と同事業部リーダーの小池一成氏。medyは開始して間もないサービスだが、同社は1962年創業という長い歴史を持つ。

『Mac Fan』2013年3月号掲載