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掲載日:

「お薬手帳アプリ」撤退を繰り返さないための新鋭の“突破口”

著者: 朽木誠一郎

「お薬手帳アプリ」撤退を繰り返さないための新鋭の“突破口”

400万超のダウンロード−これは人気ゲームではなく、いわゆる「お薬手帳」アプリが積み上げた数字だ。それも日本薬剤師会、大手薬局といった老舗ではなく、サービス開始から約10年という新鋭企業によるもの。服用薬の自動登録、それが可能な薬局の数や種類が豊富であることなどが特色となるサービスの真価に迫った。

400万人超が利用するアプリ

ツルハドラッグ、ココカラファイン、くすりの福太郎、コクミン…これらメジャーな薬局で処方された薬を、手動ではなく自動で登録、管理できる“お薬手帳”アプリがある。

こうした自動入力は、大手調剤薬局のアプリが自分のグループ内の薬局で可能にしている場合があり、日本薬剤師会公式のアプリでも一部の薬局に対応しているが、前述した有名ドラッグストアに軒並み対応している点で便利といえるのが「EPARKお薬手帳」だ。運営する株式会社くすりの窓口の調べによると、同アプリのユーザ数は2023年5月時点で400万人を突破しているという。

一方で、こうしたジャンルのアプリ自体には課題もあり、撤退する事業者もいる。なぜ同社はこの事業を継続し、ユーザ数を伸ばし続けているのか。同社メディア事業部戦略運用部統括部長の宇佐見仁氏に話を聞いた。

「薬局」のプラットフォーム

「EPARKお薬手帳」はその名のとおり、アプリでお薬手帳情報を管理するサービスだ。紙のお薬手帳に記入していた服用薬の情報を登録し、手元のスマホで確認できる。スマホさえ肌身離さなければ薬局へのお薬手帳の持参を忘れることがなく、たとえば急病時のような“いざというとき”にも備えになる。

この“いざというとき”というコンセプトは、電子版のお薬手帳の普及にも一役買った。それが2011年3月11日の東日本大震災だ。紙のお薬手帳を持ち出すことができなかった被災者でも、スマホにお薬手帳の機能があれば、治療に使用できる薬やアレルギーなどを迅速に確認できる。特に、持病や慢性の疾患を抱える人にとっては、命にかかわるニーズがあった。

デジタル版ならではの機能もある。まず、「EPARKお薬手帳」では、家族全員分の服用薬の情報や、血圧・血糖値などの健康情報をまとめて管理できる。また、調剤予約機能では、スマホで処方せんを撮影し、アプリであらかじめ薬局に送信することで、薬局での待ち時間短縮につながる。さらに、前述した服用薬の自動登録、それを実現するかかりつけ薬局の登録などの機能がある。

そのほか通院管理や飲み忘れ防止のための服用カレンダーや残薬チェックの機能、医療費控除のデータをe|Tax用フォーマットで出力する機能、予防接種記録などとあわせて、従来のお薬手帳の枠を超え、薬局に関わることの多くをワンストップで担うプラットフォームだといえる。

2015年8月に薬局事業を開始した株式会社くすりの窓口。「ヘルスケア領域に新しい価値を提供する」という企業理念のもと、「EPARKくすりの窓口」「EPARKお薬手帳アプリ」のほか、医療機関用の「みんなのお薬箱」「みんなの共同仕入サービス」で医薬品余剰在庫の有効活用、医薬品仕入価格の低減化や受発注管理の電子化・効率化に努めている。 [URL]https://kusurinomadoguchi.co.jp

株式会社くすりの窓口のメディア事業部・戦略運用部・統括部長の宇佐見仁氏。

自動登録機能も搭載

特筆すべきは薬の登録方法だ。紙であれデジタル版であれ、ネックになるのは服用薬を記入するのが煩雑であること。同アプリでは、まず「明細書に記載のあるQRコードを読み取る」(※「QRコード」はデンソーウェーブの登録商標)「写真で保存」などの方法で、そのハードルを下げている。しかし、それでもなお気が進まないということはあるだろう。

そこで便利なのが、前述した服用薬の自動登録機能だ。アプリの薬局検索から自動連係したい薬局をかかりつけ登録、自分の名前と保険証情報を入力し、申請する。薬局側が承認すると自動連係が完了し、アプリ画面に自動で情報が反映される。

一連の機能を使用できる薬局は、宇佐見氏によれば現在「全国に約2万施設」にも上る。特に自動連係については、他サービスよりも連係先が手厚い印象だ。しかし宇佐見氏は、同社の「『ヘルスケア領域に新しい価値を提供する』という理念に照らせば、まだまだ十分とはいえない」とする。

同社は2023年10月に東証グロース市場に上場。前身は2013年、光通信の子会社であるインターネット予約サービス「EPARK」が開始した、調剤薬局に向けた事業だ。この事業が「EPARKヘルスケア」として独立し、その後は親会社の変遷を経て2020年に現在の社名となった。営業力で知られる企業グループであることを鑑みると、2015年のサービス開始から約10年で現在の規模になったことも頷ける。

同社には複数の事業の柱があり、医薬品の卸企業と薬局をつなぐプラットフォームでは仕入れ値の交渉や、薬局の在庫管理と自動発注、薬局間の不動在庫のマッチングなどで収益を上げる。また、薬局運営の基幹システムの提供と保守管理を担う事業を堅実に行う。

「EPARKお薬手帳」はメディア事業の一環だが、手数料収入がある薬局の検索サイト/アプリ「EPARKくすりの窓口」に対して、直接的な収益はない。しかし、薬局をかかりつけ登録することで、「EPARKくすりの窓口」の利用促進・リピートにつながるマーケティング施策としてのメリットは大きいと見ることができる。

事業者の撤退を繰り返さない

宇佐見氏は「医療やヘルスケアに関係するアプリである以上、継続して提供することが何よりも大事」と訴える。

実際、冒頭で触れた日本薬剤師会公式の電子版お薬手帳「eお薬手帳」については、一時は大きなシェアを有していたものの、開発・運営パートナーだったドコモが「経営上の判断」で撤退。2023年7月に「eお薬手帳3.0」として別のパートナーによりリニューアルされるなど、大きな混乱があった。

お薬手帳という元は紙の無料の冊子だった、現在も複数の事業者が乱立するコンテンツにおいて、マネタイズの方法や規模感は非常に限定的になる。社会的意義があるとはいえ、大手でも継続しない判断は十分にあり得る。そんな中で、そのほかに事業ドメインを展開しながら、電子版お薬手帳にマーケティング施策といった別の付加価値を持たせて規模を拡大していくのは、一つの突破口だろう。

医療やヘルスケアの分野には、こうした「社会的意義はあるがマネタイズが難しい」ことが山積している。同社がその勢いで山をどう切り崩していくのか、注目したい。

EPARK お薬手帳

【開発】kusurinomadoguchi, inc.

【価格】無料

【場所】App Store>メディカル

「EPARKお薬手帳」では、従来紙で運用していた服用薬の情報を一元的に管理できる。そのほかにも病院や薬局の検索・予約、症状・疾病の管理など多くの機能を搭載している。

薬の登録では、[QRコード][写真を保存][自分で入力する]から好きな方法を選択できる。たとえばQRコードの場合、アイコンをタップして、明細書に記載のあるQRコードを読み取ると、処方薬の情報を素早く登録できる。また自動連係にも対応しており、薬局検索から自動連係したい薬局のページを開き、[かかりつけ登録]を選択。登録後、同じページの[自動連携]をタップし、氏名や保険証情報を入力した後に申請。薬局で承認されたら、自動連係が完了する。アプリ画面に、自動で情報が反映される。 [URL]https://okusuritecho.epark.jp/renew/

薬局を予約する場合は、[薬局検索]をタップする。たとえばフリーワード検索から[地名(駅名)][調剤予約]を選択すると、検索一覧から予約したい薬局を選び、処方せんの画像を撮影し、薬局を予約できる。受け取り希望日時の指定や、事前に伝えたいことなども記入可能。処方せんの有効期限が発行日~3日間のため、注意が必要だ。

飲み合わせチェック機能(写真左)を利用する場合は、[飲み合わせチェック]を選択後、[服用中のお薬を追加]、[お薬名を入力して検索]をタップする。ほかの薬や成分または服用中の薬同士のチェックを開始する。服用カレンダー/残薬チェック機能(写真右)では、[カレンダー][本日の日付]から服用の予定を登録できる。服用を忘れていると注意マークがつき、どのくらい残薬があるか把握できる。

「EPARKお薬手帳」のココがすごい!

□サービス開始約10年で400万人超が利用するお薬手帳アプリに

□有名ドラッグストアなどで処方された薬を自動で登録する機能も

□薬局関連の複数の事業の柱と強い営業力を持つ企業の運営で継続