例年、9月は新iPhone発表のシーズン。これに先駆けて、ここ数日さまざまな情報や噂が飛び交うようになりました。個人的にもっとも注目しているのは、EUの規制によってアップルがiPhoneからライトニング(Lightning)端子を取り除くのではないか?という話です。
スマートフォンのポートがバラバラなことが原因で、iPhoneから他機種に乗り換える際、ケーブルや充電器などを買い換えなければならず、ユーザの利便性を損なうほか、大量の電子ゴミが出ることが懸念されています。そのため、EUでは2024年末から、スマートフォンなどのモバイルデバイスにUSB-Cポートを搭載することを義務づけるようになったのです。
これが決定されるまで、アップルは、むしろUSB-Cポートに統一することで、既存のiPhoneユーザの買い換えが必要となり、電子ゴミの問題がより広がってしまうと指摘。またテクノロジーの発展を阻害する、として規制に反対の立場を取ってきました。
その一方で、アップルにとっても「渡りに船」の部分もあります。2012年から実装したライトニングという独自規格をどのように扱っていくか、EUの法規制に頼ることができるからです。
そもそもライトニングは充電速度、データ転送速度、周辺機器の面でUSB-Cに劣る不利な存在になりつつあります。そのため、iPadは早々に2018年からUSB-Cへの移行を進め、昨年発表されたiPad(第10世代)の登場をもって、ほぼすべてのラインアップでUSB-Cポート搭載を実現しました。
iPhoneもこれに追随することになるのでしょうか。ケーブルの共通化、共用化を進めることができれば、ユーザは何本も異なるケーブルを買い求める必要がなくなります。環境にもおサイフにも優しく、利便性も高まるというわけです。
もう一つ、少し奇妙な、しかし時代の流れからすれば納得感が深い話もあります。それは、新iPhone向けには、純正レザーケースを用意しないのではないか、という見立てです。
個人的には、むしろ5年ぐらい前にアップルこそ率先して取り組むべきテーマだったのではないか、とすら思います。
というのも、自動車業界では、高級車の証だったレザーシートは、ビーガンレザーや、シンセティックレザーといわれる、代替皮革への置き換えが進んでいるからです。ランドローバー、メルセデス、ボルボ、そしてテスラはもちろん、イタリアのフェラーリまでも、革に似ている、あるいは革に代わる、持続性も高級感も両立する素材に置き換えてきました。
しかしアップルは、Webサイトでも「時とともに自然な風格が加わる」ことをウリにした特殊なめし加工のレザーを誇らしげに販売し続けています。顧客には2年程度でのiPhoneの買い換えを促しているにもかかわらずです。
若干遅きに逸した印象はありますが、アップルが言うように確かに質感の非常に高いレザーケースであっただけに、同等の品質で別の素材に置き換えるのか、そもそもレザーケースという設定をやめてしまうのか、そろそろ何らかの変化を求めてもよいタイミングではないかと感じています。
「エシカル」になることもまた、パラダイムシフトといえるでしょう。今まで当たり前であったことが価値感もろとも覆る瞬間。アップルに限らず、世界中の企業、あるいは我々生活者が、その動向に注視していかなければなりません。
Taro Matsumura
ジャーナリスト・著者。1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒業後、フリーランス・ジャーナリストとして活動を開始。モバイルを中心に個人のためのメディアとライフ・ワークスタイルの関係性を追究。2020年より情報経営イノベーション専門職大学にて教鞭をとる。