私が検証しました!
鴻池賢三
オーディオ・ビジュアル評論家。VGP審査員。オーディオメーカーの商品企画職、シリコンバレーのマルチメディア用ASICデザインベンチャー企業を経て独立。
[SPEC]
【発売】ディーアンドエムホールディングス
【価格】オープン価格
【実売価格】PerL:3万3000円、PerL Pro:5万6720円
【対応コーデック】SBC、AAC、aptX(PerL)/SBC、AAC、aptX、aptX Lossless、aptX Adaptive(PerL Pro) 【ドライバ形式】低歪みダイナミックドライバ(PerL)、超低歪み 3 レイヤーチタニウム振動板ダイナミックドライバ(PerL Pro) 【ドライバサイズ】10mm(両者共通) 【URL】https://www.denon.jp/ja-jp/perlseries/index.html
医療技術を応用した新世代オーディオ
聴覚には個人差があり、低い音のほうが聞こえやすい人もいますし、高い音のほうが聞こえやすい人もいます。さらには、左右の耳でも聞こえ方に違いがあります。筆者の場合、イヤフォンを装着しない状態での日常生活や、スピーカを使ったリスニング時は脳内で自然と補完されるためか、左右差は感じません。しかし、イヤフォンを使うと左耳で高音域がわずかに大きく聞こえるほか、音像も左に寄りがち。これが、イヤフォンを使ったリスニングに難しさを感じる部分です。
こうしたイヤフォン利用時の“聞こえ方の個人差”に着目し、聞こえ方を手動でカスタマイズできる製品は数多く発売されていますが、デノン(Denon)の「パール(PerL)」と「パール・プロ(PerL Pro)」の2モデルはそれらと次元が違います。
医療技術の大手開発企業であるマシモ(Masimo)社がデノンを傘下に収め、この2モデルにはマシモ社のパーソナライズ機能「マシモAAT」が搭載されました。医療技術を応用したマシモAATにより、個人の聞こえ方に合わせて自動的に音のバランスを調整するため、これまでのように個々人の感覚に頼らずとも最適化できるわけです。
スタンダードモデルの「パール」と上位モデルの「パール・プロ」の共通点は、マシモAATの採用やアクティブノイズキャンセリングの搭載、SBC/AAC/aptXコーデックに対応する点など。これに加えて「パール・プロ」は、aptXロスレス(Lossless)とaptXアダプティブ(Adaptive)コーデックに対応します。ほかにも、ワイヤレス充電機能や空間オーディオ機能「ディラック・バーチュオ(Dirac Virtuo)」、骨伝導マイクを搭載するほか、ドライバも3層のチタニウム振動板を採用しています。
簡単なのに正確なパーソナライズ機能
最大の特徴である、マシモAATによるパーソナライズ機能について、実際の測定方法と使用感をレビューしましょう。
まず、一般的なイヤフォンの聴覚補正機能を使うときは、イヤフォンからテスト用の音を出し、ユーザが自身の感覚で「聞こえる」「聞こえない」と判定するといった方法で測定を進めます。これは健康診断の聴感診断に近い方法ですが、判定は個々人の感覚に頼ることとなります。この判定をもとに周波数特性が補正されると、本当の意味で最適化されない可能性があるのはご想像いただけるでしょう。
一方のマシモAATによるパーソナライズでは、イヤフォンを耳に着けてテスト音を発したあと、内耳から発生する微弱な音響放射(OAE)を測定。各人の聞こえ方における周波数特性を解析し、左右差にも対応したプロファイルがAI(人工知能)技術によって作成されます。なお、このOAEという手法は赤ちゃんの難聴診断にも利用されているものです。
「パール」と「パール・プロ」でこの測定を行うには、まず専用アプリ「デノン・ヘッドフォンズ(Denon Headphones)」をインストール。同アプリを起動すると、音声ガイダンスに従って測定を進められます。適切に装着されているか/密閉性が保たれているかのチェックが行われたあと、測定用の音がイヤフォンから聞こえます。テストサウンドが流れている間は静かな環境で約3分待つだけでOK(※環境によって長くかかる場合もあります)と、音を聞いて「聞こえる」「聞こえない」などと回答する必要はありません。パーソナライズ実行後には音楽が流れ、アプリ画面上に表示される[ニュートラル]と[パーソナライズ済]を切り替えることで、聞こえ方の違いを確認可能。パーソナライズした結果はアプリで視覚的に確認できます。
筆者とほかの人で「パール」を使ってパーソナライズし、その結果も比較してみました。すると、「パーソナライズしないイヤフォンで聞いていた音は、自分にとって本当に最適だったんだろうか?」と思えるほどに両者で差がありました。聞こえ方はお互いでかなり大きく差が出ていましたし、左右の耳における差の出方もかなり異なっています
デノンサウンドがより鮮やかに
次に、両者の音質についてレポートしたいと思います。
両者ともパーソナライズする前の時点で良好な音質ですが、パーソナライズするとさらに向上します。筆者の場合、低域がすっきりして、より低く深みが増したことで、リズム感が増して活き活きとしました。ボーカルについては、明瞭で広がりが感じられる“映えるサウンド”に変わったのもポイントです。
また、iPhoneと組み合わせる場合は両製品ともAACコーデックで接続されるので、音質の差は主にドライバ性能の差と考えていいでしょう。上位の「パール・プロ」は低域により厚みが感じられるので、イヤフォンでのリスニングに重低音を重視するユーザも満足できるはずです。また、高域が伸びて楽器の音色がキラキラと輝く様子も「パール・プロ」が一枚上手でした。ドライバの違いが、音質差としても体感できます。
ノイズキャンセリング機能に関しても、「パールプロ」は周囲の環境に合わせて自動調整されるアダプティブ・ノイズキャンセリングという違いがあるため、「パール・プロ」に優位性があります。「パール・プロ」はノイズキャンセリングによる静けさのおかげで微小な音も聞こえやすく、音がさらにリッチに聞こえる印象でした。予算が許すようであれば「パール・プロ」を選んでおくと、デノンサウンドの神髄により近づき、さらに高い満足感が得られるでしょう。
【POINT】実用性重視のデザイン
PerLを装着した様子。本体に樹脂素材を採用しており、見た目よりも軽量な印象です。また、コンパクトさ重視の完全ワイヤレスイヤフォンと比べると大きめで、耳から出る幅も長めでした。
【POINT】着け心地は両者で共通
PerL Proを装着した様子。形状や装着感は「PerL」と同等です。外周部にセラミックのリングが備えられているのが「PerL」との違い。外観面でも差別化が図られています。
【POINT】聴覚プロファイルを視覚的に確認できる
筆者が「PerL」を装着し、パーソナライズした結果を「Denon Headphones」で表示しました。時計でいう「12時」にあたる部分がもっとも低い音で、そこから時計周りに周波数が高くなるイメージです。円からはみだしている部分は聞こえやすいことを示しており、左右の耳での差も確認できます。
【POINT】聴覚プロファイルは両者で似た傾向
筆者が「PerL Pro」を装着して、パーソナライズを行ったあとのイメージです。「PerL」「PerL Pro」それぞれで、測定結果に似た傾向が見られました。「PerL」の結果と同様、「低域の一部で聞こえやすく、高域の感度は低め」です。
【POINT】一人ひとりで結果はまったく異なる!
個人差がどの程度あるか調べるべく、筆者とは別の人にパーソナライズを試してもらいました。その結果、筆者とはまったく異なるパターンに。筆者と比べて、左右の違いが大きいこともわかります。「PerL」や「PerL Pro」でパーソナライズする意義は大きそうです。
検証報告
□医療技術を応用したパーソナライズ機能は、ほかのイヤフォンのカスタマイズ機能とは別次元。信頼性が高い結果が得られました。
□周波数特性の最適化により、デノンサウンドがより鮮やかになるほか、音場の広がり感や定位も好ましく改善します。