私が検証しました!
鹿野貴司
2021年よりカメラグランプリ選考委員を務める写真家。カメラのことから写真のことまで、幅広く執筆活動も行っています。近著は『いい写真を撮る100の方法』(玄光社)。
[SPEC]
【発売】キヤノンマーケティングジャパン
【価格】オープン価格
【実売価格】5万9950円(キヤノンオンラインショップ価格)
【質量】重量:約211g
【サイズ(W×D×H)】約63.4×34.3×90mm
【センサ】1.0型高感度裏面照射CMOSセンサ
【有効画素数】約1310万画素(動画)、約1520万画素(静止画)
【最短撮影距離】5cm
液晶】2.0型/約46万ドット
【記録メディア】microSD、microSDHC、microSDXC
【URL】https://cweb.canon.jp/camera/dcam/lineup/powershot/v10/
ドラレコのような意表を突くスタイル
最近、浅草や渋谷に行くと、スマホや小さなカメラを掲げている外国人観光客をよく見かけます。職業柄、何を撮っているかが気になるのですが、彼らの多くはSNSでライブ配信をしている様子。そういえば“ブイログ(Vlog)カメラ”を謳うソニー製のZV-E10が売れていますし、パナソニックやニコンなどのカメラメーカーも動画向けカメラに続々参入して盛り上がりを見せています。かくいう僕も奇抜で小さなカメラが好きなので、「パワーショットV10(PowerShot V10)」を発売前に試させてもらいました。
キヤノンはこれまでも、2013年に「アイビス・ミニ(iVIS mini)」、2014年に「アイビス・ミニX(iVIS mini X)」と、自撮りに特化したカメラを発売してきた過去があります。これらは据え置きで自らのダンスやパフォーマンスを撮影するためのアイテムでしたが、今回の「パワーショットV10」は据え置きにも手持ちでの自撮りにも対応する製品。より使い勝手が向上した形で登場しています。
その初号機の見た目は完全に“ドライブレコーダ”ですが、手に取ると重量感と安定感があります。基本的な使い方は、本体の下半分を持ち、人差し指で前面のシャッターを、親指で背面のボタンやタッチパネルを操作する形です。左右どちらの手でも操作できる設計で、左利きの僕には助かります。また縦で構えながらも撮影できる映像は横位置で、「スマホのカメラ機能とは異なる設計」というカメラメーカーならではの矜持のようなものも感じます。一方、内蔵スタンドを引き出すには液晶を跳ね上げる必要があり、初号機ゆえの苦悩も窺えます。
中身はとっつきやすく機能も必要十分
インターフェイスは、キヤノン製デジカメでおなじみの、わかりやすさに定評があるスタイルを受け継いでいます。さらに、モード切り替えなど使用頻度の高い項目は、液晶画面でタッチ操作することで変更できるのも便利なポイントです。
内蔵するレンズは単焦点で、動画で19ミリ相当、静止画で18ミリ相当です(35ミリ判換算)。また、1.5倍/2倍/3倍のデジタルズームも搭載します(ただし、撮影中にズームの倍率を変更できないほか、後述の美肌モードでも利用できません)。センササイズは、ハイエンドのコンパクトデジカメなどに採用されている1インチ型。一般的なスマホより格段に大きく、実際に撮影した動画や静止画の画質もスマホよりワンランク上だと感じました。
なお、動画は4Kで30P/24P、フルHDで60P/30P/24Pで記録でき、動画撮影時に利用できるモードは、オート/美肌/手ブレ補正/マニュアル露出の4つです。
手ブレ補正モードは電子式(撮影した動画を解析して電子的に補正する方式)で、補正時は画角の端がトリミングされますが、本機は減少がわずかなものの効果も弱めでした。「水平維持」という設定項目もありますが、これも効果は限定的なので、手持ちのまま歩くときは3段階の補正強度から「強」を選びましょう。
美肌モードも試してみたところ、5段階でもっとも強く補正されるものを選ぶと、不規則な生活をしている49歳男性が30年分は若返りました。ただし、手ブレ補正や、14種類のカラーフィルタと併用できない点は覚えておきましょう。
なお、静止画の撮影で変更できる設定は明るさと画像サイズ程度です。ずいぶん割り切った設計なので、今後のファームウェアアップデートで機能が増えることを切に願っています。
人生初のライブ配信で使い道を考えてみる
とまあ動画、とりわけブイログに特化しているとあって、スマホとの連係を試してみると実にスムースでした。フェイスブック(Facebook)とユーチューブ(YouTube)のライブ機能に対応しており、本機とキヤノン製アプリを接続することで簡単に配信を始められます。僕も、フェイスブックライブ(Facebook Live)の公開範囲を「自分のみ」に設定して試してみたところ、8秒ほどディレイしたり、ときどき画像が乱れたりすることはありましたが、画質はスマホと歴然とした差を感じました。なお、ライブ配信時はスマホとのブルートゥース(Bluetooth)接続が必須かつ、本機をWi-Fiのアクセスポイントに接続しておく必要があります。つまり屋外でライブ配信を行うには、フリーWi-Fiやポケットルータに接続しないといけません。
「ライブ配信」というと、自分語りやメイクアップの配信を想像する人も多いと思いますが、親戚や仲間が集まる機会があれば、身内限定公開で中継するのもよさそうです。スマホのビデオ通話と違って見たいときだけ覗けますし、送り手も受け手も気楽に利用できます。ほかにも、ゴルファーならWi-Fi環境のある練習場でスイングを流し続けて、コーチや友人にアドバイスをもらうのもよいでしょう。
また、スマホで動画を撮り続けると、当然ながらその間はメールやネット、ナビなどの機能は十分に使えません。スマホはスマホとして使いつつ、同時に動画も撮影するような需要も見出しているのかもしれません。
これは以前キヤノンの偉い方から伺った話ですが、世間では失敗とみなされた機能や製品が、のちのヒット製品に活かされたケースが数多くあるそうです。そうした歴史があるから、このような面白い製品も登場するのでしょう。本機は実験的ではあるものの、動画撮影がスマホより格段に楽なのは事実。自分にあった使い道を探しましょう。
【POINT】使い勝手のよいスタンドを内蔵
本体下部に折り畳み式のスタンドを備えており、スタンドを真下に向けるとカチッと固定されます。かなり頑丈な造りなので、人混みで頭上にカメラを掲げたいときなどはスタンド部分を握って撮影できますし、床や机に置いて使うときは傾くこともなさそうです。
【POINT】小さいけど使い方は自由自在
静止画撮影機能を使って、写真を撮りました。オマケ程度の機能かと思いきや描写力はなかなかの実力で、超広角スナップカメラとしても使えそうです。また、USB-CケーブルでMacやPCと接続すれば、設定なしでWebカメラとしても利用できます。
【POINT】14種類のカラーフィルタを搭載
動画撮影時、14種類のフィルタを利用できます。ハリウッド映画調の「StoryTeal&Orange」(左の写真で適用しているもの)や、すっきりした青みでクールに撮れる「ClearLightBlue」、家族の温かい様子を撮るのに最適な「TastyWarm」などを取り揃えています。
【POINT】スマホアプリも使いやすい
スマホアプリ「Camera Connect」を使うことで、ライブ配信やリモート撮影を行えるほか、撮影した動画や画像をアプリ内に取り込むことが可能です。こうすることで、iPhoneからSNSに即座にアップしたり家族に共有したりと便利に活用できます。
【POINT】おすすめの撮影設定を紹介!
本機は、フレームレート(1秒あたりのコマ数)やシャッター速度を手動で設定することもできます。フレームレートを24Pに、シャッター速度を1/25秒か1/50秒に、そしてイメージに合うフィルタを選べば、シネマカメラのようなスタイリッシュな映像を撮影可能。ぜひ試してみてください。
検証報告
□スマホと比べて、明らかに高い画質で撮影できます。スマホでの撮影からステップアップを考える人の最初の選択肢に良さそうです。
□撮影中にズームの比率を変えたり、ズームと美肌モードを併用したりすることは不可。特徴をきちんと理解したうえで購入しましょう。