コロナ禍での医療業界の大きな変化の一つといえば、行政も推進する「オンライン診療」の急速な普及だろう。リモート医療への追い風を受けた各社は、「健康相談サービス」にも注力。バラエティに富んだアプリが並ぶ。今、利用者はどんなサービスを選べるのか。そして、今後の医療業界はどうなっていくのか。紹介し、予測する。
社会情勢により一気に拡大
「病院にかかる」のは正直、面倒だ。この心理的ハードルは意外と馬鹿にできないもので、医療現場では受診忌避により症状が悪化してしまう、といったケースもあとを絶たない。
一方で、軽症の場合や再診の経過観察などで、短時間の診療のわりに移動や待ち時間が長いようなときは、「わざわざ病院に行くほどだったかな」と感じることもあるだろう。
他業界であれば、IT化がこうした課題を解決する。しかし、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の遅れがしばしば指摘される医療業界である。オンライン診療も、実は2018年度から本格的に公的保険が適用されるようになっていたが、なかなか浸透しない現実があった。
これを一変させたのが、新型コロナウイルスの感染拡大だった。コロナ禍以前、厚生労働省が定める指針では「初診は対面診療」が原則。また、保険が適用される疾患も限られていた。
この厚労省の対応が変わったのが「第1波」が到来した2020年4月。コロナ感染を恐れて医療機関の受診を控える人が増えたため、すべての疾患で初診からオンライン診療をすることが認められたのだ。
オンライン診療に対応する医療機関の施設数は同年4月に全国で1万超だったが、2021年6月には1・5倍の1万6872施設まで増加。当初はコロナ禍の特例措置とされたが、現在は恒久化に向けた議論が進んでいる。
一般的なオンライン診療では、利用者はiPhoneなどのスマートフォンに専用アプリをダウンロード。保険証の画像やクレジットカードを登録し、アプリやWebサイトから受診の予約をして利用する。
薬が処方されたときは、処方箋を連係する薬局に送ってもらい、これもオンラインで薬剤師から服薬指導を受け、薬局から薬を届けてもらうこともできる。社会情勢により拡大したものだが、便利であることは論を俟たないだろう。
有力オンライン診療アプリ
このように、シェアを拡大するオンライン診療。その代表的なサービスの一つが、株式会社メドレーが提供するオンライン診療・服薬指導アプリ「クリニクス(CLINICS)」だ。同社は業界内シェア率トップを謳う。
同サービスでは、インターネットを介して予約し、自宅や職場から医師の診察、薬剤師の服薬指導を受けられる。処方された薬は自宅に直接配送。事前の問診からクレジットカード決済まで、すべてオンラインで完結できる。
2021年12月から株式会社NTTドコモと共同運営をしており、同社が開発・運営する「おくすり手帳Link」を終了、2023年9月に「クリニクス」と統合予定であることも業界内では話題になった。
同様のサービスには、株式会社インテグリティ・ヘルスケアが提供するアプリ「ヤードック(YaDoc)」もある。予約から診察、決済、服薬指導、薬の配送などの機能は「クリニクス」と大きな違いはないと言える。
特筆すべきは、医療機関導入事例が豊富であること。臨床試験をサポートする機能などにより、東京医科歯科大学医学部附属病院や聖路加国際病院、虎ノ門病院など有名病院への導入を謳う。製薬企業との連係にも強みを持つサービスだ。
オンライン診療サービスにはほかにも、LINEヘルスケア株式会社の「LINEドクター」や、MRT株式会社の「ポケットドクター」、東邦薬品株式会社の「カイトス(KAITOS)」など多数リリースされている。
利用者側の意見として率直に言ってしまえば、ことオンライン診療アプリについて、どのサービスであれ同じような機能を備えているのであれば、どれを利用してもそう変わらない。必要なのは「病院に行かなくても診療を受けられる」ということであり、サービスとしてはコモディティ化が避けられない宿命がある。どちらかと言えば、今後はいかに医療機関側に選ばれ、シェア争いをしていくか、ということになるだろう。
盛り上がる健康「相談」
サービス自体に差が生まれやすいのは、オンラインの健康「相談」サービスだ。ポイントはこうしたサービスで医師などから提供されるのがあくまで「アドバイス」であり「診断」ではないこと。従って「薬の処方」などもできない。
厚労省からは「遠隔健康医療相談」として、遠隔医療のひとつの形として定義されている。「困ったときに気軽に医師などに相談できる」というのは利用者にとってメリットが大きい。
健康相談サービスでは「どんな医師に相談できるか」「料金」「診療科」「対応時間」「チャットのみか、電話か、ビデオ通話もできるか」など、サービス間の違いも見えやすくなる。それゆえ、百花繚乱の様相を呈しているのが現状だ。
特に価格設定も、「チャットのみ無料」や「急ぎの回答をもらいたい場合は2000円」、健康保険組合のサービスとして「加入社の社員や家族であれば一定範囲内ですべて無料」など、豊富な選択肢がある。
アクセスのしやすさという面では、「LINEヘルスケア」の利便性が高い。何より国内で圧倒的なシェアを誇る「LINE」アプリ内からサービスを利用できる。また、診察が必要であれば、前述の「LINEドクター」にも接続可能だ。
オンライン診療アプリの提供元が健康相談アプリを提供している事例はとしては、MRTの「健康相談ポケットドクター」などもある。いずれもオンライン診療の裾野を広げ、単体でも収益性を確保できるシステムだ。
健康相談サービス事業のために起ち上がった株式会社リーバーが提供する「リーバー(LEBER)」では、茨城県水戸市と連係し、住民であれば無料で利用できる取り組みをしている。このように、自治体との協業も盛んだ。
株式会社キッズ・パブリック(Kids Public)が提供する「産婦人科オンライン」「小児科オンライン」(平日18時~22時/LINEや電話で相談/1枠10分の予約制などのプラン)もある。これらは、医療現場に課題感を抱いた医師が起ち上げたサービスだ。
このように、今まさに盛り上がる「オンライン診療」「健康相談サービス」。コロナ禍という未曾有の事態による一過性の現象ではなく、医療業界のIT導入、DXの転換点となることを期待したい。
CLINICS
【開発】Medley, Inc
【価格】無料
【場所】App Store>メディカル
株式会社メドレーと株式会社NTTドコモが運営するオンライン診療・服薬指導アプリ「CLINICS」。2000件以上の病院・診療所、3000件以上の薬局を予約できる(2021年11月時点)。 [URL]https://clinics-app.com
「LINEドクター」は、「LINE」アプリ上で診察の予約やビデオを介した診療、決済を完了できるサービス。専用アプリをインストールする必要なく、「LINE」アプリで完結するのはユーザにとって大きなメリットだ。[URL]https://doctor.line.me/user
LEBER
【開発】LEBER Inc.
【価格】無料(App内課金あり)
【場所】App Store>メディカル
株式会社リーバーが運営する「LEBER」は、24時間・365日、いつでもスマートフォン経由で医師に相談ができるドクターシェアリングプラットフォーム。2017年つくば市実証実験「つくばsociety 5.0」に採択された。[URL]https://www.leber.jp
YaDoc
【開発】Integrity Healthcare co., Ltd.
【価格】無料
【場所】App Store>メディカル
株式会社インテグリティ・ヘルスケアの疾患管理システム「YaDoc」を利用する患者向けアプリ。Appleの「HealthKit」と連係し、iPhoneの「ヘルスケア」アプリから血圧や脈拍などのデータを取り込める。[URL]https://www.yadoc.jp/personal/
ポケットドクター
【開発】OPTiM Corporation
【価格】無料
【場所】App Store>メディカル
MRT株式会社が運営するオンライン診療サービス「ポケットドクター」。同社はこのほかに、ちょっとした日常の健康相談を行える「健康相談ポケットドクター」も展開している。[URL]https://www.pocketdoctor.jp
株式会社Kids Publicが運営する小児科に特化した健康相談サービス「小児科オンライン」。子どもについての質問や悩みを気軽に専門医師に相談できる。同社は産婦人科医・助産師に相談可能な「産婦人科オンライン」も展開している。[URL]https://syounika.jp