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年間1000kWh削減できるMac Studioの野望

著者: 松村太郎

年間1000kWh削減できるMac Studioの野望

2022年のアップルの初手は、iPhone SE(第3世代)、iPadエア(第5世代)、そしてMacスタジオ(Studio)という3つの主要製品のリリースと、Macのアクセサリとして待望されていた、スタジオディスプレイ(Studio Display)の投入でした。

この中でアップルが口を酸っぱくして強調したのは、各製品の「環境性能」のこと。iPhone SEではiPhone 13シリーズ同様、フィルム包装を省き、本体にはリサイクルされたレアアースやレアメタルを活用しています。

またiPadエアやMacスタジオの本体には、リサイクルされたアルミニウムを用いており、そこには「カーボンニュートラル」、あるいは新たな資源を採掘せず製品を作る「クローズドサイクル」の実現を目指しているアップルのポリシーが表れていました。

Macスタジオに搭載された新チップ「M1ウルトラ(Ultra)」は、2つの「M1マックス(Max)」を物理的につなぎ合わせて最大毎秒2.5TBのデータ転送速度を実現し、アプリからは1つのチップとして認識されるというものです。その性能はまさに「最高峰」と言っても過言ではないでしょう。

CPUは、インテルの「コア(Core)i9│12900K」搭載のPCと比べて、同じ消費電力で9割高く、ピーク性能時は100ワット少ない電力で動作。GPU性能は、エヌビディア(NVIDIA)の「GeForce RTX 3090」を搭載したPCと同等の性能を、200ワット少ない電力で実現するとしています。

モバイル環境に比べて消費電力への制限が少ないように見えるデスクトップ環境ですが、たとえば複数台のマシンを同時に使うスタジオや、10台規模でマシンを導入している大学などの現場では、1台あたり計300W少ない電力消費量は、電力供給や空調の設計に大きく影響を及ぼすことになります。

アップルは、1台あたり年間1000キロワット時(kWh)の消費電力削減につながると、導入メリットをアピールしました。1000キロワット時というと、今の日本の電気代で約3万円程度。諸外国では電気代がより安く設定されており、一見、さほどのコストメリットではないように写ります。

しかし、このアピールは、コスト以上にZ世代には思いのほか響くもの。気候変動対策に敏感で、少しでも地球への影響を減らすことを趣向するからです。彼らにとって、同じ性能をより少ない消費電力で得られるならば、ピーク性能が多少足りないとしても、Macスタジオを選ぶ大きな動機になり得るでしょう。

それだけに留まりません。アップルはすでに2018年までに、オフィスや小売店を含む自社の操業で使われる電力を再生可能エネルギーに転換しました。続いて、2030年を目標に、アップルにパーツを供給しているサプライヤーに対しても、再生可能エネルギーへの転換を進めています。さらに、その先には、ユーザが製品を使う電力についても、カーボンフットプリント(個人や団体、企業などが生活・活動していくうえで排出される二酸化炭素などの出所を調べて把握すること)を算定し、カーボンニュートラルを目指しています。

もちろん各国、各地域、各家庭によって、電力の調達方法は異なっているため、一筋縄ではいきません。これらすべてを再生可能エネルギーに転換することは困難を極めますが、そこに取り組むのは、すでに変わらぬ方針のようです。どんな手法を取るのかはわかりませんが、少なくともアップル製品を使う際の消費電力は、極限まで小さくして備えておく必要があるのでしょう。

Mac Studioは、消費電力の少なさや、再生アルミニウムと再生プラスチックの使用など、環境への影響を最小限にするよう設計されていることが強調されています。

Taro Matsumura

ジャーナリスト・著者。1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒業後、フリーランス・ジャーナリストとして活動を開始。モバイルを中心に個人のためのメディアとライフ・ワークスタイルの関係性を追究。2020年より情報経営イノベーション専門職大学にて教鞭をとる。