Mac業界の最新動向はもちろん、読者の皆様にいち早くお伝えしたい重要な情報、
日々の取材活動や編集作業を通して感じた雑感などを読みやすいスタイルで提供します。

Mac Fan メールマガジン

掲載日: 更新日:

「IT業界大恐慌」の中でも安定するMicrosoftのビジネス戦略

著者: 栗原亮

「IT業界大恐慌」の中でも安定するMicrosoftのビジネス戦略

炭鉱のカナリア

2018年の世相を表す言葉は「災」だったが、IT業界においてもこの文字どおりの状況が続いている。特に米国では上昇傾向にあった景気が、昨年11月頃から大きく転落。グーグル、アマゾン、フェイスブックといった名だたる企業の株価が相次いで急落するという事態に陥ったが、その中でもっとも厳しい状況下に置かれているのがアップルだ。

一時期は株価を230ドルにまで伸ばし、企業価値として時価総額1兆ドルを記録したアップル。しかし今年1月には、その数字を約40パーセントも下回る142ドルに。原稿執筆時点では170ドル前後まで持ち直しているものの、以前のような勢いはなく、投資家の不安を払拭できていない。

この問題が深刻な点は、その影響がアップルや同社関連企業のみに留まらないところにある。1月2日に発表された「ティム・クックからアップルの投資家への手紙」にもあるとおり、この不振は中華圏市場の大きな減速に起因するからだ。中国経済は、2018年7~9月のGDP成長率が過去25年間でワースト2位を記録し、減速傾向に入った。加えて、米国の対中貿易政策が両国の関係性を緊張させた。不確実性が高まる風潮が金融市場の重しとなり、消費は大きく冷え込み始めた。

その中でもスマートフォン市場は急速に縮小が始まっており、iPhoneの売上高を主力としているアップルにとって、これが業績予想に達しなかった理由のほぼすべてだったという。つまり、中国市場を顧客に持つすべての企業にとってこの出来事は他人事ではなく、規模の大小はあれど、すべからくこの不景気の影響を受けることを意味する。

バランスの良い売上比率

これが「アップルショック」と呼ばれる景気後退の実態だが、この影響をさほど受けていない大手IT企業がある。マイクロソフトだ。時価総額ベースでもIT企業でトップに返り咲き安定した評価を受けている。

両社の決定的な差は、売上高に対するバランス配分にある。アップルの場合、iPhoneをはじめ、MacやiPad、各種アクセサリなどのハードウェア製品が売上全体の87パーセントを構成しており、ソフトウェアやサービスによる収入が少ない。一方のマイクロソフトは、ハードウェアとソフトウェア/サービスの売上比率がほぼ50パーセントずつと、バランスよく按分している。

マイクロソフトといえば、ウィンドウズや「オフィス(Office)」シリーズのイメージが強いが、ハードウェア分野においても、マウスやキーボードといった入力機器で高い市場評価とシェアを得てきた歴史がある。加えて、Xboxなどのゲーム機が8パーセント、近年では「サーフェス(Surface)」シリーズが40パーセント以上売上を伸ばしている。

サービス面で大きいのはクラウドサービス関連で、約20パーセント。細かくみるとクラウド・プラットフォーム事業である「アジュール(Azure)」が76パーセントという成長率を記録した。これらは世界規模で充分なニーズを確保できる分野であり、中国コンシューマ市場に依存していたアップルとの違いを決定づけるものになった。

とはいえ、アップルもこの事態を傍観しているだけではない。アップルウォッチやエアポッズといった新興製品群は30パーセント以上も成長しており、MacやiPadと同じだけの売上高を持つ新たな柱として成長しつつある。さらにソフトウェア/サービス関連の売上高も順調に伸びており、前年同期比で売上高は5パーセント下がったものの、利益ベースでは7.5パーセントアップした。

確かに、特定の新興国に依存する「アップル型」の戦略は終焉を迎えつつあるのかもしれない。一方、バランスを重視し、利益の高いサービス関連の事業を育てる「マイクロソフト型」は将来性も高いため、今後はアップルもこのモデルにシフトしていくだろう。

両社の直近6カ月の株価変動を比較すると、Appleは11月を境に230ドルから140ドル台まで急落し、いまだ伸び悩んでいる。一方Microsoft は年末に一度影響を受けたものの、ほぼ11月の水準まで戻している。

売上高の構成を比べてみると、Appleはほぼ90%とハードウェアに大きく依存しており、今回のような金融危機への弱さを露呈した。対してMicrosoftはソフトウェアと均等なバランスで、マーケットを順調に成長させることに成功している。上記のグラフは両社のプレスリリースより作成した。