【PROFILE】
東京・神保町駅から徒歩3分。日本教育会館ビルの地下1Fに一軒の店がある。「未来食堂」ー2015年9月にオープンしたカウンター12席の小さな定食屋だ。調理から接客まで、すべて店主である小林せかいさんが一人でこなしている。これだけなら一見よくある飲食店に思えるが、未来食堂はこれまでの飲食業界の定説を覆す、実にユニークな取り組みを行い、大きな注目を集めている。
たとえば、お店を50分間手伝うことで一食が無料になる「まかない」というシステムがあり、飲食店開業を目指す人、起業を考える人、学生など、さまざまな人が訪れる。「まかない」をするともらえる"ただめし券"は必ずしも自分が使わなくてもよく、店の入口の壁に貼って他の誰かのお腹を満たすこともできる。通常の飲食店ではまず考えられない取り組みだ。
また、「あつらえ」は、通常の定食についてくる小鉢のおかずを、気分や体調に合わせて作ってもらえるシステム。「さしいれ」は、カウンターに置いてある飲み物を自由に飲むことができるシステム。そのほか、小林さんは、未来食堂の事業計画書や月次決算書などの経営情報を公開したり、月に一度"18歳未満"のための会員制サロン「サロン18禁」を開催したりしている。
こうした斬新なアイデアを次々に生み出す小林さんが「お店をやるんだ」と決めたのは15歳のとき。東京工業大学数学科を卒業、日本IBMやクックパッドでITエンジニアとして勤めたのち、1年4カ月の修行期間を経て、未来食堂をオープンした。「なぜレシピを隠すのか」「なぜ毎回同じものを提供すべきなのか」「そもそも、なんでメニューってあるんだろう?」といった疑問を持ち、飲食業の本質をいちから捉え直すことで、今までにない"未来の食堂"を作り上げたのだ。
INTERVIEWER
Appleユーザの中には、未来を形づくるすごい人がいる。本連載は、人脈作りのプロ・徳本昌大氏と日比谷尚武氏が今会いたいビジョナリストへアプローチ、彼らを突き動かす原動力と仕事の流儀について探り出すものである。
徳本昌大
ビジネスプロデューサー/ビズライト・テクノロジー取締役/ブロガー
日比谷尚武
コネクタ/Eightエバンジェリスト/at Will Work理事/ロックバー経営者
独立した人とは“マフィア”のような関係性
日比谷●せかいさん、ご無沙汰しています。
小林●こちらこそ。
徳本●日比谷さんはどういった関係なんですか?
小林●お付き合いは長いんですよ。未来食堂を開店する前に、「こういうお店を出そうと思うんだけどどう思いますか?」と聞いて回っていたうちの一人が日比谷さんで。
日比谷●そうそう。起業家が集まるコミュニティがあって、そこで知り合ったんですよね。でも、当時からすでにせかいさんの中では未来食堂のシステムや世界観はできていて、お店を出す覚悟も決まっているように見えました。
小林●たしかにそうだったかも。それで未来食堂を開店して、1週間くらいだったでしょうか。日比谷さんがお店に来てくれたんです。
日比谷●そこで“まかない”をさせていただいたんですよ。
徳本●そうだったんですね! まかないはとてもユニークなシステムですよね。
日比谷●将来、独立してお店を持ちたいという人が修行も兼ねて未来食堂を訪ねてくるんです。
徳本●実際に独立した人も大勢いますよね。ただ、それっていわゆる多店舗展開とは違うわけですよね。
小林●そうですね。多店舗展開はできると思いますが、私は最初からやるつもりはありませんでした。
日比谷●独立した方とは今も連絡を?
小林●ええ。ここで修行してからお店を出した人が10人くらいいて、その人たちとは密に連絡を取り合っています。
徳本●どういったお話をされるのですか?
小林●メニューはこういうのが受けているとか、こういうパーティープランをつくってみたとか…。あるいは新しく修行した人が独立してお店を出すことになったら、近くですでに独立している人を紹介したりもします。
徳本●未来食堂で修行していた先輩に助けてもらえるんですね。それは心強いでしょうね。
日比谷●皆さん忙しいと思いますが、せかいさんのお願いとなれば断れませんよね。
小林●皆、私のお願いは聞いてくれるんです。強い信頼関係で結ばれているからだと思います。
徳本●恩義を感じているのでしょう。
小林●「助けて」といえば、絶対に助けてくれる人が出てきてくれますから。
日比谷●そういう結びつきの強さは、ある意味“マフィア”に例えてもいいかもしれません。
徳本●“未来食堂マフィア”ですか。
日比谷●開店して3年ちょっとで10人以上になっているのはすごいことですね。ITの世界ではコミュニティマーケティングという手法が流行っていますが、せかいさんもそういうネットワークづくりみたいなものを仕組み化しようと考えていたのですか?
小林●いえ、考えていなかったです。
日比谷●今後そこを仕組み化していこうとは思いませんか?
小林●うーん…。でも、これって昔からあるやり方なんじゃないかなと思います。私が仕組み化して広める必要は特に感じていません。そんなに独自性があることでもないですし。