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多くの情報を抹殺してきたデジタル化

著者: 林信行

多くの情報を抹殺してきたデジタル化

平成時代を象徴するメディア、CDが登場したとき、それは半永久的に使われるメディアだと言われた(その前のレーザディスクという映像用ディスクも同様に呼ばれた)。だが、今、人にCDをもらうと困ってしまう。車に乗らないとCDが再生できないのだ。

年末に引越しをし、大量の持ち物を整理することになった。テクノロジー業界では30年近くそれなりに活躍してきたので貴重な資料も多い。アップルをはじめとするテクノロジー企業の歴史的資料や取材の記録だけでなく、歴史ある実家の荷物も混じっていて、桐ダンスの引き出しから昭和12年(1937年)の新聞が出てきたり、前回の東京オリンピックの公式プログラムも出てきたりした。面白い発見があるたびに、iPhoneで写真を撮り「#林アーカイブ」のハッシュタグでツイッターに投稿した。

しかし、もっとすごい仕事の記録もあるのに、それらが全然投稿できていないと気がついた。そうした記録の多くは膨大な量のフロッピーディスク、CD-ROM、MO、リムーバブルハードディスク、フラッシュメモリ、そして外付けハードディスクなどに記録されていたのだ。

紙の資料であれば80年以上前の新聞でも、すぐに内容がわかるし、撮影してツイッター投稿もできる。しかし、ディスク類に保存されたデータを取り出すには何重もの壁がある。まず昔のディスクドライブはUSBではなくSCSI(スカジー)という技術で接続していたので、これをどうつなげるかが問題だ。そもそもつなげられても、今のMacではOS側が読み込みに対応していないだろう。

一番の近道は当時使っていたパソコンにディスクをつないで読み込み、ネットワーク転送する方法だろうが、そもそも昔のパソコンが起動するかもわからなければ、ディスク類を接続するソフトや今のMacとネット接続するソフトが入っているかが怪しい。

ここで艱難辛苦を乗り越え、何とかファイルをMacに転送できたとしても、そもそも昔のファイルやデータが開けない可能性も高い。マイクロソフトのワードやエクセルで保存されたファイルは大丈夫かもしれないが、それより古い時代のファイルとなると60年ほどの歴史を持つテキストファイルの書類くらいしか開けない。JPEGをはじめとする、ほとんどの書類フォーマットは25年ほど前、WEBブラウザの普及で標準化されたものだからだ。

結局、パソコンを乗り換えるたびに引き継いできたデータか、早々とインターネットのサービスにアップロードしたデータ以外のほとんどは、今では死蔵データ、つまり手元にあっても開くことができないのだ。

いや、インターネットにアップロードしたデータも安心とは言えないかもしれない。会社が潰れたり、WEBサイトのリニューアルや方針変更で膨大な数のWEBの記事が消えてきた歴史を知っているからだ。わずか12年ほど前に登場したツイッターも、昔は他社のサービスに依存して写真を投稿していたが、それらのサービスの多くがなくなってしまった。そのため、昔のツイートを遡っても今では写真や動画が見れなくなってしまっている。

今から100年くらいすると1995年から50年間くらいは近代史の中でももっとも歴史資料が残っていない謎の時代になってしまうのではないかと危惧をしている。

テクノロジー業界は、技術設計の基軸のひとつに「子や孫に引き継げる」という視点を持ち込み、そろそろ短期視点で寿命の短い技術を乱造するのを止める頃合いではなかろうか。

Nobuyuki Hayashi

aka Nobi/デザインエンジニアを育てる教育プログラムを運営するジェームス ダイソン財団理事でグッドデザイン賞審査員。世の中の風景を変えるテクノロジーとデザインを取材し、執筆や講演、コンサルティング活動を通して広げる活動家。ツイッターアカウントは@nobi。