Mac業界の最新動向はもちろん、読者の皆様にいち早くお伝えしたい重要な情報、
日々の取材活動や編集作業を通して感じた雑感などを読みやすいスタイルで提供します。

Mac Fan メールマガジン

掲載日: 更新日:

性能の差はどこに現れる? 新MacBookエア購入の決め手③

性能の差はどこに現れる? 新MacBookエア購入の決め手③

Performance

価格以上のCPU/GPU性能と

高速なエンコード処理能力が魅力

フルカスタマイズのMacBookとほぼ変わらないCPU/GPU性能

MacBookエアのパフォーマンスは、現在リリースされているノートブックシリーズの中ではどの程度に位置するのだろうか。まず、ベンチマークの基本でもあるCPUとGPUの性能を軸に考察する。

昨今のCPUはマルチコア/マルチスレッドが主流だが、より高速な処理が必要な場合には、コアを1つだけにする代わりにオーバークロックして対応する「ターボブースト(Turbo Boost)」機能が備わっている。このため、今回はシングルおよびマルチコアの両性能を評価。また、GPUはセグメントごとに同じものが使われているものの、CPU内蔵型ゆえにある程度その性能に左右されるため、モデルごとに評価している。

新MacBookエアは比較した7モデル中CPU性能で4位、GPUでは3位と健闘。最新の第8世代「アンバーレイクY(Amber Lake Y)」を採用しているアドバンテージはあるものの、レティナディスプレイ搭載モデルとしては最安値でもあり、相応の順位といえるだろう。

CPU性能の比較

GPU性能の比較

新MacBook Airはシングル、マルチともにCore i7を搭載したフルカスタマイズMacBookとほぼ変わらない性能を持つ。と同時に、やはり上位モデルのMacBook Proにクロック周波数分だけきっちりと差をつけられている。

驚異的な省電力設計と高速なエンコード性能を実現

次にもう少し「MacBookエアらしさ」が出る部分に注目してみよう。まずはバッテリ性能だが、ここは歴代でもMacBookエアがもっとも得意するところであり、最新モデルでもそのポテンシャルは十分に引き出されている。MacBookプロだけでなく、旧モデルと比較しても搭載するバッテリ容量がもっとも少ないにも関わらず、平均的な駆動時間は7モデル中でトップの成績。まさに脅威的な省電力設計を備えているのだ。

もう1つ取り上げたいのがエンコード性能。新MacBookエアに搭載されているT2チップセットにはHEVC(H.265)ハードウェアエンコーダが搭載されており、これを利用することでCPUによるソフトウェアエンコードよりも圧倒的に高速な処理を行うことができる。現時点では対応ソフトウェアが少ないため、汎用性こそ低いものの、用途によっては2017年以前のMacBookプロを凌ぐパフォーマンスを期待できる。

バッテリ駆動時間の比較

HEVCエンコード性能の比較

MacBook Airのバッテリ効率の良さは相変わらずの優秀さで、消費電力の観点から見ると「Amber Lake Y」を採用した理由もよくわかる。一方で注目するべきなのは、やはりT2チップによるHEVCエンコード性能の高さだろう。CPU性能に依存せずに使えるのであれば、T2チップの市場価値は今後急速に高まるはずだ。【URL】https://marco.org/media/2018/11/macmini-ffmpeg.png

Speaker

見えない部分にも求められる哲学

さらに研ぎ澄まされた「音」の体験

 

目に見えない進化

アップル製品が紙の上でのスペック以上に高い評価を得られるのは、使っているときの「体験」を重視したデザインを採用しているところにある。それをはっきりと表すポイントの1つが「音」だろう。ノートブック、特に昨今の軽量・薄型化の傾向が高まる中で、性能の向上が難しくなっているのがビルトインのスピーカの性能向上だ。

より良い音を鳴らすためには、スピーカから出る音をいかに豊かに共鳴させ、増幅させながらクリアに表現するかが重要だ。これを実現するために、今までも筐体の空間を利用してさまざまな工夫が凝らされてきたが、今回の新MacBookエアの設計にはその進化の跡がはっきりと見られる。

各モデルのスピーカの配置

MacBook Air (2017)

スピーカをキーボード直下に配置、筐体全体で増幅した音をキーの隙間から鳴らす構造だ。ある程度の音量は確保できたが、低音の強調や全体のクリアさは一般的な外付けスピーカと比べるとかなり劣る。

MacBook (2017)

徹底して省力化された筐体によって、スピーカはキーボードの上部へ。グリルから直接音を出すことで音質はクリアになったが、場所の制約からユニット数を倍にして補っている音量もやや物足りなさがある。

MacBook Pro (2018)

スピーカは筐体手前側のスペースにゆったり配置され、共鳴された音は左右のグリルから鳴らす。ユニットも新設計のものが使われており、全体的なラウドネスも高品質なバランスが保たれている。

MacBook Air (2018)

スピーカはグリルの真下に配置されているが、ボディがユニットの形で切削されて密着させる構造に。筐体の反響による増幅とクリアさを両立させることで、旧モデルよりも圧倒的に音質が向上している。 Photo/ifixit.com

よりクリアな音像を実現

新MacBook Airのスピーカグリルは、現行のMac Book Proと同様にキーボード横に配置されている。

Customize

CTOオプションから見える

新MacBook Airの購入ターゲット

込められたメッセージ

アップル製品は店頭で販売される(いわゆる「吊るし」)商品以外にも、自分好みに構成を変える「CTO(カスタム・トゥー・オーダ)」の選択肢が豊富だ。各モデルに用意されているオプションを見てみると、それぞれに明らかな「個性」が見てとれる。

その傾向が特に顕著な要素が2つある。まずCPUだが、これは通常最低ラインが設定されており、より高い性能を求めるユーザ向けに上位モデルを用意するのが一般的だ。しかし、MacBookエアにはこれがない。これは前モデルやMacBookよりも2世代以上先のモデルを採用しており、単一の選択肢でも充分なスペックを持つ自信の現れだろう。

事実、コンシューマレベルで求められるCPU性能は飽和状態が近づいており、このスペックでも3~7年程度は現役として遜色なく使えるだろう。より高いパフォーマンスを求めるのであれば、より多くのコアやeDRAMといった負荷に強い要素を持つCPUを積んだMacBookプロを選択するべきであり、そういった意味でも歴代モデルでの中でも群を抜いて「割り切った」メッセージ性を感じる。

柔軟なストレージ容量

柔軟な選択肢を用意したのがストレージだ。エントリーモデルに128GBのSSDを搭載することで、価格をレティナディスプレイ搭載モデルとしては最安値に設定されている。これは「もっとも手を出しやすい製品」を意図して設定されているのだ(MacBookのストレージ構成は256GBから)。ところが、用意されている最大容量は1.5TBと、こちらはタッチバーを持たないMacBookプロよりも大きいものが選べる。その結果、最大購入価格もフルスペックでは逆転現象が起こきている。

なかなか前例のみない構成となった新MacBookエアだが、これはCPUとは逆に世の中がストレージサイズの増加を求める傾向にあるからだろう。これはiOSデバイスを見ても明らかで、ここに魅力を感じて投資するユーザも増えてきている。つまりMacBookエアの「愛されている」という意味は、単に使いやすいだけでなく、一度買ったら「長く使える」ことを大きな理由にして購入する層をターゲットにしているのだ。

各ノート型MacのCTOの選択肢

CTOで変更できるのは、CPUやストレージ以外にはメモリサイズのみ。GPUはディスクリートはなく、すべてチップ内蔵型が採用されているためアップグレードパスは用意されていない。ゆえにその個性は、性能面ではCPUに、将来性ではストレージに大きく出てくると考えていいだろう。

FaceTime HD Camera

カメラとT2チップの組み合わせで

「ツールとしての使い勝手」が向上

カメラの価値の多様化

Macの内蔵カメラの解像度は、iOSデバイスと比較するとあまり進化が見られない部分だ。これは「写真を美しく撮る」という目的をコンピュータに求めていないことが大きい(加えて、ディスプレイの薄さやコストを第一優先に考えると、必要十分なスペックに止めておくことは懸命な判断だといえるだろう)。

むしろ重要なのは、フェイスタイムのようなビデオ通話で素早く顔にピントが合うことだったり、カメラにかざした文字やQRコードを素早く読み取る速度であったりと、映ることよりも「道具としての使いやすさ」が充実することだ。ゆえにアップルはT2チップを採用し、カメラの制御にT2チップ内のイメージプロセッサを利用する方向を推し進めている。

さらにMacBookプロの高品質なディスプレイ性能を最大限引き出すために、環境光をカメラで測定し、色温度を自動調整してくれる「トゥルー・トーン(True Tone)」のようなソリューションまで登場し始めた。このようなクリエイティビティを支える用途への二次利用は、今後も期待できる分野だろう。

ノート型Macのカメラ性能の比較

搭載されるカメラ性能は最大で720pだが、フルハイビジョン(1080i)と比較して水平走査周波数は多い。T2チップを搭載していて2ポートのThunderbolt 3を搭載したモデルは、現在MacBook Airのみである。これは、今後製品を選ぶうえでの判断基準となる可能性もある。

ビデオ通話の質にも影響

Macのカメラで大切なのは、美しい画質ではなく、ツールとしての使いやすさだ。新MacBook Airでは、T2チップによってこのような部分の使い勝手も向上。

新MacBook Airに見る Appleの環境への考え方

今回発表された新MacBook Airは、これまで分析してきたとおり、あらゆる角度から見て「生まれ変わった新しいモデル」と評して間違いないだろう。だが、もうひとつ忘れてはならないポイントがある。それはこの筐体に使われる素材に100%リサイクルのアルミニウムが採用されたということだ。

Appleは、自分たちが地球環境に与える影響や問題に対して熱心に取り組む企業の1つだ。近年では有害物質の徹底した削減や100%再生可能エネルギーの達成など数多くの実績を残してきている。また、多くの製品でアルミニウムとガラス素材を採用している理由に、「リサイクルできる」ということがあるのは確かだ。だが、リサイクル処理を経て、製品の素材に使えるほどの十分な強度まで持ってくるのは、コスト的にも技術的にも決して容易なことではない。

にも関わらず、Appleはあえてノートブックの中でシェアがもっとも大きいMacBook Airを、その取り組みの第だ。それは毎年3億近いデバイスを販売する企業が、地球にどれだけ大きなインパクトを与えているのかを真摯に考えている証左でもある。事実、この取り組みは鉱石の発掘をすることがなくなるだけでなく、製造過程の二酸化炭素排出量を約50%軽減できるというメリットもあるのだ。

これはAppleが単に自社だけのことを考えているのではなく、地球そのものの未来について深慮し、投資を行う企業であるということだ。テクノロジーでリードする世界一の集団が持つ理念は、他の追随を許さないほど高潔で、また尊敬するべきものでもある。

新MacBook Airの筐体の素材には、回収した削りくずを原子レベルで再生した100%リサイクルのアルミニウムを採用。地球から新しいアルミニウムを一切採掘することなく、これまでと同じ強度、耐久性、洗練された仕上げを実現している。