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フラットデザインの次に訪れる「フルイドインターフェイス」の時代

著者: 氷川りそな

フラットデザインの次に訪れる「フルイドインターフェイス」の時代

2017年後半に発売されたiPhone Xを機に、AppleはiPhoneに長年搭載してきたホームボタンを取り去る決断をした。こうした大きな「ハードウェア革命」と同時に進められたのが、「フルイドインターフェイス」と呼ばれるUIへの世代交代である。

求められる新しいUI

コンピュータデバイスにおいて、その操作を司るUI(ユーザインターフェイス)やUX(ユーザ体験)は不変なものではなく、むしろ時代やデバイスの進化に合わせて絶えず変化していくものである。これはアップル製品でも同様だ。

2007年、最初のiPhoneが登場したときのUIは「スキューモーフィズム(Skeuomorphism)」と呼ばれた。ほかの物質に似せるために行うデザインや装飾をする手法で、アプリの中ではリアルでクラシカルなコンパスや紙のテクスチャ素材を施したメモ帳、革張りのカレンダーといった構成パーツがそれにあたる。

これは「メタファー(暗喩)」であり、スマートフォンという新しいテクノロジーを現実にあるモノになぞらえることで、使い方を推測しやすくする技法である。

これが「直感的で使いやすい」という、iPhone独自の体験を作り出す基盤となったが、やがてこの手法は限界を迎える。スキューモーフィズムは実在しない機能をUIパーツにできない。即ち、メタファーの枯渇が始まったのだ。

これを解決するために2013年、iOS 7から提示されたのが「フラットデザイン(Flat Design)」である。iPhoneが発売されて6年が経ち、ユーザがモバイルインターフェイスに慣れ親しむのに十分な時間が経った。これを鑑みたアップルはコンテンツの質や、アプリの機能といったより本質的な部分にフォーカスすることを推奨。この理念に基づき、パーツから素材的なテクスチャ感や立体感は極限まで抑えるデザインへと移行が始まる。そしてUIは画面の隅々まで活用することができるようになった。

これはモバイルデバイスの画面が年を追うごとに大型化していったことにも関係している。もっと広く、見やすく。そう追求し続けた結果、2017年に登場したiPhone Xではホームボタンすらも排した「ベゼルレス」の全画面時代へと突入する。手のひらいっぱいに広がるアプリの世界は、境界線を意識せずより没入感の強い体験を提供するようになった。

進化し続けるユーザ体験

これを機にUIは次なる進化を求められた。ホームボタンを持たないiOSデバイスは従来とは異なる操作方法を求めるが、アップルはこれにとどまらず、デザインやUIのインタラクションにもメスを入れた。これが第3世代のデザイン手法となる「フルイドインターフェイス(Fluid Interfaces)」だ。

iPhone X以降のベゼルレスデザインのiOSデバイスを操作していて驚かされるのは、その操作レスポンスの速さや滑らかさだ。アプリの起動速度はもちろん、ホーム画面に戻ったり別のアプリに切り替える動作などもストレスなく、心地よく軽快に遷移する。

これは単にハードウェアの性能向上だけでもたらされるわけではない。たとえばアプリの中で動くボタンやカードといったパーツは起動が速いだけでなく、押したときや拡大、縮小といったユーザが触れたときに返すリアクションにわずかにバウンス(弾み)が加えられるなど、意思疎通が見られるようなインタラクションが加えられている。

こうした変更によってすべてのUIは相互につながりを持ち、動きに流れを感じられるようになった。さながら画面の中にひとつの「世界」が作られているような、そんな印象さえ覚えるのではないだろうか。

これがまさに「流体(フルイド)」の名を持つ新しいインターフェイスの真の狙いである。没入感が高まったベゼルレス画面の中に生命の息吹を感じさせるような世界を作り出すことで、ユーザはその操作体験に「リアル」を感じることができる。

道具とは本来人間の手足の代用品であり、優れた道具ほどそれを「使っている」ことを感じさせず、ダイレクトなフィードバックを得られるという。iOSが目指すのはまさにそれである。スキューモーフィズムの限界を超え、デジタルという現実を超越した道具として優れた体験を提供するフルイドインターフェイスは、この先5年のモバイル体験をリードする重要な役割を担うことになるだろう。

2018年6月に開催されたWWDC2018では「Designing Fluid Interfaces」というセッションが行われ、UIデザインを担当したスタッフが直接このコンセプトを詳細に語っている。そのときの動画は、以下のURLで視聴可能だ。【URL】developer.apple.com/videos/play/wwdc2018/803