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40台のiPhoneで囲むKroi「Method」MV撮影の舞台裏! 木村太一監督×内田誠司プロデューサーが語る「Blackmagic Camera」活用術

40台のiPhoneで囲むKroi「Method」MV撮影の舞台裏! 木村太一監督×内田誠司プロデューサーが語る「Blackmagic Camera」活用術

TVアニメ『SAKAMOTO DAYS』のOP楽曲としても知られるKroi(クロイ)の『Method』のMVは、40台以上のiPhoneがメンバーをぐるりと囲み、演奏の熱量を大胆な“カット割り”で映像化された。

この撮影の要となったのが、Blackmagic Designの「Blackmagic Camera」アプリとiPadによる一括コントロール。木村太一監督と撮影システムを設計したDIT内田誠司に制作の舞台裏を聞いた。

※取材は別日実施分を再構成しています。

【プロフィール】
木村太一(きむら・たいち)
映像ディレクター/映画監督。1987年東京生まれ。12歳で渡英し映像制作を学ぶ。MVやドキュメンタリー、映画などを手がけ、国内外で活動。

内田誠司(うちだ・せいじ)
DIT(Digital Imaging Technician)。映像制作の現場で撮影設計から仕上げのルック作成までをつなぎ、クリエイティブとテクニカルの両面から現場を支える。

Kroiは、2018年2月に結成された5人組バンド。ロックやソウル、ファンク、ヒップホップ、ジャズやフュージョンなどあらゆる音楽を混ぜ合わせることで生まれるサウンドで注目を集める。2025年9月にYouTubeで公開された『Method』のMVは975万回再生される。

40台のiPhoneで“囲む”ことで生じるエネルギー

『Method』のMVを再生すると、すぐに“異質感”が飛び込んでくる。スタジオの中心で演奏するKroiのメンバー5人を、無数のレンズが捉える。カメラの画角は固定されているが、楽曲の展開とともに視点が目まぐるしく切り替わっていく。複数視点の集積でライブの熱量を伝える大胆な発想を、もっとも身近なiPhoneでつくり上げたのが本作だ。

スピーディで多彩なカット割りで表現される『Method』のMVは40台以上のiPhone 16 Pro/16 Pro Maxを用いて撮影された。

今回の主役は、iPhoneそのものの高画質ではない。40台規模で同時に撮影をコントロールし、ポストプロダクションの過程で破綻させないための緻密な設計こそが本質だ。木村監督の発想とDIT内田の仕組みが噛み合った瞬間に、iPhoneは“スマホカメラ”から“プロの映像表現の道具”へと役割を変えた。

「大掛かりな特機(特殊撮影機材)やカメラの動きで押すよりも、カット割りでエネルギーを出したかったんです。最近あまり見ないテクスチャで撮れたら面白いし、やるなら“やり過ぎ”くらいの台数があったほうが成立します」(木村監督)

当初は40台のVHSカメラで撮る案も検討されたが、台数とビデオテープの運用を考えると現実的ではない。かといって、シネマカメラを40台揃える予算は膨大すぎる。そこで、DIT内田や技術チームとの相談で浮上したのがiPhoneの活用だった。

「40台並べたら、どうしてもカメラ自体が映り込みます。だったら隠すよりも映っても絵になるものがいい。透明のiPhoneケースで揃えたのも、空間全体を“クリーン”な世界観にしたかったんです」(木村監督)

しかし、言葉だけでは映像のイメージを伝えづらかったこともあり、当初Kroi側の反応は「iPhoneで撮るんだ?」という半信半疑からのスタートだったという。

「でも、現場にずらっと並んだiPhoneを見た瞬間に、『おお、すごい!』とメンバーの空気が変わったのをよく覚えています」(木村監督)

さらに、台数を増やすほど現場の自由度が上がったことも、作品づくりに想定以上の効果をもたらしたという。

「撮影の前にすべてを決め切らなくても、置いてみると欲しい映像の角度が湧いてくるんです。最終的には私物のiPhoneも混ざって、予備を含め47台くらい使ったと思います」(木村監督)

「40台」という数字自体は、厳密な計算から導いたものではないと木村監督は語る。だが、その狙いは明快だ。固定カメラの視点を増やし、編集のカット割りでスピード感とエネルギーを出すためにiPhoneの台数が必要だったのだ。




「40台を回す」より先に「40台を揃える」

木村監督のアイデアを実現するには、40台規模のiPhoneをカメラとして同期するための仕組みづくりが欠かせない。DIT内田は、同一のWi-Fiネットワーク内にあるiPhoneを、1台のiPadからまとめてリモートコントロールするシステムを構築した。

学生時代から映像のグレーディングにBlackmagicの「DaVinci Resolve Studio」を愛用してきたDIT内田が選んだのは、iPhone用の「Blackmagic Camera」アプリだ。

「Blackmagic Camera」は、iPhone、iPad、Androidでシネマカメラ調の撮影を可能とする無料アプリ。
出典●Blackmagic Camera

「今回の撮影では、台数をどう管理するかを最初に決めました。1台ずつRECボタンを押すような運用では、確実に破綻するからです。いろいろ調べて、Blackmagic Cameraならフレームレートやシャッター速度、ホワイトバランス、ISOといった設定を揃えられることがわかりました」(DIT内田)

また、撮影方法を検討していたタイミングで、Blackmagic Cameraアプリに9台を同期して同時に撮影できるアップデートが入った。これにより、より多くのiPhoneによるマルチカム撮影の実現性が一気に高まった。

「Inter BEE 2024の会場でBlackmagicの開発メンバーに相談してみたところ、『理論上は240台程度まで可能』というコメントをいただきました。40台くらいであれば1台のiPadでコントロールできるのでは、と実現の可能性が一気に高まりました」(DIT内田)

その後、40台のiPhoneが同時に動作するかどうかの検証と、現場オペレーションの詰めが急ピッチで進められた。Blackmagic Cameraアプリを用いたマルチカム撮影では、外部のタイムコードジェネレータとして「Tentacle Sync」を接続し、撮影フォーマットも含めて最適解が探られた。

「当時はまだiPhone 16 Pro/16 Pro Maxだったので、タイムコード同期やProRes RAWには未対応でした。Blackmagic Cameraアプリでは、ProRes 422 HQでの記録を基本に、グレーディングを前提としたApple Log撮影を行いました」(DIT内田)

「Blackmagic Camera」アプリでは、画角やフォーカスのマニュアル設定のほか、ホワイトバランスやISOなどの設定をリモートで確認し、映像をプレビューできる。

設営に8時間、撮影は1時間

MV収録当日の撮影時間そのものは短い。だが、iPhoneの設置やケーブル/電源の配線、機材の動作チェックなど、全部が同時に動くためのセッティングは実に地道な作業となった。

美術と照明が先にセットアップされたスタジオでは、カメラの台数とアングルを決め、表示を確認する作業にほとんどの時間が費やされた。

40台のカメラがあるということは、40台分のレンズと角度があるということでもある。木村監督は、規則正しい配置ではなく、画が面白くなる角度を優先してアングルを指定していった。

「等間隔に並べるのではなく、気に入ったアングルに置いていきました。ボーカルは多めにしたり、あえて偏らせたり。気に入った角度を探していく作業は単純ですけど、一番体力を使いましたね。全部横位置なのは、単純に縦が好きじゃないからです」(木村監督)

iPhoneはスタンドに固定され、変換アダプタを介してLANケーブルで接続された。設置の制約がある一部のiPhoneはWi-Fiで接続された。

多くのiPhoneはシンプルな一脚スタンドで固定し、映像にインパクトをもたらす俯瞰撮影ではセンチュリースタンドと組み合わせて天井から吊り下げた。より近くに寄りたい場合は曲がるタイプのスタンドを使い、ギターなどの楽器には吸盤やクランプ型のマウントで指の動きまでアップで撮れるよう設置した。

映像のインパクトと疾走感の演出のため、俯瞰からの撮影や楽器のアップ撮影を行った。
多種多様な画角にiPhoneが設置された。

しかし本番に向けた最大の不安要素は、設定の複雑さよりも電源管理と熱対策にあったという。

「フル充電されているといっても、設定中も電源を入れておく必要があるので、バッテリが減っている個体がないか撮影前にみんなでチェックしました」(木村監督)

「あとは熱ですね。最後のほうで、熱を帯びてコマ落ちした端末がありました。台数が多いと個体差がそのままリスクになるので、事前のテストと当日のチェック手順が重要でした。新しいiPhone(17 Pro/17 Pro Max)では、熱対策も進んでいるそうですね」(DIT内田)

40台以上のiPhoneの電源管理には特に気が払われた。一斉充電できるスタンドなどを利用し、バッテリ切れのリスクを最小限とした。

40台規模のマルチカム撮影という複雑なシステムにもかかわらず、綿密な設営準備と確認プロセスが功を奏し、本番の撮影自体はスムーズに進み、大きなトラブルは発生しなかった。RECの総時間を絞り込むことで運用リスクを下げ、短時間で撮り切れる設計にできたことも成功の要因だという。

「(内田)誠司くんが仕組みを作ってくれたので、僕はRECボタンを数回押しただけの感覚です。本番はフルコーラスで4テイクだったので、4回ボタンを押しただけですね。現場にいる時間のほとんどは『撮る前』の時間でした」(木村監督)




撮影後に始まる“本番”で40台分の素材を迷子にしない

撮影が短く終わっても、ポスプロの作業は長い。短尺の映像であっても、4KのProRes 422 HQで撮影したデータ40台分をSSDにコピーするだけでも相当な時間がかかる。撮影は23時頃に終わったが、データのコピーと素材確認がすべて完了したのは翌日の13時を回っていたという。

さらに、40台以上の素材は編集にタイムラインの地獄を呼び込む。タイムラインに並ぶレイヤーは最低でも40。テイクを重ねれば、その数はさらに増えていく。

「大量の映像素材を扱うのは慣れているんですけど、今回は40台分をレイヤーで管理しないといけない。色わけしておかないと、どのiPhoneがどの楽器に向いている映像かわからなくなるところでした」(木村監督)

撮影後のデータ整理に時間と手間がかかることを織り込んでいたDIT内田は、データ管理の工夫として、カメラ配置のマッピングとファイル名の命名ルールを決めていた。

「スタッフの一人にお願いして、どの位置にどのiPhoneを置いたか、全部手書きでマップを作ってもらいました。かなりの力技でしたが、最終的にはそれが一番確実でした。また、Blackmagic Cameraではファイル名をカスタマイズできるので、単なる連番にならないのが助かりました」(DIT内田)

編集作業はMacBook Proで進められ、素材量が多いにもかかわらず、プロキシを活用することでテンポを落とさず進行できたという。そして最後の“仕上げ”として、撮影後のグレーディングには「DaVinci Resolve Studio」を使用した。iPhone素材であっても、ワークフローの終点は従来のシネマ制作と地続きだ。

「iPhoneで撮っていることは強調したかったです。クリーンなルックのほうが近代的ですし、フィルムグレインを足して無理にシネマチックに寄せるのではなく、作品にとって何が一番いいかを考えました。その代わり編集段階では、iPhoneならではの画角や距離感を、カット割りやスプリットスクリーンで前面に出しました」(木村監督)

映像のグレーディングには、Blackmagicの「DaVinci Resolve Studio」が用いられた。
出典●blackmagicdesign

iPhoneは新たな“当たり前”をもたらす

40台以上のiPhoneを用いた撮影というと、その台数のインパクトに注目が集まりがちだ。しかし本作の意義は、iPhoneを使ったこと自体の特別さではない。固定視点の映像を編集で魅せるための選択肢が、身近なデバイスによって更新された点にある。

「もし似たことをやるなら、撮影前にルールを決めていなければ現場が止まります。逆に言えば、そこまで設計できればiPhoneは台数を揃えやすく、角度の自由度も高い。小規模でも十分に面白いと思います」(DIT内田)

木村監督もまた、iPhoneならではの自由度の高さと、映像素材としての確かさをあらためて確認できたという。

「iPhoneは置ける角度が多いのが強い。俯瞰や手元、楽器の中みたいに、普通のカメラだと面倒な場所にスッと入れられる。今回は40台でやりましたけど、数台でもやり方自体は遊べます。まずは小さく試して、そこから発想を広げていくのがいいんじゃないですかね。今回は撮影よりも、後処理の設計が作品の出来に直結する感覚がありました」(木村監督)

iPhoneが当たり前にポケットに入る時代、プロの映像制作現場の当たり前もまた更新されていく。その更新の瞬間を、Kroi『Method』は気持ちよく可視化してみせた。

著者プロフィール

栗原亮(Arkhē)

栗原亮(Arkhē)

合同会社アルケー代表。1975年東京都日野市生まれ、日本大学大学院文学研究科修士課程修了(哲学)。 出版社勤務を経て、2002年よりフリーランスの編集者兼ライターとして活動を開始。 主にApple社のMac、iPhone、iPadに関する記事を各メディアで執筆。 本誌『Mac Fan』でも「MacBook裏メニュー」「Macの媚薬」などを連載中。

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