Mac業界の最新動向はもちろん、読者の皆様にいち早くお伝えしたい重要な情報、
日々の取材活動や編集作業を通して感じた雑感などを読みやすいスタイルで提供します。

Mac Fan メールマガジン

掲載日:

「スマホ新法」によるアプリストア解禁は、iPhoneユーザを幸せにするのか? Appleがみせる歩み寄りと防衛線

著者: 山下洋一

「スマホ新法」によるアプリストア解禁は、iPhoneユーザを幸せにするのか? Appleがみせる歩み寄りと防衛線

日本にも広がる「アプリストア解禁」の流れ。スマホ新法でiPhone向けサービスはどう変わる?

2023年にEUでデジタル市場法(DMA)の主要規定の適用が始まったことを受け、Appleは外部アプリストアの解禁やアプリ内決済手段の開放など、大きな制度対応を求められてきました。

こうした国際的な規制の動きは日本にも影響を与えており、「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」(いわゆるスマホ新法)が2025年12月18日に施行される予定です。

スマホ新法は、EUのDMAとの共通性を指摘されることが多いものの、日本独自の事情も踏まえて制度設計されており、どの程度の開放が義務づけられるかは今後の政令やガイドラインによって具体化されていきます。とはいえ、アプリ配信や課金手段など、iPhone向けサービスにこれまでとは異なる枠組みが導入される可能性があることは確かです。




EUではすでに不便さや安全面の懸念も。規制下で、Appleはどのような価値を提供するのか

EUでは、DMAによって競争環境が整う一方、その影響により、欧州地域においてApple製品の一部の新機能が提供されなかったり、複数のストアを行き来する面倒さや、安全面への懸念が指摘されるなど、副作用も報告されています。日本でも同様の混乱が生じるのではないかという不安を抱く人も少なくありません。

開発者手数料の引き下げで、アプリ価格はどう変化したか?
競争が値下げにつながるとは限りません。EUのDMA導入後に代替サービスを選択した開発者の製品価格を調査した「開発者手数料の引き下げで、アプリ価格はどう変化したか?」(Analysis Groupのジェーン・チェイ氏が調査)によると、価格を下げたアプリはわずか9%でした。画像●Analysis Group

ただ一方で、こうした規制の動きは、Appleがアプリエコシステムを根本から見直すきっかけにもなっています。近年、同社はユーザや開発者が抱えてきた不満に応え、App Storeの体験や運用ルールを改善しようとする、前向きな動きを見せ始めています。

そこで今回は「リスクや弊害」という後ろ向きな視点ではなく、このタイミングで「Appleがどのような価値を提供しようとしているのか」という別の視点から、この変化を読み解いていきます。

Appleのガイドライン改定に見える「許容と保護」の新バランス。主な3つのポイントを整理

Appleの変化を象徴するのが、 2025年11月13日のApp Reviewガイドラインの更新です。その主な内容は以下のとおり。

(1)ミニアプリ/ミニゲームの許容

まず、規定「4.7」、「4.7.2」、「4.7.5」で、HTML5/JavaScriptで作られたミニアプリやミニゲーム、WeChatのようなスーパーアプリ内で提供されるコンテンツが、明確にストアガイドラインの対象であると示されました。

ただし、ミニアプリ/ミニゲームを許容する一方で、未成年保護やAPIアクセス制限などの適切な管理を義務づけます。「認めるが、管理はする」という姿勢を明確にした形です。

アプリ課金のガイドライン
Appleはミニアプリ/ゲームをApp Reviewガイドラインの適用対象に。同時に、アプリ内課金の売上に対する手数料を通常の半分の15%とする「Mini Apps Partner Program」を開始しました。画像●Apple

(2)データ共有先の明示

次に、個人データを第三者と共有する際の規定「5.1.2(i)」に、「共有先としてサードパーティAIを含む」という文言が追加されました。

アプリにChatGPTなどのAIを組み込む場合、「ユーザのデータをOpenAIなどに送信すること」を明示しなければなりません。AI時代に向けた透明性の確保が求められるようになりました。

(3)悪質なアプリ対策

そして、開発者の許可を得ずに他社のブランドやアイコンを使用する“模倣アプリ”を防ぐ規定「4.1(c)」の追加。また、不当に高い利息(年利36%超)や短い期間(60日以内)での返済を迫る高利貸しアプリの禁止「3.2.2(ix)」など、悪質なアプリ対策が強化されました。

さらに、規定「1.2.1(a)」、「4.7.5」では、動画・配信アプリへの年齢確認の実装が厳格化されています。

模倣アプリへの対策
既存の人気アプリのデザインや機能、ブランドを模倣して不当に利益を得ようとする「模倣アプリ」。ヒット製品を生み出した開発者を長年悩ませていた、同問題への対策が明文化されました。画像●X

これらの変更を総合すると、「AI」や「ミニアプリ」といった新しい波は受け入れる一方で、「“安全・信頼”というApp Storeの価値の核心は維持する」という姿勢を一段と明確に示したといるでしょう。

その価値は、Appleプラットフォームにおいてユーザを守る“壁”となります。従来の独占的な囲い込みの壁ではなく、ユーザが「安心して使える」と思えるメリットを積み上げ、「ユーザによって選ばれる新たな壁」を強化しようとしているわけです。




“選ばれるストア”を目指す技術支援とエコシステム強化。Appleは開発者向けイベントを開催

Appleの取り組みは、ガイドラインの整備だけにとどまりません。開発者が「App Storeでの配信を選ぶメリット」を実感できるよう、技術面の支援も広がっています。

たとえば、11月にApple Parkで「Optimize your app’s speed and efficiency(アプリのスピードと効率性を最適化する)」という開発者向けの「Meet with Apple」イベントを開催しました。そこでは、アプリの速度と効率性を最適化する方法をテーマに、次の4つの観点で詳細な技術解説が行われています。

(1)新デザイン言語「Liquid Glass」を採用する際の、バッテリおよび電力消費の最適化。
(2)オンデバイスの生成AI「Foundation Models」で体感速度を向上させる方法。
(3)SwiftUIのビュー更新を最適化する実践的なテクニック。
(4)Instrumentsを用いたSnapchatのパフォーマンス計測事例。

これらは、今後のアプリ開発において「AIやリッチUIを使っても、バッテリやレスポンスを犠牲にしない」という新しい基準を共有するものと言えます。

SwiftUIのパフォーマンス
犬の写真を使った神経衰弱ゲームを例に、SwiftUIのパフォーマンスを深掘り。 画像●Optimize your app’s speed and efficiency | Meet with Apple

ハードとソフト、サービスが一体となる「Apple品質」は、“今後の市場”でも秀でた強み

特にAIでは、大規模言語モデルをオンデバイスで動かせるFoundation Modelsフレームワークが登場し、アプリ側でのAI活用の幅が大きく広がりました。

Appleは「もっとも賢いモデル」を作る競争では戦わず、ユーザの実際の利用環境にAI技術をとけ込ませる路線を取っています。「1ミリ秒単位の遅延削減」や「電力効率の追求」は、地味な改善ながらも「毎日使える道具としてのAI」を完成させるためには不可欠な要素です。

AI向けのフレームワーク
Foundation Modelフレームワークを活用したアプリ「My Goals」。ユーザがやりたいトレーニングの内容を自然な言葉で説明すると、AIがそれを理解してメニューに変換してくれます。

ハードウェアとソフトウェア、サービスが一体となった環境のみが実現しうる「Apple品質」。それを最大限に引き出すアプリと、その体験を選ぶユーザが増加していくことが、ストアが開放された市場においてもAppleの強みとなり得るのです。




アプリストア解放の目的は? App Storeへの不満の解消と、イノベーションのあと押し

アプリストアをめぐっては、手数料や審査プロセス、質の低いアプリへの対処の遅さなどに開発者やユーザの不満が積み上がっていたのも事実です。規制はその是正を狙ったものであり、EUのDMAやスマホ新法は「競争原理が働かなければ、価格競争もイノベーションも生まれない」という経済視点に基づいています。

しかし、ユーザが求めているのは、必ずしも「安さ」や「自由」だけではありません。「利便性」や「安心感」が優先される場合もあります。

EUでのDMA運用を見ると、議論が二極化し、Appleと規制当局の対立が激しくなるほど、ユーザ体験が分断されるケースも出ているようです。“安全のための警告”が過剰表示される、ストアや設定が複雑化するなど、日常的な使い勝手が損なわれる例も報じられています。「規制が求める理想」と「ユーザ・開発者が実際に望む現実」の間に、明確な乖離が存在しているのが実情です。

スマホ新法の調和の姿勢。安全と利便性を両立する“秩序ある開放”に期待はできる?

一方、AppleはDMA後、App Store Connectや開発者向けガイドラインや透明性の改善、検索・おすすめ機能の強化、放置アプリの整理など、体験価値を底上げする施策を積み重ねてきました。

これは、規制による混乱を最小化する姿勢といえるでしょう。また、「Meet with Apple」イベントのような、WWDC以外でも開発者をサポートするプログラムを拡充させています。

開発者をサポートする「Meet with Apple」
Apple Park内の「Apple Developer Center」で行われた「Optimize your app’s speed and efficiency」。Appleは、対面とオンラインで開発者が参加できる新形式のイベントを積極的に提供し始めています。

アプリストアの完全自由化は、悪質アプリの流入や市場の混乱を招くリスクがあります。EUの状況を見る限り、一定の管理が働いているほうが、ユーザと開発者の双方にとって実利が大きいという現実が浮き彫りになっています。

日本のスマホ新法は、競争環境の改善を主目的としながらも、セキュリティやプライバシーに配慮した例外措置を認めるなど、国際的な潮流と国内事情の調和を図ろうという姿勢が見て取れます。Appleの姿勢にも変化が見える今、不毛な対立ではなく、ユーザの安全と利便性が両立する“秩序ある開放”の実現を期待したいところです。




おすすめの記事

著者プロフィール

山下洋一

山下洋一

サンフランシスコベイエリア在住のフリーライター。1997年から米国暮らし、以来Appleのお膝元からTechレポートを数多くのメディアに執筆する。

この著者の記事一覧

×
×