乳幼児の死因の5位は、睡眠中の原因のわからない病気。スヤスヤと穏やかに見える昼寝中も、気が抜けない。長年、保育者の頭を悩ませてきたこの課題に対して、デバイスやアプリによるDXで安全を追求する園がある。山積するさまざまな保育の課題に、豊富な経験とICTをかけ合わせて取り組むポピンズエデュケア社を取材した。
子どもの「見守り」の負担を軽減
医療が発達した現代でも、出産はなお命がけだ。しかも、誕生したばかりの子どもは、ひどくか弱く見える。寝ている我が子が息をしているか、鼻や口の上に手をかざしたり、ベビー服の胸の動きをつぶさに見つめたりして確かめた経験がある親は少なくないだろう。
実際、こども家庭庁によれば、令和5年の乳幼児の死因第5位は「睡眠中の原因の分からない病気」と定義される「乳幼児突然死症候群(SIDS)」だ。寝具などによる窒息などの事故を合わせれば、睡眠中のリスクはさらに増える。
睡眠中に注意が必要なのは、家庭内だけではない。子どもには欠かせない「お昼寝」の時間がある保育園など、乳幼児の保育施設でも同様だ。社会的インフラとして小さな命を預かる以上、さらなる危機管理が求められる。
細心の注意を払わなければならない睡眠中の見守りは「保育現場の大きな課題だった」と、港区認証保育所のポピンズナーサリースクール広尾施設長・松田奈美氏は話す。

同スクールを運営するポピンズエデュケア社の保育施設では、個々の乳幼児のお昼寝中の状態を、保育者が目視でチェックしてきたという。しかし、その負担は大きかった。5分おきに体の向きや呼吸の有無を確認し、寝入った子どもたちを起こさないよう、薄暗い室内で記録を手書きする──。
肉体だけでなく、精神的にもかかるこうした負担を軽減するため、同社はセンサデバイスとアプリの力で、“見守りのDX”を加速させることにした。
「人の余裕を生み出す」DX
かねてからICT利用に積極的だった同社が、運営する全29の認証保育施設へ2025年6月から導入したのが、午睡(お昼寝)チェックセンサーと専用アプリによる「ルクミー午睡チェック」だ。2019年から一部施設で導入していたが、見守りの強化と保育者の負担軽減のため、拡大したという。
「ルクミー午睡チェック」は、AIを中心としたテクノロジーで、保育などの課題を解決することを目指すユニファ社が開発した、保育施設対象の園児の見守りシステム。センサでお昼寝する園児の体の向きを検知し、アプリで自動的に記録する。うつぶせ寝や体動の静止した状態が続いた場合、アプリ上でアラートが鳴って知らせてくれる。


重要なのは、こうした技術はそれだけですべてのリスクを防いでくれるものではないこと。ユニファ社も「本製品はSIDSの予防に用いる機器ではない」「保育者による目視と併用し、見守りの精度を高めるもの」と強調する。
一般的な乳幼児用の午睡チェックセンサでは、危険ではないタイミングでアラートが発生したり、逆に必要なタイミングで警告してくれなかったり、という問題が発生する。ルクミー午睡チェックにも保育現場からそうした声があがるというが、ユニファ社によると「開発チームを中心にセンサ検出の見直しやテストなどを繰り返し行い、課題の要因を洗い出し、改善に努めている」そうだ。
しかし、保育現場を取材すると、ルクミー午睡チェックのようなDXのメリットは、それ自体による完璧な安全とは別のところにあると気づかされた。松田氏は、導入の最大の効果を「保育者の心のゆとりが生まれたこと」だったと振り返る。
「人の目によるチェックが重要であることは今も昔も変わりません。ただ、それを保育者以外が補助してくれることで、保育者に精神的な余裕がもたらされ、結果として『保育と教育』という、私たちが目指す保育の在り方に近づきやすくなったと感じます」
保育者の幸せを子に還元
ポピンズエデュケア社オペレーション部ゼネラルマネージャー・小野綾子氏は、ルクミー午睡チェックのような補助的なDXを推進することで、人によるサービスがさらに手厚くなるというサイクルが、「同社の保育施設の各所で生まれている」と話す。シッターやオーダーメイド介護事業なども展開するポピンズグループとして提供する、「ポピンズアプリ」もその一例だ。

このアプリは、保育領域では、日々の保護者と施設との連絡帳のやりとりをDXしている。保護者はアプリで家庭での子どもの様子を入力。園からは、その日の子どもの様子や給食の献立、お便りが送られてくる。休みや延長保育など、子どもの予定の確認や変更もアプリからできる。未だに連絡帳が手書きの園もある中、こうした機能は保護者と保育者双方の手間を省き人気だ、と小野氏は語る。

そして、この「ポピンズアプリ」やウェブから利用できるのが「ポピンズシステム」だ。たとえば、保育園の玄関にiPadが置かれ、そこにスマートフォンで表示したQRコードをかざすだけで登降園の打刻が完了する。また、1日のスケジュールや年間予定の作成などにもこのシステムが使われており、保育者を含め子どもに関わる人たちの負担軽減に寄与している。小野氏は「現在、弊社運営の300以上の保育施設で導入されていて、好評です」と明かす。
なぜ、同社はこうしたDXに注力するのか。取締役副社長の安達美里氏は「保育現場の環境を改善することで、社会にも還元できる」と説明する。

ポピンズグループでは、その前身となる組織の立ち上げから「働く女性を支援すること」を理念としてきた。そして、「その対象はお客様に限らない」と言う。同社の保育施設で働く保育士もまた、そのまなざしの中にある。
保育士たちが幸せに働くことが、預かる子どもたち、預ける親、ひいては社会を幸せにしていく。安達氏はそのためにも、「現場の負担を軽減するDX施策をこれからも継続していきたい」と力を込めた。
※この記事は『Mac Fan 2025年11月号』に掲載されたものです。
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著者プロフィール
朽木誠一郎
朝日新聞デジタル機動報道部記者、同withnews副編集長。取材テーマはネットと医療、アスリート、アメコミ映画など。群馬大学医学部医学科卒、編集プロダクション・ノオトで編集/ライティングのスキルを磨く。近著に『医療記者の40kgダイエット』『健康を食い物にするメディアたち』など。









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