目次
- Macは大作ゲームに不向き。その理由は、外付けGPUに対応しないこと
- Macの内蔵GPUは、大作ゲームの美麗なグラフィックを処理“できるかもしれない”が…?
- 「ENVISION」(予見)という社名になるはずだったNVIDIA。しかし、同名のトイレットペーパーが
- 予見に優れた企業NVIDIA。「謎の半導体メーカー」扱いを経て、LLMの普及に大きく貢献
- AppleとNVIDIAは冷戦状態? きっかけとなったバンプゲート事件(2008年)
- 過去にはジョブズがNVIDIAを批判。一方、NVIDIAがMac専用GPUの開発を拒否したことも
- 思想的に相入れない両社。独自開発の道を進む、Appleの“巻き返し”が始まる?
Macの唯一ともいえる弱点は、大作ゲームを楽しめないことかもしれない。緻密なグラフィックによる大作ゲームを遊ぶには、NVIDIAなどのGPUが必須だが、Macはこれに対応しないのだ。
なぜ、MacはNVIDIA製品に対応しないのか。これが今回の疑問だ。
※この記事は『Mac Fan 2025年3月号』に掲載されたものです。
Macは大作ゲームに不向き。その理由は、外付けGPUに対応しないこと
筆者はMacにまったく不満を持っていないが、それでもふと寂しくなるのが、多くの大作ゲームが遊べないことだ。
ゲームプラットフォーム「Steam」では、利用者の統計を定期的に公開している。ユーザが利用しているプラットフォームはウィンドウズが96.1%と圧倒的で、macOSはわずか1.61%。SteamではmacOS対応ゲームも多数配信されているが、緻密なグラフィックを必要とする大作ゲームの多くはMacに非対応だ。

その理由は、Macが「GeForece」などのグラフィックボードに対応していないからだろう。
Macの内蔵GPUは、大作ゲームの美麗なグラフィックを処理“できるかもしれない”が…?
グラフィックボード、いわゆるGPU(Graphics Processing Unit)は、大量の並列計算に特化したロジック半導体だ。
たとえばMacBook Airは、ディスプレイの画素数が2560×1664ピクセルあり、この約426万ピクセルに対して演算を行い、ディスプレイに表示するグラフィックを生成している。ゲームのような緻密で動きの速い映像を表示する場合、大量の並列計算が必要だ。
MacのMシリーズチップにもGPUは内蔵されているが、あくまで一般的なグラフィック処理を想定したもの。そのため、大作ゲームのグラフィックには対応できない。正確には、“できるかもしれないが市場性がない”ため、ゲームスタジオ側がMac対応に踏み切らないという状況だ。
「ENVISION」(予見)という社名になるはずだったNVIDIA。しかし、同名のトイレットペーパーが
GPUのトップメーカーはNVIDIAだ。NVIDIAのGPUは、パソコンの場合、拡張スロットに挿入して使う。以前はThunderboltで接続し、Macで外付けGPUを使う方法もあったが、Mシリーズのチップが採用されてからは対応していない。
NVIDIAは、台湾生まれの米国人、ジェンスン・フアンを中心とした3人によって1993年に創業された。3人はデニーズに集まり、社名を「ENVISION」にすると決めたが、調べてみるとすでにトイレットペーパーの商標になっていると判明した。

そのため先頭の「E」をとり、ラテン語の「invida」(羨望)と合わせて「NVIDIA」と名づけたと言われている。
予見に優れた企業NVIDIA。「謎の半導体メーカー」扱いを経て、LLMの普及に大きく貢献
「ENVISION」は「予見」という意味だが、NVIDIAはまさに予見に優れた企業だ。
当初はゲーム用のGPUとして普及し、「謎の半導体メーカー」などとも言われた。しかし、NVIDIAは並列計算の重要性を予見していたのだ。
2006年に並列計算用のプラットフォーム「CUDA」を開発し、GPU上でAIのトレーニングができる道を開拓。現在LLM(大規模言語モデル)ベースのAIが一気に普及したのは、NVIDIAの功績が小さくない。そしてNVIDIAは、時価総額でAppleを抜くほどに成長している。

AppleとNVIDIAは冷戦状態? きっかけとなったバンプゲート事件(2008年)
ところが、AppleとNVIDIAは冷戦状態にあるといわれている。そのきっかけになったのが、2008年に起きたバンプゲート(Bumpgate)事件だ。
MacBookは、2001年からNVIDIAのGPUを採用していた。ところが2008年、デル、HPなども採用していたGPUのパッケージに問題が発覚した。チップの「バンプ」と呼ばれる部分(チップ下に整列する球状の接点)が接続不良かつ、発熱によってほかの部分のハンダが溶けてしまうという事態が起こったのだ。
結果、AppleはMacBookの保証期間を延長せざるを得なくなった。契約内容の詳細は不明だが、NVIDIAはAppleに対する補償を拒否。これ以来、AppleはNVIDIA製品を採用していない。
過去にはジョブズがNVIDIAを批判。一方、NVIDIAがMac専用GPUの開発を拒否したことも
それ以前にも、スティーブ・ジョブズが「NVIDIAの技術にはピクサースタジオから盗用されたものがある」と主張して揉めたことがあった。また、AppleがMac専用のGPUの開発を依頼した際、NVIDIAは、当時Macのシェアが小さかったことを理由に、「市場性がない」として拒否した。
こういった十分な火薬が充填されていたところに、バンプゲート事件が起きて着火した格好だ。
それ以来Appleは、NVIDIA製品への対応を停止するだけでなく、Appleが2015年以降、Apple Carを中心にAI開発を本格化させたときも、AI開発ではもはや必須ともいえるNVIDIA製品を採用しなかった。GoogleのAIチップ「Tensor」を用いたり、AWS経由でNVIDIAのGPUサーバを間接的にレンタルしたりして開発を進めたのだ。
これはAIエンジニアにとって理想的な環境とはいえず、AppleがAIの分野でオープンAIやMicrosoft、Meta、Googleに遅れをとった要因だと考える人もいる。
思想的に相入れない両社。独自開発の道を進む、Appleの“巻き返し”が始まる?
しかし、Appleが20年近く前に起きたバンプゲート事件を根に持ち、NVIDIAを排除しているわけではないと思える。両社は、コンピューティングに対する思想が真反対と言っていいほど、相容れないのだ。
NVIDIAのフアンCEOは、6カ月ごとに製品をアップグレードし、演算量を倍増すると宣言したことがある。これは有名なムーアの法則を超えた「フアンの法則」として知られる。NVIDIAは、演算力を高めるためなら電力使用量や発熱はいとわないという考え方だ。
一方のAppleはそうではない。限られた地球資源の中で、最高のパフォーマンスを引き出すにはどうしたらいいのかという考え方だ。そのため、節電技術や演算の効率化を進めている。その成果が結実したのが、MシリーズやAシリーズなのだ。
現在、AppleはAIチップ「Baltra」を開発しているとされ、2026年頃からAI開発に使われる見通しである。AppleはAIチップも独自開発の道を選んだ。理想的な製品を実現するには、その必要があると判断したからだ。
「Baltra」は、演算量を追及するだけではなく、Appleらしい工夫の詰まったチップになることが期待される。AI分野におけるAppleの巻き返しが今、始まろうとしているのだ。
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著者プロフィール
牧野武文
フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。








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