目次
- 従来の対話型生成AIとは異なるApple Intelligence。“必要なとき”に出てきてユーザをサポート
- Appleらしさを感じるApple Intelligenceの仕様。“ワンタップ”でできること、の可能性が広がる
- ChatGPTをAIエージェント化し、「ゲームの開発会社」を立ち上げる研究も
- ChatGPTが複数の人材を“演じて”企業を構成。ハルシネーションの除去に効果的
- Apple Intelligenceは、プロンプトの生成機能を搭載? 多彩な生成AIの“指揮官”に
- 「プロンプトエンジニアリング」の今後。コンピュータの黎明期に重なる現状
- 重要視される、AIエージェントへの“伝え方”。ユーザがすべきは、自分の深掘り?
「Apple Intelligence」の登場は、Appleデバイス史上、最大の変化を起こすかもしれない。対話型生成AIの搭載という単純な話ではなく、“AIエージェント”の道が開いた、という意味でだ。
では、Apple Intelligenceは、従来の対話型生成AIとどこが違うのか。これが今回の疑問だ。
※この記事は『Mac Fan 2024年11月号』に掲載されたものです。
従来の対話型生成AIとは異なるApple Intelligence。“必要なとき”に出てきてユーザをサポート
ChatGPTなどの対話型生成AIを搭載したスマートフォンはすでに多数登場しているが、Apple Intelligenceはそういった単純なものではないようだ。
マイクロソフトの対話型生成AI「Copilot」は、たとえばExcelの作業画面の横に入力画面があり、そこに入力された作業内容を実行する仕組み。一方Apple Intelligenceは、“必要な場面で必要なお手伝い”をしてくれる。
たとえば、メールの返信を書こうとするとスマートリプライ機能がポップアップ。届いたメールの内容に応じて、「お誘いに応じますか?」といった質問が表示され、答えを選択していくとそれをメール文にしてくれる。

Apple Intelligenceは、AIツールが前面に出てくるのではなく、必要なときにだけ顔を出して手伝ってくれる。メール返信時のスマートリプライ機能では、メールの内容から質問を生成。それに答えると、返信メールが作成される。画像●Apple
Appleらしさを感じるApple Intelligenceの仕様。“ワンタップ”でできること、の可能性が広がる
Apple Intelligenceは、Copilotのように画面に常駐しない。ツールの背後に控え、必要なときにだけ手伝ってくれるのだ。このあたりが非常にAppleらしいと思う。

アプリ側の対応を待つ必要があるのですぐには実現しないだろうが、「次の長期休暇に旅行に行きたい」と伝えれば、カレンダーで長期休暇の期間と予定を確認し、旅行サイトからおすすめの旅先を表示。そして旅行会社のサイトで予約を入れる、ところまでワンタップで実行する世界観もひらけてくる。
ChatGPTをAIエージェント化し、「ゲームの開発会社」を立ち上げる研究も
生成AIを指揮して人間の依頼を遂行する存在は、「AIエージェント」と呼ばれる。すでに、特定の用途ではうまく機能することが明らかになってきた。
清華大学、シドニー大学などの研究者は、ChatGPTをAIエージェント化し、ゲームを開発する仮想ゲーム会社「ChatDev」の構築に成功した。

ChatDevでは、「このようなゲームをつくってほしい」と依頼すると、約7分で仕様を決めてコードを書き、動作テストまで行ったうえでゲームを納品してくれる。
ChatGPTが複数の人材を“演じて”企業を構成。ハルシネーションの除去に効果的
ChatGPTにCEO、CTO、CPO、プログラマー、デザイナー、テスターなどゲーム開発に必要な人物を演じさせ、それらが会議を行うことで仕様を決定するのだ。

このChatGPT同士を会話をさせる、ということが大きなポイントである。というのも、対話型AIは幻覚(ハルシネーション)を避けられないからだ。生成AIはまったく根拠のない嘘を平然とつくことがあり、「まるで幻覚でも見ているのではないか」ということから、それをハルシーネーションと呼ぶ。
しかし、役割を持った複数の生成AIが議論をするとハルシネーションが除去され、正しい議論に収束していく。
ChatDevに刺激を受け、AIエージェントによる仮想の病院も作られた。AI医師をトレーニングする試みでは、通常の強化学習に比べて診断の正確さが高速で上昇していくという結果が出たそうだ。
Apple Intelligenceは、プロンプトの生成機能を搭載? 多彩な生成AIの“指揮官”に
米国の巨大掲示板「Reddit」では、macOS Sequoiaのパブリックベータ版からApple Intelligenceの痕跡が発見されたことが話題になっている。
その情報によると、Apple Intelligenceが出力したと思われるプロンプトが、システムファイルに残されているという。つまり、Apple Intelligenceはプロンプトを生成する機能を持っており、それをChatGPTなどに投げることが可能なのだ。

しかも、このプロンプトは構造化されたテキスト「JSON形式」になっているという。つまり、ChatGPT以外の生成AIでも使えるプロンプトというわけだ。将来、ChatGPT以外にも対応できるようにするためだろう。
このように、大規模言語モデルを背景にテキストを生成する生成AIとApple Intelligenceは別物で、生成AIを指揮するひとつ上のレイヤーに位置づけられるものだといえる。
「プロンプトエンジニアリング」の今後。コンピュータの黎明期に重なる現状
上手なプロンプトの書き方(プロンプトエンジニアリング)が人気となり、勉強している方もいるかもしれない。もちろん、その努力は10年程度のスパンでは無駄にならないどころか、仕事の幅を大きく広げてくれるだろう。
しかし遠くない将来、一般のユーザがプロンプトを書くということはなくなる。
ちょうど、コンピュータの黎明期にサラリーマンがこぞってプログラミング教室に通ったのと同じことだ。結局、現代の多くのサラリーマンは、プログラミング能力ではなく、オフィスソフトのようなツールをいかにうまく使いこなせるかが問われている。
重要視される、AIエージェントへの“伝え方”。ユーザがすべきは、自分の深掘り?
生成AIも同じで、プロンプトの技術は専門家に任せ、ユーザは自分の要望をいかにうまくAIエージェントに伝えるかを考えることになるだろう。
たとえば、「ダイエットがしたい」は真の要望ではないことが多い。背後には「異性にモテたい」「健康に不安がある」などの真の要望が潜在しているはずで、これをAIエージェントに伝える必要がある。
AIを使うことで、人は自分を見つめ直し、自分を深掘りしていくことになるのだ。
Apple Intelligenceは、「ほかのスマホが生成AIを搭載することへの対抗策」という短絡的な視野によるものではない。人とAIの付き合い方の最終形を見据えたものだ。私たちAppleユーザにとっては、AIとの付き合い方を学ぶ日々が始まることになるだろう。
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著者プロフィール
牧野武文
フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。







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