Appleの公式Webサイトを見ると、Mac、iPhone、iPadの製品写真の時刻は、すべて9時41分を指している。
一方、Apple Watchの時刻表示は10時9分に統一されているが、これは時計業界の慣習を尊重したものだろう。では、9時41分というのはいったい何の時刻なのだろうか。これが今回の疑問だ。
※この記事は『Mac Fan 2024年4月号』に掲載されたものです。
iPhoneの時刻は、いつなんどきも9時41分。Webサイトで製品画像を見てみよう
「iPhoneの時刻表示はいつも9時41分だ」と聞いて、「そんなバカな、現在時刻に決まっている」と思う人は、Appleの公式サイトでiPhoneの製品写真を見てほしい。
いずれも9時41分を指しているはずだ。それだけではない。iPadも、Macも、指しているのは9時41分だ。


Apple JapanはYouTubeでApple製品のヘルプビデオを配信している。そのビデオに登場するAppleデバイスも、Apple Watchを除けばすべてが9時41分。9時41分にいったい何があったのだろうか。
結論からお伝えするが、これはiPhoneが発表された時間だ。
9時41分。スティーブ・ジョブズがはじめて「iPhone」と口にした時刻
初代iPhoneの発表会は、2007年1月9日、米サンフランシスコ市のモスコーニセンターで開催されたイベント「Macworld 2007」内の基調講演で、スティーブ・ジョブズによって行われた。
当時、iPodをベースにした画期的な携帯電話が発表されると予想されていたが、どんな機能で、どんなデザインなのか想像はついていなかった。朝9時から始まったジョブズのプレゼンテーションは異様な熱気に包まれたが、ジョブズはiPodやApple TVの話をして聴衆を焦らしに焦らす。
そしてようやく、「2年半もの間、この日がくるのを楽しみにしていた」と語り出し、「iPodと携帯電話、ネットデバイス。もうわかるよね? 3つの異なるデバイスではなく、1つのデバイスだ」と言い、「これをiPhoneと呼ぶことにした」と発表したのである。
ジョブズはすぐにiPhoneを見せ、ライブデモを始めた。このときiPhoneの時刻は9時42分。その後、デモが進むにつれて時刻は進んでいく。つまり、ジョブズが最初に「iPhone」という名前を口にしたのは9時41分だと考えられるのだ。
iPhoneもMacも、iPadも9時41分。その裏にあるAppleの考えとは?
以降、iPhoneの製品写真には、そのモデルの発表日の9時41分が表示されている。面白いのは、iPadもMacも9時41分に統一されていることだ。Appleは、これらのデバイスの中心にiPhoneがあると考えているのかもしれない。
話は変わるが、iPhoneやiPadをMacと有線で接続し、Macで「QuickTime Player」を開くと、iPhoneやiPadの画面をミラーリングできる。実は、このとき表示される時刻も9時41分に固定される。おそらく、Apple JapanのYouTube動画はこの方法で制作されているのだろう。

Apple Watchは10時9分。時計業界の慣例に合わせた時刻表示
ところが、Apple Watchの時刻表示だけは10時9分に統一されている。その理由は、陳列、あるいは製品写真を撮影するときの時刻を「10時10分」前後にするという時計業界の慣習があるからだ。

秒針と短針を備える時計の場合、10時10分だと見た目のバランスがよく、一般的に12時の下に配置されるブランドロゴが強調されるから、というのが理由らしい。
デジタル時計にもこの慣習は受け継がれており、10時8分を使うことが多いようだ。8という数字は、それを表示する液晶、LEDなどを全点灯するため、その視認性を示せるのが理由のひとつだろう。それらをふまえ、針によるアナログ表示、デジタル表示の両方が可能なApple Watchは、バランスのいい10時9分を選んだものと思われる。
余談だが、Apple Watchのページに登場する場合に限り、iPhoneの時刻表示も10時9分になっている。
ここで湧き上がるのが、Apple Watchの製品発表が10時9分に行われたのではないか、という妄想だ。Appleなら、そこまでこだわりぬいて製品発表会の時刻を設定していてもおかしくはない。
Apple Watchの発表イベントをチェック。ティム・クックが話し始めた時刻は…?
Apple Watchの初代モデルは、2014年9月9日に開催されたスペシャルイベントで、ティム・クックCEOによって発表された。さっそく当時の映像を確認してみたところ、残念がながら10時9分ではなかったようだ。
製品発表後、すぐに開発を担当したケビン・リンチが登壇しライブデモを開始するのだが、このときの時刻は11時17分であり、プレゼンの進行とともに時刻は進んでいく。そのため、Apple Watch誕生の瞬間は11時15分前後であると推定できる。
Appleは、発表イベントを1時間早くはじめるべきだった。そうすれば、10時9分にApple Watchを発表できたかもしれない。どうでもいいことといえばそうなのだが、Appleファンである私たちから見れば、ここはこだわってほしかった。Apple社内にも「あれはしくじった」と唇を噛んでいる人がいるかもしれない。
macOSにはMacの誕生日が隠れている。粋な計らいを超えた利便性も
Macのどこかにも、誕生した時間が刻まれていないものだろうか。その痕跡は、意外なところで発見できる。
ファイルの転送やダウンロードを実行したとき、しばしば失敗し、壊れたファイルが残ってしまうことがあるかと思う。その破損ファイルの情報を見てみてほしい。作成日が「1984年1月24日火曜日17時」になっているはずだ。これはまさに、初代Macintoshがジョブズによって発表された「日」なのだ。

日本時間の17時は、米国太平洋時間に置き換えると午前0時。当然、Macintoshの発表が行われたのは午前0時ではないが、この時刻設定にも意味がある。
午前0時に設定しておくと、米国の西海岸から東回りにぐるりと回り、太平洋上にある日付変更線までの範囲が1月24日になるのだ。日付変更線の東から米国西海岸までにある諸島諸国は日付が1月23日になってしまうという問題は残るものの、地球上の多くの国で「1月24日」に揃えられる。
Apple製品に隠された、デバイスの誕生日や誕生時刻。まだ見つかっていないものも…?
破損したファイルの作成日は、自動的にMacintoshの誕生日に設定される。これは単なる粋な仕掛けにとどまらず、実用面でも大きなメリットとなる。
なぜなら、ファイルを作成日でソートすることで、Macのストレージをいたずらに圧迫する不要な破損ファイルを見つけ出し、一挙に削除できるからだ。この日付以前のファイルは存在しない。なぜなら、1984年1月24日以前にはMacintosh自体が存在しないのだから。
早いもので、今年でiPhoneの誕生から17年が経ち、2027年1月9日には20周年を迎える。iPhoneのカレンダーで調べてみると、幸いにもこの日は土曜日であることから、何らかのイベントを企画する人が出てくるかもしれない。
これは筆者からの提案だが、もし企画するのであれば、9時41分という瞬間にこだわっていただきたい。朝からテンションをあげるのは大変だろうが、クラッカーは9時41分に鳴らされるべきなのだ。
より同時性にこだわるのであれば、太平洋冬時間の9時41分を日本時間に換算した時刻、1月10日の午前2時41分に開催するのもいいだろう。イベントを行うにはなかなか厳しい時間帯だが、幸いなことに日曜日である。
さて、ここまで紹介したとおり、Appleデバイスには意外なところに誕生日や誕生時刻が隠されている。もしかすると、まだ私たちの知り得ないところにも存在するかもしれない。
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著者プロフィール
牧野武文
フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。







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