初代から1年後の大きな飛躍。薄く、軽く、カメラとスマートカバーもサポート
初代iPadの回でも触れたように、Appleは、新しい製品ジャンル自体に魅力がある場合に、最初のモデルを少し足りないくらいの仕様で出してくることが多い。理由の一つは、それでもアーリーアダプターが購入するので、ある程度の市場を確保でき、さらに、足りない部分を補った「第2世代モデル」によって買い替えと新規需要を見込めるからと考えられる。
また、仕様を充実させれば必然的に価格も高くなってしまうため、ユーザが製品の価値を認識していない初代モデルの段階では、結果的に買いにくい製品となる。そのあたりのバランスも見極めての仕様設定でもあるだろう。
もちろん、あえて仕様を限定することで、製品の狙いを明確にすることにもつながり、2010年に発売された初代iPadは、書斎やリビングで電子書籍やオンラインメディアを閲覧するためのデバイス(発表時のジョブズのプレゼンも、そのようなセッティングだった)という指向性を強く打ち出すために、あえてカメラ機能や保護カバーをサポートしなかったともいえる。
しかし、2011年に第2世代モデルとしてフルモデルチェンジで登場したiPad 2は、初代モデルと比べて厚みが3分の2、重さが15%減、プロセッサがA4からA5にパワーアップしたことでCPU性能が2倍、グラフィックス性能が何と9倍になり、720pのメインカメラとVGA解像度のFaceTimeカメラも内蔵。わずか1年で飛躍的な進化を遂げたのである。
10色展開のカバーで個性を演出
そして、もう1点、iPad 2を魅力的な製品に見せていた存在があった。それは、10色展開で別売りされた「iPad 2 Smart Cover」だ。マグネットでワンタッチ装着できるこのスマートカバーは、その開閉がiPad 2本体のスリープ機能と連動しており、三角形にたたんで裏側に回すとスタンドとしても機能した。
iPad 2のフロントパネルは、ブラックとホワイトという2色のカラーバリエーションだったが、スマートカバーと組み合わせることで、20通りの個性を演出できる。このときには、まだサードパーティ製のカバー製品は存在しなかったので、iPad 2購入者の多くがスマートカバーも一緒に買い求めたはずであり、Appleにとってもかなりの収益源になったと考えられる。
ちなみに、この第2世代モデルを含めてiPadが教育現場にも普及していくようになると同時にソフトウェアキーボードによるタイピングを疑問視する声も上がった。しかし、アメリカでは、ハイスクールの生徒が顔をホワイトボードに向けたままタッチタイピングしたり、著名なピアニストが画面を見ずにピアノアプリで演奏するなどしている動画も公開されるようになっていった。それはちょうど、「iPhoneのフリック入力はミニチュアキーボード付きのブラックベリーに劣る」といわれたことが覆されたようなもので、人間の対応能力の高さを示す好例でもあった。
初代iPadはタブレットデバイスの“原型”を確立したが、iPad 2は、今に続く“タブレットのあり方”を完成させた製品といえたのである。
※この記事は『Mac Fan』2022年12月号に掲載されたものです。
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著者プロフィール
大谷和利
1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、神保町AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。







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