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iPhoneのバッテリを長持ちさせるには? リチウムイオン電池の仕組みと構造を徹底解説

著者: 今井隆

iPhoneのバッテリを長持ちさせるには? リチウムイオン電池の仕組みと構造を徹底解説

– 読む前に覚えておきたい用語-

保護回路電池のセル構成リチウムイオン電池
リチウムイオン電池はエネルギー密度が非常に高く、かつ可燃性の電解質を用いていることから、さまざまな2次電池の中でも特に厳格な管理が求められる。保護回路はバッテリセルの状態などを常時監視し、異常があればただちにバッテリを回路から遮断する。またラミネート材の一部の強度が意図的に弱めてあり、膨張の際に安全弁の役割を持たせることで爆発を防ぐ。iPhoneやiPodなどは「シングルセル」と呼ばれる1セル構成になっているが、容量の大きいiPadなどでは複数のセルを並列接続して容量を増やしている。またMacBookシリーズではこれをさらに直列接続して電圧を高めて使用しており、2セル直列2セル並列(2S2P)の4セル構成、あるいは3セル直列2セル並列(3S2P)の6セル構成が採用されている。リチウムイオン電池に充電を行うと、電解液中のリチウムイオンが正極からセパレータを通過して負極へと移動し、時間とともに負極に蓄えられる。充電後に電力を消費するものを接続すると負極に貯められたリチウムイオンが再び正極へと戻り、その際に両電極間に電力が発生する。これがリチウムポリマー電池を含む、リチウムイオン電池に共通する動作原理だ。

大容量で高出力なリチウムイオン電池

リチウムイオン電池は、高性能2次電池(充電池)の一種で、Apple製品では1995年発売のPowerBook 5300のバッテリに初めて採用され、長らくPowerBookシリーズの電源として採用されてきた。2006年発売のMacBook以降、リチウムイオン電池はリチウムポリマー電池に置き換わり、現在ではiPhoneやiPad、iPodなどの携帯デバイスはもちろん、すべてのMacBookシリーズのバッテリにリチウムポリマー電池が採用されている。

モバイルバッテリなどによく使用されているリチウムイオン電池(左)と、スマートフォンやタブレットなどで使用されているリチウムポリマー電池(右)。動作原理は同じだが、電解質が液状かゲル状かの違いがある。リチウムイオン電池には金属ケースが必須であるのに対し、リチウムポリマー電池にはその制約がないため、小型デバイスとの親和性が高い。

リチウムイオン電池が電解質に有機物の電解液(液体)を採用しているのに対して、リチウムポリマー電池は電解質に高分子ポリマー(ゲル)を採用しており、形状の自由度が高いのが特長だ。

エネルギー密度(体積比)はリチウムイオン電池のそれと比べて若干低いが、リチウムイオン電池には必須の金属ケースがリチウムポリマー電池では不要になるため、重量あたりのエネルギー量は同等もしくは上回っていること、さらに形状を自在に加工できることなどから実装密度も高く、薄型化に適しており、特にスマートフォンやタブレットなどの携帯デバイスには欠かせないエネルギー源となっている。

リチウムポリマー電池では、リチウムイオンが正極と負極間を行き来することで充放電が行われる。セパレータはリチウムイオン以外を通さないフィルタ機能のほか、内部温度の上昇時に自ら溶けてその反応を抑える役割も果たす。

リチウムポリマー電池の内部は、アルミニウム箔の正極とそこに塗られたリチウム金属酸化物の正極活物質、銅箔の負極とそこに塗られた炭素などの負極活物質と、その間に電解質を含むポリマーとセパレータを挟んだ構造になっている。その薄さはわずかに数十ミクロン。これを何層にも折りたたんで積層し、アルミニウムでラミネートしたフィルムなどの外装材で密閉される。

充電時には正極から放出されたリチウムイオンがセパレータを抜けて負極に集まることでエネルギーが蓄積され、放電時には負極から正極にリチウムイオンが戻ることで電気エネルギーが電極に放出される。これがリチウムイオン電池の動作原理だ。

充放電を繰り返すと充電容量が減少するが、一般的には容量が製造時の半分に低下した点を寿命とし、およそ500〜1000回程度のサイクル寿命(充放電回数)とする製品が多い。

リチウムイオン電池およびリチウムポリマー電池の容量は、その充電量によって5つの領域に分類される。

充電量が電池の規定の0〜約10%の領域は、周辺温度などによって性能の安定しない「不安定領域」、約10〜80%の領域は安定した放電特性と急速充電が可能な「安定領域」、約80%以上は急速充電ができない「満充電領域」、100%以上は「過充電領域」、0%以下は「過放電領域」と呼ばれる。一般的な携帯デバイスでは、このうち不安定領域の半ばから満充電領域までを利用することが多い。

リチウムポリマー電池の充電には定電流・定電圧充電方式が用いられることが多い。最初の80%程度までは定電流で充電を行い、バッテリ電圧が一定に達したところで定電圧充電に切り替えることで電池の性能をさらに引き出す。

過放電領域、および過充電領域は、電極にリチウムイオンが溜まり過ぎた不安定な状態で、リチウム金属が結晶化(析出と呼ぶ)して成長し、最悪のケースでは正極と負極が短絡して破裂、爆発や火災の原因となる。そのような危険を避けるため、バッテリの設計時には充電量がこの領域に入らないよう、回路にさまざまな保護回路を設けることが一般的だ。

実際には電池の規定容量の100%すべてを使うケースは少なく、安全性を見込んで5〜90%程度を使用することが多い。また安定領域では高出力を安定して発揮でき、かつサイクル寿命も大幅に延ばせることから、たとえば充放電回数の多いハイブリッド車などはこの領域の美味しいところだけを利用している。もちろんその分だけ機器のバッテリ駆動時間は短くなるため、サイクル寿命とバッテリ駆動時間は常にトレードオフの関係にある。

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バッテリを長く使うために覚えておきたい注意点

リチウムイオン電池およびリチウムポリマー電池は、その材料に酸素と化学反応を起こしやすい、つまり燃えやすい物質を使用しており、そこに極めて高いエネルギーを蓄積することから、その取り扱いに注意を要する。バッテリに力を加えて変形させると、燃えたり爆発したりする危険性がある。

また、膨らんだり変形したバッテリはすでに内部圧力が高まっており、その状態で充電を行うと非常に危険だ。もちろん組み込まれた保護機能によって一般的な使用下においては安全に使えるよう設計されている。しかし、バッテリ内部が一定の温度(150℃前後)を超えると、これらの保護機能でも化学反応の暴走を止めることはできない。

バッテリを長持ちさせる3つの重要なポイントがある。1つは高温にさらさないこと。デジタルデバイスのバッテリの近くにはプロセッサをはじめとした熱源があり、常に高温にさらされやすい環境だ。特に充電中はバッテリ自体も発熱するため、充電しながら機器を使うのはバッテリを傷めることにつながりやすい。

また、デバイスに保護ケースを付けている場合は要注意。ケースで放熱が妨げられ、バッテリ温度が上昇することがあるためだ。

2つ目はバッテリを使い切らないこと。かつてバッテリに広く利用されていたニッカド電池やニッケル水素電池には、電池残量が残っている状態で充電を繰り返すと充電容量が低下する「メモリ効果」という現象が見られたが、リチウムイオン電池ではこの現象はほぼ起こらない。

逆に使い切った状態で放置すると過放電となりバッテリを痛めることが多い。リチウムイオン電池は50%程度充電した状態で保管し、半年に1度程度は50%まで再充電することが必要だ。3つ目は衝撃やダメージを与えないこと。その理由は先に述べたとおりだ。

よくいわれることとして、ノートパソコンをACアダプタに接続したままで使うとバッテリの傷みが早い、というものがある。これは自動的にバッテリの充放電が繰り返される結果、短い期間でバッテリがサイクル寿命に達するのが原因で、昔のノートパソコンなどではよく見られた現象だが、近年のMacBookシリーズではその心配はなさそうだ。

高精度のマイコンがバッテリの状態を常に監視し充放電の管理を行ってくれるおかげで、ACアダプタを接続したままでもそれほど継ぎ足し充電は行われない。

ノート型Macのバッテリの状態は「システム情報」の[ハードウェア]にある[電源]項目で確認でき、バッテリの消耗程度や充放電回数などもチェックできる。iOSデバイスにも同様の情報を確認できるアプリが存在する。

最近では新型電池の開発も盛んだ。正極活物質に大気中の酸素を使うリチウム空気電池や、同じく正極活物質に硫黄を用いるリチウム硫黄電池などは、従来のリチウムイオン電池より数倍高いエネルギー密度が得られるとして研究が盛んに進められている。

またリチウムイオン電池自体も改良が進められ、電解質を固体化した全固体電池の開発も行われており、発火の心配がなく熱に強いバッテリとして実用化が期待されている。

著者プロフィール

今井隆

今井隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。

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