初代Apple TVの反省に立った一大転換
今回、取り上げるのは2010年9月に発表されたApple TVの第2世代モデルである。もちろん、その3年前に、初代モデルも発売されたのだが、これには筆者も食指が動かず、Appleのビジネス的にも決して成功したとはいえない製品だった。
強気で知られた故スティーブ・ジョブズも「Apple TVはホビーだ」と公言し、あまり売れていないが、とりあえず製品ラインとしては残すというスタンスで取り組んでいた(ということは、現在につながるビジョンがあり、その実現のためには外すことができないパズルの1ピースだと考えたのだろう)。
「iTV」というコードネームで開発された初代モデルは、「据え置き型のiPod」ともいえる、楽曲と映像の再生デバイスだった。そして、同じローカルネットワーク内にあるコンピュータのiTunesとコンテンツを同期したり、最大5台のコンピュータから映像や楽曲をストリーム再生して楽しめるようになっていた。
コンテンツの同期のために、初代Apple TVは40GBまたはBTOで160GBのHDDを内蔵し、価格もそれぞれ3万6800円と4万9800円と高価で、アルミ合金の筐体はMac miniのようなサイズと約1kgの重さがあった。つまり、大きく重く高い割には、できることが限られていたのである。
しかし、第2世代ではHDDを内蔵せずに単体でiTunesストアやYouTube、Netflixなどからコンテンツをストリーミングできるようになり、筐体も現行モデルに近いコンパクトな樹脂製のものが採用され、価格も8800円と劇的に安くなった。
未来を垣間見たAirPlayの威力
中でも個人的に購入に至った最大のポイントは、Apple製品ではじめて実現された映像のAirPlay受信機能(実際のサポートはiOS 4.2がリリースされた2010年の11月22日から)だった。これを利用することで、iPhoneやiPadから動画やKeynoteのプレゼンテーションをApple TVにワイヤレス送信して、接続された大型テレビやプロジェクタに映し出せるようになったのだ。
当時、さまざまな場所でセミナーを行う機会が多かった僕は、現地にApple TVを持ち込み、ケーブルに邪魔されずに会場内を動き回りながらプレゼンテーションを行った。そのプレゼンスタイル自体が、Apple製品の先進性を目の当たりに見せるデモにもなり、「これからは、企業の会議や学校での授業でも、参加者や生徒が自分の端末からコンテンツを飛ばして共有するようになる」といった将来的な話をする場合にも、現実性を持たせることができた。そして今、先進的な組織や教育機関では、実際にそのようなコンテンツ共有のやり方が当たり前のものとなっていることは感慨深い。
当時はまだApple TV用のアプリストアはなく、標準でプリセットされたアプリを使えるのみだったが、あるとき、Googleとの契約上の期限がきたのか、第2世代モデルではYouTubeアプリが使えなくなってしまった。そのために仕方なく第3世代モデルを購入し、その後、アプリストアがサポートされた第4世代モデルも導入した。しかし、第2世代モデルは今も実家に置いてデジタルテレビとつなぎ、iPhoneやiPadからのコンテンツのAirPlay再生に活躍しているのである。
※この記事は『Mac Fan』2022年9月号に掲載されたものです。
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著者プロフィール

大谷和利
1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、神保町AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。