Mac業界の最新動向はもちろん、読者の皆様にいち早くお伝えしたい重要な情報、
日々の取材活動や編集作業を通して感じた雑感などを読みやすいスタイルで提供します。

Mac Fan メールマガジン

掲載日:

録画用SSDの選び方 コマ落ちの原因とその対策【後編】

著者: 今井隆

録画用SSDの選び方 コマ落ちの原因とその対策【後編】

画像:Logitec

録画に適した外付けSSDの選び方

外付けSSDに録画したデータを再生してみると、コマ落ちが発生したり、画面の動きが止まってしまったりした経験はないだろうか。

これらは主にSSDの書き込み速度が途中から低下することが主な原因だ。このため録画用途で使うのであれば、できるだけそのような速度低下を起こしにくい製品を選びたい。

録画用SSDの選び方 コマ落ちの原因とその対策【前編】」では全領域の書き込み速度を検証できる「HDD Scan」というツールを用いて評価を実施したが、このツールは使いこなしにノウハウが必要なことや計測には長時間かかることなどから、誰にでも気軽にオススメできる方法ではない。

そこで録画用のSSDを新規に購入する際の、選び方のポイントをお伝えしよう。

1つ目はまず、なるべく「大容量のSSD」を選択するのが好ましい。というのも前編でご説明した「オーバープロピジョニングで使用されるスペア領域」の大きさは、おおよそSSD容量に比例するからだ。

たとえばスペア領域が10%のSSDがあったとして、実際のスペア領域のサイズは500GBのSSDなら50GB、1TBなら100GBになる。

2つ目は、なるべく「高速なSSD」を選択すること。高速なSSDは記録媒体であるNANDフラッシュメモリへのアクセスも速い。同じ記録内容(ビットレート)の録画であれば、高速なSSDのほうが書き込み速度のマージン(余裕)が大きいので、バックグラウンド処理である「消去」に使えるリソースが増える。

結果として、「次の書き込みに備えた準備」が「録画による書き込み」に間に合わなくなる(コマ落ちの原因となる)可能性を減らすことができる。この点は特にProResなどのハイビットレート録画では重要だ。




サーマルスロットリングに注意

「サーマルスロットリング」とはデバイスに搭載されている部品が高温になったときに、その温度が安全なレベルになるまでデバイスの性能や動作速度を抑制して部品を保護する機能だ。

SSDも同様に、NANDフラッシュメモリやSSDコントローラの温度が上昇した場合、部品にダメージが及ぶ前に性能(動作速度)を抑制することでその温度を下げる。

動画の録画は書き込み処理が長時間継続するため、ファイル保存などの断片的なアクセスに比べてSSDの内部温度が上がりやすい。特にProRes録画はそのビットレートが高く、SSDへの負荷が大きい。

SSDの放熱が自らの発熱に追いつかなくなると、内部温度が上昇して保護機能であるサーマルスロットリングが発生する。

したがってハイビットレートの録画に使うのであれば、放熱対策のしっかりした製品、できればファンを搭載したSSDを使うのが好ましい。

高速なSSDほど発熱が大きい傾向があるため放熱設計は重要だ。実際のSSD製品では、熱伝導率に優れた金属製筐体によって放熱するもの(冒頭の写真)や、冷却ファンを搭載し強制的に排熱するものなどがある。たとえばLogitecのLMD-PBTU4CはUSB 4(PCIeトンネリング)対応の高速SSDで、温度に応じて自動的に動作する冷却ファンを備える。
画像:Logitec

酷使したSSDは録画に使わない

SSDの記録媒体であるNANDフラッシュメモリには「書き換え寿命」が存在する。フラッシュメモリはトンネル酸化膜を介してフローティングゲートに電荷を押し込むことでデータを記録する。

このとき少しずつだがトンネル酸化膜がダメージを受け、徐々に電荷を捕えておく能力を失っていく(電荷が漏れ出す)。

このような状態になったSSDでは、記録する際に電荷のレベルを調整するのにより多くの時間を要するため、アクセス速度が大きく低下(変動)して録画ミスが増える原因となる。




ファイル削除や初期化で改善できるか

あらかじめ空き領域を増やしておけば、消去(書き込み準備済み)の領域を増やすことができ、書き込み速度の低下が抑えられるのではないか。

つまりファイル削除や初期化(再フォーマット)によって、より多くの領域(または全域)の書き込み速度が向上するのではないか。

SSDのファイル削除や初期化は、「原則として」書き込み速度の低下を抑制するのに効果がない。またディスクユーティリティなどで「完全消去」するのも同様だ。その理由は、一般的なUSBストレージ(マスストレージクラスデバイス)にはOSから不要になった領域をSSDに伝える手段がないためだ。

つまりOSからの書き込み処理が、有効なデータの書き込みなのか、それとも消去のためのものなのか、SSDには区別できない。

この問題を解決できる手段が「Trim機能」で、OSから不要になった領域がSSDに通知される。USB SSDではUASP(USB Attached SCSI)に対応する製品では、UNMAP機能のサポートによってTrimと同等の効果が期待できる。macOSやiOSではAPFSで初期化されたUASP対応のUSB SSDに対して、Trim処理が行われることを確認した。

ただしOSが行うのは「不要になった領域」の通知だけであり、その情報を活用して消去を行うかどうかはSSDの設計次第だ。

消去に有効なアイドル状態での放置

スペア領域やTrimで解放された領域の消去を確実に進めるには、SSDのアイドル状態を一定時間維持する必要がある。特にOSのTrim機能は解放できる領域を通知するだけで、実際の消去はTrimコマンドを受けてからSSD上で時間をかけて(バックグラウンド処理で)実行されるので注意が必要だ。

ちなみにアイドル状態とは「SSDに電源が供給されていて、しかもアクセスされない」状態を指す(アクセスされると消去処理の優先度が下がるため)。具体的には電源の入ったMacなどに接続し「何もしない」で放置する。

ただこの状態でもOSがSpotlight検索のインデックス作成などの用途で勝手にSSDにアクセスするので、SSDを接続後にアンマウントしておくのが望ましい(SSDのアイコンをゴミ箱に入れ、SSDはUSBポートから抜かずに通電したまま放置する)。

この状態のまま、解放された領域がすべて消去されて書き込み準備が整うのを待つ。SSD容量や消去したデータ量にもよるが、おおむね数十分から数時間程度放置すればほとんど完了するはずだ。

連続して録画を行った直後のSSDでは、すぐに録画に使える「消去済領域」が小さくなっており、継続して録画すると書き込み速度が落ちやすい。しかし次の録画の前に「通電したまま放置」することでSSD内部で未消去領域の消去処理が徐々に進み、次の録画に備えた(高速に書き込みができる)領域が拡大していく。

以上をまとめると、録画に使うSSDはAPFSでフォーマットして使う、より多くの空き容量を確保しておく、使う前にアイドル状態で一定時間放置する、使い古したSSDは使わない。また新たに録画用にSSDを購入する場合は、UASPに対応し、より大容量で高速、かつ放熱性に優れた製品を選ぶ。

こういった工夫をすることで、録画に失敗するリスクを減らすことができるはずだ。




おすすめの記事

著者プロフィール

今井隆

今井隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。

この著者の記事一覧

×
×