自分と仲間だけがわかる“アングラ”にハマっていった
M-1グランプリ決勝進出の実績を持つ人気お笑いコンビ「カミナリ」。ツッコミ担当の石田たくみさんは芸能界きってのヒップホップ愛好家としても知られ、好きが高じて自らビートメイクを開始。プロ顔負けの制作環境を自宅に整え、インストアルバムをリリースするなど音楽分野でも精力的に活動している。ユーチューブチャンネル「カミナリの記録映像」では、作曲家デビット・ワイズやMPCメーカーのAKAIとのコラボも実現。マルチな才能をいかんなく発揮している。

お笑い芸人 石田たくみ
1988年7月6日生まれ、茨城県出身。幼なじみのまなぶとともに2011年、お笑いコンビ・カミナリを結成。どつき漫才スタイルで人気を博し、M-1グランプリ2016、2017 ファイナリスト。大のヒップホップ好きとしても知られており、自身がビートメイクしたインストアルバムを配信するなど音楽分野でも活躍。YouTubeチャンネル「カミナリの記録映像」でも音楽制作の様子をたびたび公開しており、2023年には憧れの作曲家デビット・ワイズとも共演を果たした。
たくみさんが音楽に興味を持ったのは小学生の頃。ヒット曲は欠かさずチェックしており、学校では前日に見た音楽番組の話題で盛り上がるのが日常だった。RIP SLYMEやKICK THE CAN CREW、ケツメイシ、Dragon Ashなどを通してヒップホップやレゲエのビートにも親しんでいた。
そんなたくみさんが本格的にヒップホップにのめり込むきっかけを作ったのは、相方・まなぶさんだった。
「まなぶには8歳上のお姉さんがいるんです。そのお姉さんがまなぶにヒップホップを教えて、まなぶが僕に教えてくれたという流れです」
まなぶさんから当時の水戸のライブシーンを牽引していたというLUNCH TIME SPEAXを紹介されたたくみさんは、彼らの紡ぎ出す日本語ラップに魅了され、ヒップホップの世界にのめりこんでいくことになる。

「BUDDHA BRANDやNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDをよく聴いていました。最初はビートやトラックに惹かれて、さらにラッパーのフロウやリリック、パンチラインを好きになっていきました。ヒップホップはテレビにあまり映らないアーティストも多かったですが、そこがまたよかったんですよね。友だちに勧めてもほとんど共感されないようなアングラなカルチャーや音楽に、自分と一部の仲間だけがハマっている。そんな状況に酔っていたところがあったかもしれません(笑)」
2011年4月にまなぶさんとカミナリを結成。M-1グランプリなどで実績を残し、お笑い芸人として活躍するようになったたくみさん。ヒップホップ好きを公言していたこともあり、次第にラップ関係の仕事が増えていったという。一方で、くすぶる思いもあった。
「ラップをする芸人さんが増えてきて、他の人と同じことばかりやっていても差別化できないと思ったんです。そこで考えたのが、ラップ好きな芸人はいても、ゴリゴリにビートメイクする芸人はいないだろうということ。ちょうどその頃、コロナ禍で時間があったこともあり、機材をそろえてビートメイクを始めました」
本格的な音楽制作経験こそなかったものの、ネタで使う効果音など簡単な音源は昔から自分自身で作っていたというたくみさん。しかも効果音やBGMをつないでひとつに編集して、コントではその“楽曲”を流していたというから驚きだ。
「普通は音響担当者にコントの進行に合わせて効果音やBGMを流してもらうのですが、それだとどうしてもタイミングがズレてしまうこともあります。ぜんぶつなげてしまえば最初に再生ボタンを押してもらうだけで済みますから」
学生時代から映像制作をはじめる
事もなげに言うたくみさんだが、楽曲制作はそう簡単にできることではない。そのクリエイティブな才能はどのようにして培われたのか。
「大学生の頃、動画編集が好きで、実家にあった8ミリビデオで映像制作をしていたことがあったんです。当時は勉強用に買ってもらったWindows PCを使っていて、ムービーメーカーというソフトで友だちとラップのMVを作ったりしていました」
とはいえ、当時からMacには憧れを持っていたという。ガジェットに詳しいまなぶさんから「MacはWindowsよりも簡単で、誰にでも使いやすい」と聞いていたことや、スタイリッシュなデザインが好きだったからだ。
「もともとApple製品は好きで、大学時代からiPhoneを使っていました。ちなみに初めて買ったiPhone
3GSにケースをつけようとしたら、まなぶが『ジョブズはケースなんて望んでいない』って言うもんだから、つけずに使っていたんですよ。そうしたら傷ついてしまったので、iPhone 4に買い替えてからはケースをつけるようにしています。その頃、まなぶもiPhoneを使うようになったんですが、見たらケースをつけていました(笑)」
大学卒業後、まなぶさんら友人と3人暮らしを始めたたくみさん。新生活を機にお金を出し合い、念願のiMacを購入した。映像編集をiMovieで行うようにしたところ、ムービーメーカーではできなかった複数テロップの挿入や配置の変更ができるようになり、作業効率や作品のクオリティが一気に高まったという。こうした映像編集の技術は、芸能事務所・グレープカンパニーに所属する際も役立った。
「履歴書と一緒にネタ見せのDVDを送る必要があったのですが、当時ネタがなかったので、ヒップホップの自作MVを送ったんです。僕とまなぶと友人2人の計4人が映っている映像をつめこんで。するとすぐにグレープカンパニーから電話が来たので、これは天才だと思われたんじゃないか!?って喜んだら、『どの2人がカミナリですか?』っていう問い合わせでした(笑)」
おどけながら当時を振り返るたくみさんだが、いざグレープカンパニーに所属してみると「すごい映像を作れる芸人が入ってきた」という噂が広まっていたというから、実際のところインパクトは大きかったに違いない。たくみさんの映像のクオリティの高さは業界内でも話題になり、無料アプリのiMovieで制作していることをテレビ関係者に驚かれたり、先輩芸人からネタ用の映像制作を頼まれたりしていたという。
ただ、2015年に漫才スタイルに移行してからは、そうした効果音やBGMが不要になり、音楽や映像関連の作業は一旦封印することになった。インターネットを使うくらいならiPhoneで十分。iMacはおろか、別途購入していたMacBookもまったく使わなくなり、引き出しにしまいこんでしまった。
状況が変わったのはコロナ禍になってから。YouTubeチャンネルをスタートすることになり、動画編集のためにMacBook Proを新調した。YouTubeだけでなく、映画を作ってみたいという思いもあり、スペックは可能な限り盛ったのだという。

サンプリングするレコードはジャケ買い
たくみさんの音楽制作はサンプリングが中心だ。まずは元ネタとなる楽曲を探すためレコード屋に足を運び、レコードやCDを“ディグる”(掘る)ことから始まる。お気に入りの楽曲を見つけたら、「MPC Live Ⅱ」に取り込み、音をチョップしたり、逆再生したり、ピッチを変えたりと、感性のままにサンプリング。出来上がったらサンプラー「SP-404SX」を経由してDAWソフト「Logic Pro」で再生。細かい修正を施して録音するという流れだ。


「ディグるときは音を聴けないのでジャケ買いが基本。経験上、アーティスト自身が写っていて、自信を持った眼差しでこちらをまっすぐ見つめているジャケットを選ぶと“当たり”のことが多いです」

2021年にはラップデュオ・Three Pinesにビートを提供。2024年には自身が全編サンプリングしたインストアルバム「DELIVERY FROM THE SUBURBS」をリリースするなど活動の幅を広げてきたたくみさんだが、今年は音楽よりも芸人としてのネタ作りに力を入れたいと語る。
「ネタを作るときもAppleデバイスに頼っています。手書きが好きなので、iPadの「メモ」アプリとApple Pencilを使ってネタをまとめて、まなぶに共有するんです。ただ、iPadは子どもの物なので、使うときは許可をもらわないといけませんが(笑)」
お笑いとヒップホップ。ふたつの才能をクロスさせ、唯一無二の存在として活躍するたくみさん。今後もAppleデバイスとともに独自の道を突っ走っていくだろう。


※この記事は『Mac Fan』2025年7月号に掲載されたものです。
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著者プロフィール
山田井ユウキ
2001年より「マルコ」名義で趣味のテキストサイトを運営しているうちに、いつのまにか書くことが仕事になっていた“テキサイライター”。好きなものはワインとカメラとBL。





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