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Apple Vision Proで“自分だけの360度世界”を生成! 没入型AIアプリを体験してみた

著者: 大谷和利

Apple Vision Proで“自分だけの360度世界”を生成! 没入型AIアプリを体験してみた

画像生成AIは、リアルさを競う方向で進化してきたが、生成されるイメージの縦横比は1:1〜16:9が一般的だ。

それは、閲覧環境がパーソナルコンピュータやスマートフォンであることも一因と考えられる。

しかし、Apple Vision Pro(以下、AVP)のような空間コンピューティング環境では、物理的なスクリーンのサイズや縦横比に縛られる必要はない。360度のイマーシブビューそのものを生成してしまえばよいのである。

Skybox AIのAPIを利用する「Passage」

実は、360度のイメージ生成に特化したWebサービスは少し前から存在している。Blockade LabsによるSkybox AIがそれだ。

「Passage」は、そのAPIを利用したAVP専用のアプリである。

日本向けには「没入型360ワールド : 通路」の名で公開されており、月額700円のアプリだが、画像生成の際に短い広告を見れば、無料で利用することができる。

没入型360ワールド: 通路

【開発】
Cephalopod Studio
【価格】
無料(アプリ内課金あり)
Passage(日本名は「没入型360ワールド : 通路」)は、月額700円(年額割引価格6000円)のアプリだが、広告付きの無料プランでも利用できる。

360度のイマーシブビューの生成は、ほかの画像生成AIと同じく、作り出したい情景をプロンプトで表現することによって行われる。

たとえば、原始時代に戻って恐竜と遭遇したいのであれば、「ジュラ期のジャングルで恐竜に囲まれている」といったプロンプトを入力する。

日本語入力にも対応しているため、英語は苦手という人でも気軽に生成できる。

生成されるのは360度イメージなので、単に目の前の風景だけでなく、上を見上げたり、下を見下ろしたり、後ろを振り向いても、景色が破綻なく続いている。

左右の風景は、首を振って見ることもできるが、生成されたイメージ内の紺色のバンドをつまんで動かせば、任意の方向を自分の正面に持ってくることが可能だ。

たとえば「ジュラ期のジャングルで恐竜に囲まれている」というプロンプトを入力すると、このような360度パノラマイメージが生成される。
視線を上げると、そびえ立つ原始時代の巨木が目に入ってくる。
視線を落とすと、恐竜の足元や生い茂るシダ類が見える。紺色のバンド状の線は、ジェスチャでつまんで動かすことで、360イメージの左右の位置を調整するためのもの。

特徴的なカットアウト機能と「初の空間広告」表示

AVPでは、プリインストールされているイマーシブ環境から任意の風景を選び、その中でアプリを起動して作業することができる。

しかし、そのイマーシブ環境にユーザが自分で用意した360度写真を追加することはできず、あくまでもAppleが用意したものを使う必要がある。

Passageがユニークなのは、プロンプトで360度パノラマイメージを生成できるだけでなく、その一部にカットアウトと呼ばれる穴を開けて、現実のデスクや膝下を見ることができる点だ。

後述するようにPassage内で利用できるアプリは限られてはいるが、自分で生成したシーン内でキーボードやマウスを接続して利用する際の便宜を図っているのである。

「カットアウト」機能をオンにすると、360度イメージの下方に現実のデスクや膝元をパススルー画像で映し出すことができる。

先に触れたように、Passageの無料プランでは、360度イメージを生成するたびに短い広告が表示される。

こうした広告表示は無料のiOSアプリなどでもよく見かけるが、Passage内では誇らしげに(?)「初の空間広告」と銘打たれている。

無料プランの場合、画像生成のたびに、このような広告が表示される。これは、「初の空間広告」と銘打たれたウェルネスセンターの広告映像。

イラスト系のリアルさが得意

ほかの作例として、「火星に近づきつつある未来的な宇宙船の操機席」や「Macintosh専門誌の編集部」も生成させてみた。

前者はSF映画にでも出てきそうな風景となり、後者はかなり「Mac=アート指向」というバイアスがかかったポップな雰囲気の部屋になった。

APIを利用しているSkybox AIは、写真的というよりイラスト系のリアルさが得意な印象があり、Passageでもそういう傾向が引き継がれていると感じる。

別の作例として「火星に近づきつつある未来的な宇宙船の操機席」というプロンプトで生成してみた風景。
実際には「火星に着陸しつつある」というイメージに見えるが、それなりに雰囲気は出ている。
見上げると、ややリアリティには欠けるものの、メカ的なディテールも生成されている。
これは未来のマイナビ出版の社内(?)を想定した「Macintosh専門誌の編集部」。かなりアート指向が強いインテリアになった。

プロ作成の3Dワールドや自前のパノラマ写真表示も

Passageには、生成AIによる360度パノラマイメージ生成機能に加えて、プロが作成した3Dワールドの表示機能もある。

360度パノラマイメージは、周囲を完全にカバーするものの2Dなので立体視はできず奥行き感がない。

これに対して、3Dワールドは実際の3Dデータとして作成されているため、よりイマーシブ感が高い。

AI生成された360イメージが2Dのパノラマ画像であるのに対し、プリセットされている3Dワールドは、奥行きも感じられるイマーシブな空間を作り出す。

3Dワールドといっても、自由に歩き回れるVR空間とは異なり、基本的にはPassageを起動した場所から周囲を見回すことになる。

しかし、風景は完全な立体視となり、頭を左右にずらしたり、その場で立ち上がったり座ったりすると、見えているオブジェクトの位置関係が変化することで、3Dデータで構築された空間であることが認識できる。

歩き回ることはできないが、視点を上下左右に移動すると、空間内のオブジェクトの相対的な位置が変化する。

また、iPhoneのパノラマ撮影機能や360度カメラで撮影した写真を読み込んで表示させることも可能だ。

完全に全天周をカバーするには360度カメラの写真が必須となり、単純なパノラマ写真では歪みが生じるが、それでも正面付近はそれなりの雰囲気が味わえる。

自分で撮影したパノラマ写真などをインポートして利用することもできる。これはプラハの旧市街をiPhoneのパノラマ撮影機能で撮った写真を読み込んだもの。

YouTubeの鑑賞や文章執筆も可能

先に少し触れたPassage環境内でのアプリ利用に関しては、内蔵のYouTubeのブラウザとシンプルなワードプロセッサを使うことができる。

AVPの標準的なイマーシブ環境の背景は、時間帯によって変化し、昼間はシーンが明るく邪魔に感じられたりもするので、時間的な変化のないPassageで好みの背景を生成して動画を見たり、文章を書きたいというニーズもあるだろう。

実用的な機能のひとつとして、YouTubeのブラウザが内蔵されている。
もう1つの実用機能が、このシンプルなワードプロセッサ。カットアウト機能と組み合わせれば、手元のキーボードを見ながらタイピングすることができる。

ちなみに、自前の360度写真や任意の写真を球体化し、AR表示で外側から眺めたり、内側に入り込んで空間アートとして鑑賞できるアプリとしては、日本人のプログラマの池田純二さん作の「360toSpatial」もある。

Apple Vision Pro専用のPassageとは異なり、iPhoneやiPadにも対応しており、気軽に体験することができるので、興味のある方は試していただきたい。

AVPでの鑑賞が理想だが、iPhoneやiPad上でも自前の写真を空間アートとしてARの球体で表示でき、その内部に入り込むこともできる360toSpatialアプリ。