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「Macintosh Quadra 700」の基本設計と革新的アーキテクチャ/今井隆の「Think Vintage.」

著者: 今井隆

「Macintosh Quadra 700」の基本設計と革新的アーキテクチャ/今井隆の「Think Vintage.」

1991年に発表された「Macintosh Quadra 700」は、同時リリースの「Macintosh Quadra 900」と同様に、68040CPUを中核に据えた新しいアーキテクチャを備えていた。

一方でインターフェイス周りの設計はIIcxやIIciをベースとした設計となっており、カスタムチップの集積度はまだ低い。

ロジックボード上には多数のカスタムチップに加えて汎用ロジックチップ(TTL)も数多く搭載されているが、後継モデルとなるQuadra 800やCentris 610/650では、Quadra 700をベースにカスタムチップの統合や汎用ロジックの大幅な削減が行われ、コストダウンと製造性の向上が行われた。

Quadra 700のロジックボードは十数個のカスタムチップと汎用ロジックの組み合わせで構成されており、LC 575など後発の68040搭載ボードに比べると集積度が低くチップ数がかなり多いことがわかる。中央部やや上にある紫色のチップがXC68040プロセッサで、実際の製品では黒いヒートシンクが取り付けられている。
Quadra 700のアーキテクチャブロック図。68040 CPUの採用が最大の特長だが、インターフェイス周りを中心に全体的な構成はIIciに近い。このQuadra 700の設計をベースにして、Quadra 800やLC 475/575ではカスタムチップや汎用ロジックの集約化が進められ、部品点数が削減されていった。

Quadraで採用された画期的なビデオメモリ「デュアルポートDRAM」

それまでビデオ表示機能を備えたMacでは、メインメモリの一部をディスプレイ表示のためのビデオメモリに割り当てる方法が採用されてきた。

この方法は回路の簡素化に向いている一方で、メインメモリ帯域の一部をビデオ表示のために割く必要があるため、CPU性能に影響を及ぼす。

初期のモノクロディスプレイ一体型のMacでは割り当てられるビデオメモリがわずか22KBだったこともあってその影響は小さかったが、640×480ピクセルで256色カラー表示を実現するIIciやIIsiでは300KBを超えるメモリが割り当てられるため、その影響が大きかった。

そのため両モデルではメインメモリを2つのメモリバンクに分割し、片側のみにビデオメモリを割り当てることで影響を抑える工夫がされていたが、その効果は限定的だったと見られる。

Macintosh IIと同時にリリースされたApple High-Resolution RGB Monitor(通称13インチカラーディスプレイ、640×480ピクセル)は、当時のMacのリファレンスとなるカラーディスプレイだった。Appleのカタログでもほとんどのモデルはこのディスプレイと組み合わせて掲載されていた。

ビデオメモリの負担が大きいのは、ディスプレイ表示のためのメモリアクセスがCPUからのアクセスよりも常に優先されるためだ。

なぜならディスプレイへのデータ転送が一瞬でも途切れると、画面表示に異常が出る(チラつきなどが発生する)からだ。

したがって画面の解像度や色数が増えるほど、メインメモリ帯域のうちディスプレイ表示に回される時間が多くなり、結果としてCPUがメインメモリにアクセスできる時間が減ってMacの性能が低下することとなった。

Quadra 700/900では、640×480ピクセル時にフルカラー(1677万色)表示をサポートするためにビデオメモリが最大2MBまで拡張され、その負荷が大幅に増大する。

そこでQuadraではCPU性能と表示性能を両立するために、新たにビデオメモリ専用の「デュアルポートDRAM」を採用した。

デュアルポートDRAMはディスプレイ表示専用に設計されたダイナミックメモリで、CPUが画面描画のためにアクセスするポートのほかに、ディスプレイに表示信号を送り出すための専用ポートを設けたものだ。

これによって画面表示のために占有される時間が大幅に削減され、CPUがより高速にビデオメモリにアクセスできるようになり、Quadra 700はCPU描画にもかかわらずQuickDrawアクセラレータに匹敵する描画性能を身につけた。

このデュアルポートDRAMを用いたビデオメモリ方式は、その後リリースされたMacにも広く展開された。

Quadra 700はロジックボード上に計512KB(128K/8ビット×4個)のデュアルポートDRAMを搭載しており、当時の13インチカラーディスプレイに256色を表示できた。この表示能力自体はIIciやIIsiと同じながら、その描画速度は圧倒的に高速だった。
さらにQuadra 700のロジックボードにはVRAM SIMMスロットが6基備えられており、ここに256KBのデュアルポートDRAMを搭載したVRAM SIMMを6枚搭載することで最大2MBまでビデオメモリを拡張し、13インチカラーディスプレイにフルカラー(1677万色)を表示できた。これにより当時のサードパーティ製NuBUSビデオカードのほとんどが、その優位性を失った。

NuBUSスロット数の削減と040 PDSの採用

Quadra 700が前モデルであるIIciに唯一劣るのが、拡張スロットであるNuBUSスロット数だ。

それまでのIIcxやIIciでは3基だったNuBUSスロットが2基に削減された。

ただ、これが実際にユーザに不便を強いたかというと、決してそうではなかったようだ。

というのも、Quadra 700ではEthernet(LAN)ポートが新設され、それまでNuBUSカードの追加が必要不可欠だったLANへの接続が標準化されたためだ。

さらに内蔵ビデオ回路が大幅強化されたことから、NuBUSビデオカードを追加することなく強力なグラフィック能力を手に入れることができた。

このようにNuBUSの役割が減ったこともあり、ほとんどの用途では2基のNuBUSスロットでも十分だったと考えられる。

それ以上の拡張カードを使いたいニーズには、5基ものNuBUSスロットを備えるQuadra 900および950という選択肢が残されていた。

Quadra 700と同時(1991年10月)にリリースされたQuadra 900は、新規設計のフルタワー型デザインを採用していた。そのリリースからわずか5カ月後の1992年3月には、CPUの動作速度を25MHzから33MHzに向上させたQuadra 950がリリースされた。この巨大な筐体を樹脂パーツのみで構成していたことには、今でも驚かされる。

また、Quadra 700には新しい040 PDS(Processor Direct Slot)が備えられた。

IIciにも030 PDSが備えられていたが、040 PDSはそのスロットデザインが大きく変更されている。

またQuadra 700の040 PDSは、NuBUSスロットの延長軸上に配置された。

その意味するところは、040 PDSを使う場合にはNuBUSスロットが1基減る(1スロットしか使えなくなる)という仕様だということだ。

これはおそらくNuBUSスロット数の削減と合わせて040 PDSとの排他仕様とすることで、電源容量不足を回避するためのものではないかと考えられる。

というのもQuadra 700はIIcxやIIciと同じ筐体サイズのため電源ユニットを共用しているからだ。

強力な68040 CPUの採用やインターフェイスの強化などによってロジックボードの消費電力は大幅に増していることから、電源ユニットを再利用するには拡張性に制限を設けるしかなかったのではないかと推測される。

Quadra 700では従来モデルのIIcxやIIciでは3基あるNuBUSスロットが2基に削減された。(写真右の白いスロット)またNuBUSスロットのフロントパネル寄りに同列で040 PDS(写真左の黒いスロット)が配置されており、ここにアクセラレータカードなどを搭載すると同列のNuBUSスロットが使えなくなる排他仕様となっていた。
Quadra 700ではMacで初めてEthernetインターフェイスが標準搭載され、汎用LANへの接続がサポートされた。ポートにはAAUI(Apple Attachment Unit Interface)と呼ばれる独自仕様が採用され、純正またはサードパーティ製のトランシーバを接続して、10BASE-2(同軸)あるいは10BASE-T(ツイストペア)に変換できた。

しかし、この040 PDSの採用がQuadra 700を次の時代に導く存在となることは、製品リリース当時はまだ知るよしもなかった。

次回はQuadra 700をはじめとする68040搭載Macを次の時代へと導いた「Macintosh Processor Upgrade Card」をご紹介しよう。

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著者プロフィール

今井隆

今井隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。

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