巨大なファンを備えたPower Mac G5。「高性能=高温」だった時代のハイエンドマシン
2020年は、社会的には新型コロナウイルスのパンデミックの年だった。その一方で、パーソナルコンピュータの世界においては、「高性能=高温」という常識が崩れた年として記憶されるだろう。もちろん、その立役者は、Appleシリコンこと「M1チップ」を搭載したMacである。
その昔、自動車業界ではいくつもの巨大なエアインテーク(空気取り入れ口)を設けたクルマが高性能を象徴しているのと同様に、大きな電動ファンを搭載して吸排気を行うマシンがハイエンドコンピュータの代表格だった時代があった。最たる存在が、2003年にデビューしたPower Mac G5だといえる。
その名のとおり、第5世代のPowerPCチップ(970シリーズ)を搭載するこのモデルは、Macintoshではじめて64ビットCPUを採用した機種でもある。発表されて実際に出荷が始まるまでの約2カ月間で10万件もの予約注文が入るほど、その性能に対する期待感は高かった。
そして、Power Mac G5は実際に高い性能と拡張性(3.5インチベイを4基、5インチベイを2基内臓)を発揮したのだが、同時にその強大なパワーがAppleの設計・デザインチームを悩ませた。PowerPCチップは、それ以前から性能に比例して発熱が大きいという問題が顕在化しており、第5世代のPowerPCチップは、もはやノートMacには搭載できないほどの熱を発生し、消費電力も高くなっていたのだ。
内部構造まで美しいPower Mac G5。それを“魅せる”透明パネルも登場した
Appleによる解決策は、まず、筐体の素材を熱伝導効率の高いアルミ合金化にすることだった。そして、フロントパネルはほぼ全面がメッシュという大胆なものにして、ともかくできるだけ多くの冷気を取り入れて中身を冷やすことを優先してデザインされていた。
それは内部のエアフローにもおよび、電源、メモリ、ストレージなどの各要素が、もっとも効率よく冷却できるような配置となっている。それも、単なる効率重視ではなく、故スティーブ・ジョブズの美的感覚を満たすようにまとめなければならないわけで、開発陣の苦労が忍ばれる。そして完成したPower Mac G5は、理想どおり、内部まで美しい1台となった。
しかし、せっかく美しく仕上げられた内部も、サイドパネルを閉じてしまえば見ることができなくなる。かといって、サイドパネルを開けた状態ではエアフローが乱れて冷却効率が落ちるため、利用時には閉じざるをえない。
そこでAppleは、オーナーが自慢できるポイントを、もう1つ加えることにした。何と、サイドパネルを外しても理想のエアフローが維持できる専用の透明パネルを付属したのだ。これは、内部構造の異なる後期モデルでは廃止され、動作時には必ずサイドパネルが必要となったので、初期のモデルのユーザだけに許されたひそかな愉しみといえた。
Power Mac G5の外装は、Intel化されたMac Proの2012年のモデルまで基本的に同じものが踏襲され、約10年間もの長寿デザインとなった。しかし、裏を返せば、性能と引き換えに高い発熱に悩まされ続けた10年でもあったのだ。
※この記事は『Mac Fan』2021年2月に掲載されたものです。
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著者プロフィール

大谷和利
1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。