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初代Mac miniの登場。ジョブズが「BYODKM」と称した、Windows PCの“居抜き”で使えるMac

著者: 大谷和利

初代Mac miniの登場。ジョブズが「BYODKM」と称した、Windows PCの“居抜き”で使えるMac

2005年、初代Mac miniがリリース。史上例を見ない低価格と大胆な発想

不動産用語に「居抜き」というものがある。これは、店舗や工場、宿泊施設などで、設備、什器、家具を残したまま売買・賃貸借契約を行うことを指す。すでにある設備を利用するので、初期費用や準備のための時間を抑えて営業できることがメリットだ。

2005年にMacintoshのエントリーモデルとしてデビューした初代Mac miniは、当時、音楽プレーヤのiPod人気の後押しを受けて盛り返しつつあったMacへの関心の高まりを背景に、もう1つの役割としてWindowsマシンからの買い替え需要を狙っていた。

その際のアピールポイントが、すでに持っているディスプレイ、USBマウス、同キーボードがそのまま使えるというもので、発表時に故スティーブ・ジョブズは、“BYODKM”(Bring Your Own Display, Keyboard and Mouse)と表現した。これは、パーティーなどで飲み物は自前で用意してほしい場合に使われる“BYOD”(Bring Your Own Drink)をもじった言い回しだ。つまり「居抜き」状態でコンピュータ本体だけ買えば済むというセールストークだった。

初代Mac miniは、1.25GHzのPowerPC G4と40GBのハードディスクを搭載したベースモデルが5万8590円(税込)という、Mac史上例を見ない低価格で販売された。その価格設定に貢献したのが、マウスもキーボードも同梱しないという大胆な発想だったのである。

Mac miniのシンプルなデザインとコンセプト。Windows PCにも数々のフォロワーが現れた

初代モデルのサイズが、現行のMac miniよりも大きいのは、光学メディア用のドライブを搭載しているためであり、写真を見ると、そのスロット幅によって本体の幅と奥行きが決まったことがわかる。

この時代の筐体はアルミ合金とポリカーボネート樹脂を組み合わせて作られていて、ユニボディではないものの、現在の同モデルにつながる基本的なフォルムはすでに完成していたといえよう。

その簡潔なデザインと製品コンセプトは、例によってWindows陣営に多くのフォロワーを生み、これ以降、Mac miniに倣ったコンパクトで低価格なWindowsのデスクトップマシンが乱立することになった。

また、翌2006年にIntel CPUに移行した直後から、AppleがXgridと呼ばれる並列処理のフレームワークの提供を始めた。それを利用して、100台以上のMac miniを使ったサーバシステムを構築するユーザも現れるようになり、単なるエントリーモデルを超えたモジュラー的な計算ユニットとしても認知されていった。

元々、Appleが目論んでいたWindowsマシンの置き換えという観点からは、特にBoot CampでWindowsを走らせられるようになって以降、そういう事例も増えたと考えられる。しかし、それはあくまでもWIndowsマシンとして使うことが前提で、OSとしてのMacintoshプラットフォームに置き換わったとは言い難い面もあった。

だが、M1チップ搭載のMac miniは、その驚異的な性能によって、従来モデルが果たせなかった夢を叶えてくれそうな勢いで売れた。その意味でMac miniは、15年の歳月をかけて完成に漕ぎ着けた戦略モデルといえるのかもしれない。

※この記事は『Mac Fan』2021年1月に掲載されたものです。

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著者プロフィール

大谷和利

大谷和利

1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。

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