2025年3月12日の発売に先立ち、M3搭載iPad Airを試用する機会を得た。本記事では、そのファーストインプレッションをお届けしよう。
11インチ、13インチの2サイズ展開で登場するM3搭載iPad Airだが、今回は“大きいほう”の13インチで、Wi-Fi+セルラーモデルをお借りした。ストレージ容量は1TBのブルー。24万2800円で展開されるモデルだ。
また、Apple Pencil Pro(2万1800円)、リニューアルされた13インチiPad Air(M3)用Magic Keyboard(4万9800円)、13インチiPad Air(M3)用Smart Folio デニム(1万7800円)も同時に試用した。

4モデル、計6ラインアップのiPadシリーズ。新iPad Airは、“一般ユーザの新定番”という位置付け
M3搭載iPad Airをひとことで表せば、「M2をM3に積み替えて、価格据え置き」ということなのだが、それを念頭に置き、まずは概略から解説していこう。
現在のタブレット市場は、ほぼiPad一強の様相を呈している。
市場のおよそ半分をiPadシリーズが占めている状態だ。残り半分は、SurfaceやNECレノボのキーボードが外れるタイプのWindows PCと、HUAWEIやAmazonの廉価なタブレット。前者は「お手軽なパソコン」として使われており、後者はYouTubeを見たり、小説、マンガを読んだり…といったコンテンツ消費に使われている。
つまり、「クリエイティブ、ビジネス、教育、ゲームなどで使える高性能タブレット」という立ち位置は、iPadがほぼ独占しているわけだ。
その中で、iPad Pro、iPad Air、iPad mini、iPadという4ラインアップが存在し、iPad ProとiPad Airには、それぞれ11インチモデルと13インチモデルが用意されているため、合計6種類展開となる。

それぞれ特徴づけはしっかり行われており、iPad Proは超高性能で高価。iPad miniはその名のとおり小型。iPadは機能を制限して価格を抑え、教育市場向けに…ということで、まず一般の方におすすめできるのはiPad Airということになる。
M3搭載iPad Airは、いわば“第7世代”。対応Apple Pencilには要注意だ
M3搭載iPad Airは、旧来の名称どおりいけば“第7世代”にあたる。
iPad Airは第3世代までがホームボタンを備えるタイプで、第4世代で現行と同じエッジtoエッジのフルスクリーンを採用。縦持ちしたときフレームの右上にくる、トップボタンに備わったTouch IDで認証する。
なお、第4~5世代は10.9インチ、M2、M3モデルは11インチと呼称されているが、実は第4世代からボディ寸法もディスプレイサイズも変わってない。
というわけで、筐体の仕様は長らく同じなのだ。しかし、ちょっと意地悪だなと思うのが、M2モデルからApple Pencil Pro、Apple Pencil(USB-C)のみの対応となったこと。第4、第5世代が対応するApple Pencil(第2世代)が使えなくなってしまった。
iPad Airで絵を描く人で、買い替えを検討しているなら、Apple Pencilの買い替えが発生することは把握しておきたい。
そのほか、なぜか11インチモデルの本体重量は前モデルから2g重く、13インチモデルは1g軽くなっている。その点についてAppleに質問してみたが、とりわけ明確な理由はないとのこと。「総合的にそうなった」らしい。
M3搭載iPad Airをベンチマーク! M2からの進化はいかほど?
というわけで、新iPad Airの変化はM2→M3チップへのアップデートに集約されるわけだが、その違いは実に大きい。まずは、Geekbench 6とGeekbench AIのベンチマーク結果をご覧いただきたい。
M3チップは2023年11月発売のiMacやMacBook Proに搭載されていたので、すでに登場から1年以上経っている。しかし、iPad ProがM2からM4にジャンプアップしたため、M3チップがiPadシリーズに搭載されるのははじめてだ。
CPUとGPUのベンチマーク結果をチェック!
M2とM3のコア数は変わらないが、シングルコアCPUで16%、マルチコアCPUで18%と順当な性能向上を見せた。「Appleシリコンは1世代で15~20%性能向上する」という、これまでのパターンを踏襲している。

GPUは10%の性能向上に留まっているが、ダイナミックキャッシング、ハードウェアアクセラレーテッドメッシュシェーディングとレイトレーシングなどに対応した。そのため、3Dグラフィックを伴うCAD作業やゲームなどでは、大幅な体験の向上が期待できそうだだ。
Neural Engineのベンチマークをチェック!
Geekbench AIでNeural Engineの処理能力を計測すると、単精度で19%、半精度で33%、量子化で35%の性能向上が見られた。
ローカルの処理能力が要求されるApple Intelligenceでは、半精度や量子化の性能が要求される。そのため、Apple Intelligenceの方向性が決まるとともに、Appleシリコンが備えるNeural Engineも、その性能を追求するようになっているのだろう。

残念ながらWi-Fi 7には非対応。通信まわりのアップデートは少々物足りない
総じて前モデルの仕様を踏襲し、チップセットの性能向上で価値を出しているiPad Air(M3)。しかし、長い目で見るとアップグレードしてほしかった部分もある。それが通信系の仕様だ。
まず、iPhone 16シリーズではすでに利用できるWi-Fi 7には非対応。Wi-Fi 6Eのままだった。また、iPhone 16eで搭載されたC1チップは採用されなかった。もっとも、C1を搭載することで性能がむしろ低下する部分もあるのだが。
このあたりは、次の大幅なモデルチェンジの際にまとめて更新されるのだろうか。
専用Magic Keyboardがついに登場。背面のカメラユニットも美しくフィット!
もうひとつ大きなポイントが、新しいM3搭載iPad Air専用のMagic Keyboardが用意されたことだろう。

従来のM2搭載iPad Air用のMagic Keyboardは、旧世代のiPad Proと共用で、カメラユニット用の大きな穴が空いていた。筆者はこれに違和感を覚えていたのだが、今回、iPad Air専用のMagic Keyboardが用意された。

基本的には、M4搭載のiPad Pro用とのMagic Keyboardと同じデザイン。しかし、パームレスト部分はアルミ製ではなく樹脂製だ。また、この新しいMagic Keyboardは、iPad Air(第4世代)以降の全モデルで利用できる(そういう意味では、もっと早く発売してほしかった)。

成熟したiPad Air。長きにわたって使い続けられる、多くの人におすすめの最新モデル
ともあれ、このMagic Keyboardを新たに発売したということは、iPad Airの形状は当面、踏襲されていくのかもしれない。ここまで述べてきたように、仕様は成熟しており、急な変化があるとは考えづらい。
また、M3搭載iPad Airは単体で使うだけでなく、Macの外部ディスプレイとして使えるほか、UVC(USB Video Class)にも対応するモデルだ。たとえば、Nintendo SwitchやPS5などの外部ディスプレイとして使ったり、対応アプリを用いて一眼レフカメラのティザー撮影に役立てることもできる。

Wi-Fi 7に非対応など、若干の不満点はある。しかしそういう部分も含め、iPad Airとは、もとより“極限の性能”を追求するモデルではない。
もちろんiPad Proのほうが高性能だが、多くのユーザにとってはM3搭載iPad Airで十分なはず。動画編集や3Dグラフィックスなど、マシンの性能がとにかく追求される用途で使わない場合、今後長い期間にわたって使い続けられるモデルだと思う。何より、M3チップのハイパフォーマンスは、当分の間色あせることはないだろう。
今回登場したM3搭載iPad Airは、先鋭的な変化は確かになかった。しかし多くの人に対し、「安心して長期間使えるよ」とおすすめできる製品だ。
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著者プロフィール

村上タクタ
Webメディア編集長兼フリーライター。出版社に30年以上勤め、バイク、ラジコン飛行機、海水魚とサンゴ飼育…と、600冊以上の本を編集。2010年にテック系メディア「ThunderVolt」を創刊。