スティーブ・ジョブズが2005年にスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチで語った“Stay hungry. Stay foolish.”。
その言葉のオリジナルが掲載された雑誌「ホールアース・カタログ」を作った人物、スチュアート・ブランドに注目が集まっている。
彼が現代社会に与えた影響を紹介しよう。
あの名スピーチの引用元
“Stay hungry. Stay foolish.” 「貪欲であれ。愚直であれ」
Apple好きの皆さんなら一度は見聞きしたことがある言葉ではないだろうか。2005年、Apple創業者のスティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチで「私自身、いつもそうありたいと願っている」と言って引用した言葉である。
引用元は「ホールアース・カタログ」という雑誌で、その「エピローグ」号の背表紙に書かれていた。その「ホールアース・カタログ」を作った編集者がスチュアート・ブランドだ。
昨年末、ブランドの半生を記した翻訳書籍が出版され、彼の生き方や社会に与えた影響に注目が集まっている。
ブランドは1960年代、鬼才の建築家・思想家バックミンスター・フラーや、マウスの発明家ダグラス・エンゲルバートなどと交わる中で、彼らの思想に影響を受けて「ホールアース・カタログ」を創刊した。
カウンターカルチャーに関する記事と実用的な製品カタログが高く評価され、若者を中心に幅広い人気を博した。その後、70年代半ばまで不定期に刊行された。
そのうちの1冊、1974年刊行の「ホールアース・エピローグ」がジョブズのスピーチに登場したものだ。
テクノロジーへの先見性
ブランドが評価される点は数多くあるが、改めて注目したいのはテクノロジーに対する先見の明だ。
「ホールアース・カタログ」を見ると、環境や自然を意識した記事だけでなく、コンピュータや電子楽器などの最新技術の紹介なども実に多い。
ジョブズも件のスピーチで「グーグル登場35年も前に書かれた、紙のグーグル」と絶賛した。
パーソナルコンピュータやマルチメディア、ネットワーク、DTP、仮想現実などの可能性を読み取り、何十年もの先を見通した活動を行ってきたブランド。
そんな彼の考えが、端的に現れているのが「ホールアース・カタログ」の副題、“Access to tools”「ツールへのアクセス」だ。
これは、コンピュータを含むさまざまなツールを使いこなすことで、個人に変革を起こし、ひいてはそれを社会全体に革命をもたらすことを意味している。
こうした、カウンターカルチャーによる非中央集権な思想の広がりがシリコンバレーを生み出したという説もあり、ジョブズのスピーチはその証左とも言える。
ホールアース・エピローグ発行から50年。
雑誌というメディアも変化のときを迎えつつあるが、今後も読者の皆さんへ「変革をもたらすツール」となる情報を、貪欲に、愚直に届けていきたい。
※本記事は『Mac Fan 2024年5月・6月合併号』に掲載されたものです。
著者プロフィール
中筋義人
編集者。谷中のコンテンツ制作会社エディトル代表。執筆なども。出版社やソフトウェア開発会社などを経て独立。近著に「Apple Watch のすべてがわかる本」「ドローン空撮入門」など。