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“思い切った仕様”が詰め込まれたPowerBook 540c。最先端のCPU、業界初のトラックパッド、7時間のバッテリ駆動が真のモバイルMacを実現させた

著者: 大谷和利

“思い切った仕様”が詰め込まれたPowerBook 540c。最先端のCPU、業界初のトラックパッド、7時間のバッテリ駆動が真のモバイルMacを実現させた

※この記事は『Mac Fan』2019年6月号に掲載されたものです。

その重量は約3kg。それでもモバイルマシンとして活躍したPowerBook 540c

Macintoshは、元々、モノクロ2値のディスプレイからスタートし、1987年リリースのMacintosh IIでカラー化されたが高嶺の花で(当時の日本円で約60万円もした)、僕もなんとか購入できたのは1989年のIIcxからだった。

ノート型のPowerBookも同様に最初はモノクロモデルのみで、自分でもPowerBook 100、PowerBook Duo 230と使い継いで、1994年のPowerBook 540cが初めて買ったカラーマシンとなった。デスクトップMacの製品名の「c」は「コンパクト」を意味するが、PowerBookの場合には「カラー」モデルを指していた。

当時の最先端ノートコンピュータであるこのマシンのCPUは、モトローラのハイエンドプロセッサ、MC68040の低消費電力版(MC68LC040)で、動作クロックは33MHz(MHzはGHzの1000分の1)。ディスプレイは9.5インチで640 x 400ピクセル、240〜500MB(MBはGBの1024分の1)のハードディスクと1.4MBのフロッピーディスクドライブを搭載していた。それでいて、重量は約3.2kg、畳んだ状態で厚みが5.84cmもあった。

今、振り返ると、これでよく、あちこちに持ち歩いて仕事ができたものだと思うスペックだが、それが現在のトップモデル、MacBook Proにあたるマシンだったのである。

PowerBook 540cは斬新で思い切ったスタイルを貫いていた

PowerBook 540cのもっとも革新的だった部分は、トラックボールに替えてトラックパッドを業界で初めて採用したことと、前衛的ともいえるその筐体デザインにあった。

トラックボールは、機械式マウスのボールと同じく、手の脂やホコリを巻き込んで内部のローラが汚れると操作感が落ちるので、小まめな掃除が必要だったが、トラックパッドにはその心配がなく、後にライバル製品にも波及した。

筐体デザインは、ディスプレイカバーの厚みがヒンジ側よりも先端部のほうが大きく、本体の後端も自動車のリアスポイラーのように跳ね上がるなど斬新なもので、さすがにこれを真似するメーカーはなかったと記憶する。ディテールも含めて、思い切ったスタイルを貫いていた。

最大7時間のバッテリ駆動が可能! 着脱式のデュアルバッテリは強い味方だった

当時、モバイル状態でノートコンピュータを使う際に問題となったのは、重さよりもバッテリの持ちだった。リチウムイオンではなくニッケル水素充電池が主流の時代で、着脱式のバッテリパックは当たり前。その予備を常に持ち歩き、途中で交換しながら使うのである。

PowerBook 540cは、標準ではバッテリパック1個のみの付属だが、もう1つ買い足せば、左右で2個装着できる構造だった。そうすると、最大7時間のバッテリ駆動が可能となる。これが強い味方で、感覚的には、やっと1日中(つまり、一般的な就業時間の間)、外でもノートMacを使えるようになったと感じた。

機能拡張用に、PCMCIAと呼ばれる名刺サイズ(厚みは3.3、5、10.5mmの3種)の業界標準PCカードスロットを備えたのも、ノートMacとして初めての試みで、通信用やストレージ用などのカードがサードパーティから販売されていた。

今、この原稿はMacBook Airで書いているが、25年の月日を改めて感じずにはいられない。

著者プロフィール

大谷和利

大谷和利

1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。

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