ベンチャー企業の取締役、iU情報経営イノベーション専門職大学特任教授、そして書評ブロガーでもある徳本昌大氏が、“Appleを感じた”日本の起業家やイノベーターを取材。そのビジネスの裏側と展望を深掘りする。
入退室管理に活用される、AI顔認証ソリューション「kaopa」
TRIBAWL株式会社は、人材ビジネスの未来からバックキャスティングし、テクノロジー企業へと進化を遂げた。現在は、「人とAI・ロボティクスとの共生」を企業理念に掲げ、より暮らしやすい社会の実現に向けて革新的な取り組みを続けている。
同社が展開するのは、人間の五感にあたるAI・センシング・ロボティクス技術を基盤とし、画像認識と解析、音声認識、自然会話、ロボティクスなどの最先端技術を駆使したソリューションだ。特にAIによる顔認証ソリューション「kaopa」は、その精度と速度、コストを含めた実用性が高く評価され、三菱地所を筆頭とした大手企業のビルやオフィスの入退室管理システムとして採用が進んでいる。
代表取締役CEOの山本雄一郎氏は、約20年にわたり海外人材の教育・管理事業に携わってきた。ベトナム、インドネシア、タイ、中国、ミャンマーなどで職業訓練施設や語学教育施設を起ち上げ、同時に現地でのホテル、レストラン、介護施設などの実業も展開。実践的な教育による人材育成と同時に、発展著しい東南アジア市場での事業基盤を確立してきた。
事業で生まれた技術を応用し、さらなる事業を生み出す
山本氏は、商社勤務を経て、外国人技能実習生の受け入れ事業をスタート。当初は国内外の人件費格差で利益を生み出すビジネスモデルを展開していたが、アジアの経済発展に伴う人件費上昇や採用難に直面し、新たな展開を模索するようになる。
その結果、東南アジアでのレストラン運営、ホテル事業、娯楽施設の展開など、ライセンス形式や合同会社方式による事業多角化を実現した。さらに、深刻化する労働力不足に対応するため、テクノロジーを活用した業務効率化事業へと展開を図っている。
「kaopa」のプロジェクトもその一環だが、根幹には、海外で展開しているサイバーセキュリティや下水道管整備事業で培った画像解析技術があるという。
たとえば、下水道管整備に利用するロボットアームには精密動作が求められるが、それを実現するのが「特徴点抽出技術」だ。kaopaには、その技術を応用した「顔認証検索エンジン」が採用されている。顔の特徴点を107 個のポイントで捉えることで、高い精度で顔を認証するのだ。
使いやすく低コスト。「kaopa」が選ばれる理由は、CEOのソリューション開発哲学
kaopaは、高精度な認証技術と利便性を兼ね備えながら、リーズナブルな価格設定を実現している。しかも、入退室を管理する顔認証用のデバイスとしては業界最小クラス。認証速度もわずか0.15秒と超高速だ。前述のとおり、三菱地所が運営するシェアオフィス「xLINK」で全面採用されているほか、丸の内パークビルディング、岸本ビル、永楽ビルなど、さまざまなオフィスビルへの導入が広がっている。
山本氏は「人が使いやすいシステム、外国人人材に負けないコストの両面からテクノロジーを開発している」と話す。
kaopaの急速な普及は、同社のこの姿勢によるものだろう。
多くのオフィスの入退室管理に採用されているカードリーダシステムは、一般的に初期費用で30万円程度かかり、約3年で改修が必要といわれる。一方、kaopaの初期費用は10万円前後。月額費用も数千円程度と低コストだ。また、カードキーの管理やタッチ操作の手間が解消される点も評価を受けているという。
飲食チェーンなどの外食産業への導入事例にも注目だ。カードによる認証システムを採用しているような店舗では、たとえばアルバイトスタッフが増えるごとにカードを発行する手間がある。また、突如退職してしまった場合のデータ削除なども煩雑だ。一方kaopaであれば、データを作成/削除するだけでいい。また、バックヤードに入って一定時間が経過すると仮退勤とみなすなど、労務管理の適正化にも貢献してくれる。
顔認証技術のさらなる応用。ロボットによる業務効率化やセキュリティシステムまで
山本CEOは、「あらゆる職場が人材不足に直面する中、ロボットの活用は必然的な解決策となっています」と言う。
事実TRIBAWLは、グループ会社のセグウェイジャパンやTRIBE HOLDINGS JAPANと連係し、次世代ロボットの開発も加速させている。人物識別や服装識別の技術を活用した多機能ロボットは、すでにショッピングモールやレストランなどに導入され、清掃や配膳、接客などの基本業務を行いながら、警備やVIP検知といったセキュリティシステムとしての役割も果たしているそうだ。
kaopaでも協業する三菱地所のとあるオフィスビルでは、併設されたカフェから会議室へ、ロボットが配膳を担当しているという。会議室にQRコードが配置されており、そこからカフェに注文できる仕組みだ。単純に楽なだけではなく、社員の無駄な移動を省くことで業務効率化にもつながっている。人の移動がなくなることは、カフェのスタッフにとっても大きなメリットだ。
また、注文から配膳までの一連のプロセスはビルの管理システムと一元化されており、自動扉のセンサと連動し、スムースな通行を実現していという。速度調整やルートの決定も効率化を追及し、障害物を避けながら賢く動作する。
TRIBAWLは、技術革新と人材育成の両輪で、AIロボティクス技術の高度化と東南アジアでの事業基盤強化を進めながら、新たな技術分野への展開を積極的に進めている。現場のニーズを熟知した視点から、実用的なテクノロジーソリューションを提案し続ける同社。次なるイノベーションに、多方面から大きな期待が寄せられるのも当然だ。
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著者プロフィール
徳本昌大
広告会社でコミュニケーションデザイナーとして働いたのち、経営コンサルタントとして独立。複数のベンチャー企業の社外取締役やアドバイザー、ビジネス書の書評ブロガーとして活動中。情報経営イノベーション専門職大学特任教授。