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USBがWi-Fiに悪影響を与えることがあるってホント?

著者: 今井隆

USBがWi-Fiに悪影響を与えることがあるってホント?

※本記事は『Mac Fan』2023年2月号に掲載されたものです。

– 読む前に覚えておきたい用語-

ホワイトペーパーVCCI(情報処理装置等電波障害自主規制協議会)FCC(Federal Communications Commission)
Intel社がUSB-IFに提出したホワイトペーパー「USB 3.0 Radio Frequency Interference Impact on 2.4 GHz Wireless Devices」は、以下のURLで確認できる。
引用:USB Implementers Forum
VCCI協会はIT機器から発生する電磁妨害波の自主規制を行う一般財団法人。IT機器から発する妨害波や障害の抑止について自主的に規制し、その技術基準に適合した製品にVCCIロゴの表示を認めている。
引用:VCCI
FCCはアメリカ合衆国連邦政府の独立機関で、米国内での放送通信事業の規制監督を行う。IT機器が放射する電磁障害についてはFCCパート15「無線周波デバイス」のサブパートBで規定されている。
引用:FCC

USBがWi-Fiに与える影響

USBがWi-Fi通信に与える影響が大きく取り上げられたのは今から6年ほど前、Thunderbolt 3を備えたMacBook Proが登場した2016年に遡る。MacBook ProのUSB-CポートにUSBまたはThunderbolt対応のデバイスを接続した場合、Wi-Fi通信が途切れたり、通信速度が低下したりするケースが確認された。同様の現象はMacのみならず、たとえばMicrosoftのSurface Proシリーズなどでも同じような時期に報告されている。

この現象はUSB 3以降で採用された最大5Gbpsの高速通信(SuperSpeed USB)を用いた際に、そこから発生するノイズ(放射電磁界)がWi-Fi通信で使用される2.4GHz帯に干渉することで発生するもので、電磁障害(EMI=Electromagnetic Interference)と呼ばれる。

この問題については、Intel社が2012年4月にUSB−IFに提出したホワイトペーパー「USB 3.0 Radio Frequency Interference Impact on 2.4 GHz Wireless Devices」(USB 3.0の無線周波数干渉が2.4GHzワイヤレス機器に与える影響)にて報告されており、その中ではUSB通信がどのような周波数のノイズを発生させるのか、さまざまな実験や検証の結果とともに詳しく解説されている。

空間電磁界を可視化できるシステムを使い、USB-CハブとSSDを接続した際に発生する2.4GHz帯の輻射ノイズを計測した。この例では無線障害は起きていないが、それでもUSBコネクタ部を中心に輻射ノイズが発生していることがわかる。

その後パソコン(Macを含む)本体や周辺機器では、USBポート周辺のシールド強化などノイズ対策が施され、障害状況はかなり改善が進んだ。しかし最近、このUSBからの電磁障害が再び浮上してきている。その理由は大きく分けて2つあり、1つはUSB-Cポートを搭載する製品が増えてきたこと、もう1つはこれに伴ってUSB-CハブやUSB-Cドックなどの周辺機器が数多く出回るようになったことが関係している。

再浮上するUSBの電磁障害問題

USB-Cポートを持つ製品は、そのほとんどがUSB 3以上の高速通信をサポートするため、ノイズ源となるデバイスの普及が進んだことがその主因だ。これらの周辺機器の中にはシールドなどのノイズ対策が十分ではない製品も含まれていること、またノイズ対策が施されていても高速通信に対応するデバイスが増えれば、それだけノイズ源は増えることになる。USBメモリやSSDのほとんどがUSB 3以上に対応する現在の状況は、従来と比べてそのリスクが高くなっていると言わざるを得ない。

また、USBの電磁障害の影響を受けるのはWi-Fiだけではない。同じ2.4GHz帯を使って通信を行うBluetoothや、ワイヤレスキーボードやマウスに使用される(独自規格の)USBドングルもその影響を受ける。しかも5GHz帯への切り替えが可能なWi-Fiと違って、これらのデバイスは2.4GHz帯のノイズから逃れることができないため、その影響はより深刻だ。

キーボードの場合は接続断やタイプ入力の取りこぼし、マウスやトラックパッドではアイコンやフォルダをドラッグ中に落とす、ポインタが飛ぶ、といった障害が発生する。Bluetoothでは伝送レートが比較的高いオーディオデバイス(ワイヤレスヘッドフォンなど)で、接続断や音切れなどの障害が出やすい。

障害の原因とその対策

USBがWi-FiやBluetoothなどの無線通信に与える影響は、両者の物理的な距離と密接な関係がある。ノイズ源であるUSBデバイスと無線アンテナの距離が近いほどリスクが高く、電磁界強度(電波の強さ)はその信号源からの距離の2乗に比例して減衰する。つまり両者の距離が2倍になればノイズの影響は理論上4分の1に低減される。

MacBookシリーズで報告事例が多いのは、USB-Cポートと無線アンテナの距離が極めて近いためだ。MacBookシリーズのアンテナは本体後部の左右のヒンジ部付近にあり、USB-Cポートと数センチメートルしか離れていない。また背面パネルの両サイドにアンテナを持つMac miniも、USBポートの影響を受けやすい。

MacBookシリーズの無線アンテナモジュールは、本体後部のディスプレイヒンジ近くに配置されており、同じく本体後部の両サイドに配置されたUSB-Cポートからの電磁的な影響を受けやすい。
画像;iFixit

その一方でディスプレイ周辺部にアンテナを備えるiMacや、右サイド(第2世代アップルペンシルを吸着する辺)にアンテナを備えるiPadシリーズはUSBポートまでの距離があり、比較的影響を受けにくい。しかし、無線アンテナがUSBポートから遠いモデルでも、アンテナの近くにUSBデバイスやUSBケーブルを近づければその影響を受ける。

代表的なApple製品(Appleシリコン世代)のUSBポート(USB-CおよびUSB-A)位置と、無線アンテナ(Wi-FiおよびBluetooth)の配置。MacBookシリーズやMac miniは両者の距離が近いことがわかる。

Wi-FiやBluetoothがUSB通信の影響を受けているかどうかは、MacやiPadのUSBポートからケーブルやデバイスを外してみればわかる。USBの電磁障害は通信相手が存在しなければ影響が小さく、また2.4GHz帯のノイズを発生するのはUSB 3以上(USB4やサンダーボルトを含む)に限られている。

そこから考え得る対策を表にまとめた(下部表)。対策としては、Wi-Fiは影響を受けにくい5GHz帯を使う、ノイズ源となるデバイスを無線アンテナから遠ざける、周辺機器やケーブルにノイズ対策品を選ぶ、デバイスをUSB 3以上で動作させない(USB 2.0で動作させる)、の4つだ。これらの対策を複数組み合わせれば、さらに高い効果が期待できる。

USBから受ける無線通信への影響を低減する対策をまとめた。対策にはさまざまな方法があるが、複数を組み合わせて使うことでその効果を引き上げることができる。USB 3以上の高速通信を必要としないデバイスは、USB 2.0で動作させるのが効果的だ。

デバイスについては、VCCI(情報処理装置等電波障害自主規制協議会)やFCC(連邦通信委員会)が定める基準に適合した製品を選ぶことをおすすめする。VCCIやFCCは日本および米国におけるIT機器の放射妨害を測定し、技術基準に適合する製品にその表示を認めている。

USBデバイスやUSBドック製品、USBハブ製品には、VCCIやFCCなどの技術基準に適合していることを示すロゴが記載されているものがある。その表記がある製品がノイズ対策に配慮したものであることを示している。
画像:エレコム

もちろんこれらの規格に適合しているからといって電磁障害が起きないわけではなく、製品(Mac)の感受性やデバイスの位置、ケーブルの引き回しなどによってもその影響は変わる。一般的にはコネクタ部分が金属性のケーブルや金属ケースのUSBハブやドックが安心だと言われているが、たとえ金属製であってもそこがシールドと確実に接続されていなければノイズ対策の効果は低い。逆に外装がプラスチック製であっても、内部のシールドがしっかりしている製品はノイズの放射が少ない。

今後USBやThunderboltが一層高速化され、対応デバイスの普及がさらに進めば、その影響を受けるデバイスが増える可能性がある。障害の相手は目には見えない電磁波だけに、その発生源を特定することは容易ではないが、基本的な対策を確実に実施することで障害を未然に防止できることを覚えておきたい。

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著者プロフィール

今井隆

今井隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。

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