2023年1月に発表された、新たなワイヤレス充電規格「Qi2」。今年1月には日本でもQi2対応の新製品がリリースされはじめました。ここでは、Qi2規格の詳細や従来規格との違い、またQiの今後の展開について解説していきましょう。
Qi2って一体何?
Qi2(チーツー)は、無接点充電の規格を策定する団体であるWPC(Wireless Power Consortium)が開発した、最新のワイヤレス充電規格です。AppleのMagSafeをベースとした新しいテクノロジー「MPP(マグネティック・パワー・プロファイル)」によって、従来のQi規格より高効率かつ安全に、短時間でのワイヤレス充電を可能にします。
Qi2は、2023年1月に開催された世界最大の技術展示会CES 2023で発表され、iPhone 15シリーズに対応したことでも話題になりました。同年12月にはBelkinをはじめ、業界のリーディングカンパニーからQi2対応製品が発表され、今年に入り、日本市場向けにもQi2対応製品が登場しています。
そもそもQiは、乱立するワイヤレス充電の方式を統合することを目的に、2010年にワイヤレス充電の国際規格として策定されました。Qiは、送信機コイルと受信機コイルの2つのコイルにより電圧を誘導する磁場を生成し、その電圧によってデバイスに電力を供給する仕組みです。Qi対応製品の発売当初は、最大5Wまでと有線による充電に比べて充電速度が大きく下回る点や、手動で充電器側と端末側の充電位置を合わせるのが難しく、やや使いづらいのが課題でした。そんな中、2021年3月にWPC運営メンバーであるアップルがiPhone向けマグセーフの仕様をWPCに提供。Qi2の開発がはじまりました。
CES 2023でQi2がお披露目
Qi2は2023年1月に開催されたCES 2023で発表されました。ワイヤレス充電ながら最大出力15Wまでと大きいこと、そしてiPhone 13〜15にも対応していることで注目を浴びました。
Qi2に採用された新技術
従来のQi充電では、充電器とデバイスのコイルの位置がしっかり合っていないと、デバイスが充電されませんでした。そこで新しいQi2では、MagSafeテクノロジーに基づいて開発されたMPPによって、より正確な位置合わせを実現します。コイルを囲むように磁石が配置されているため、デバイスを近づけると磁力によりコイルの中心がピッタリ合うのです。さらに、位置合わせ用のマグネットが充電用の磁場に干渉しないように設計されているのもポイント。それらによって、充電がより効率的になり、デバイスの充電速度が向上します。
Qi2のコイルシステム
Qi2の構造は、Qiと同様に中心部にサークル状のコイルが配置され、その周りを囲むように位置合わせのマグネットが配置されています。
また従来のQiでは、充電に128KHzの周波数を使用しており、類似の周波数帯である車のロック解除を行うリモコンキーなどと干渉による不具合を引き起こす可能性がありました。そこで、Qi2では使用する周波数を360KHzに変更し、電波干渉の影響を受けにくい仕様にしています。
スイートスポットを逃がさない
Granite River Labsの試算では、Qi充電を手動で正確に位置決めした場合でも、転送率は最大50〜60%程度。一方Qi2では、最大で85〜90%のエネルギー伝送効率を実現します。
画像●ADVANCEMENTS IN WIRELESS POWER TRANSFER AND NFC TECHNOLOGY
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Qi2と従来規格の違い
Qiは家電市場でもっとも広く普及するワイヤレス充電規格です。2010年に登場したバージョン1.0では、最大出力数が5Wと低電力機器向けでしたが、2015年のバージョン1.2では、最大15Wまで充電できるプロファイル(EPP)を策定しました。アップル製品では、2017年に発売されたiPhone 8でQiに初対応し、現在ではエアポッズ(AirPods)も対応しています。ただし、アンドロイド(Android)スマートフォンは最大15Wで給電できるのに対し、iPhoneの場合は、最大7.5Wが上限となっています。また前述のとおり、マグネットによる位置合わせに非対応です。
一方Qi2は、マグネットを搭載し、最大出力は15W、またiPhone 13から15シリーズまで幅広いモデルに対応します。なお今後、Qiバージョン2.0に準拠したEPP製品は、既存のQiのロゴでブランド化される予定です。
Qi2対応製品が登場
現状のQi2製品は、ベルキンなど業界をリードするメーカーからリリースされています。ただ、iPhoneの場合は、Appleの公式認証を取得するメーカーのMagSafe対応のワイヤレス製品であれば、すでに15W高速充電に対応しているため、Qi2との実質的な差はありません。ですがQi2はユニバーサルな規格のため、今後より多くの対応製品が登場していくでしょう。Androidスマートフォンやそのほかのガジェットなど、Apple製品以外の対応端末も増えれば、市場がますます活気づいていくはずです。
Qi2が見据える未来
Qi2は、マグセーフと同様に磁気を利用することで、Qiよりも高速な充電を実現する電力効率の高い規格です。充電速度についても、マグセーフと同じ15Wの高速充電対応を果たしています。
WPCは、将来的により高速な充電速度とより高いワット数に対応することを目標に掲げているため、今後、安全性と伝送の耐久性というハードルを克服することが期待されています。また、WPCはQi2のアップデートと並行して、最大2.2KW電力を供給するコードレスの規格「Ki(キー)」の採用製品を、2024年の秋にリリース予定です。
Qi規格も、スマートフォンのワイヤレス充電という枠を超え、家電やVRヘッドセットなど、さまざまな機器をワイヤレス充電するようになるかもしれません。Qi2によってワイヤレス充電の新時代の幕が上がる瞬間を、私たちはまさにいま目撃しているのです。
※この記事は『Mac Fan』2024年4月号に掲載されたものです。
著者プロフィール
小枝祐基
PC、Mac、家電・デジタルガジェット周りを得意とするフリーライター。著書に『今日から使えるMacBook Air & Pro』(ソシム)、『疲れないパソコン仕事術』(インプレス)など。