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1ドル200円超時代。日米価格差に泣かされたMacユーザたち。コンパクト化とコストダウンを図って登場した

著者: 大谷和利

1ドル200円超時代。日米価格差に泣かされたMacユーザたち。コンパクト化とコストダウンを図って登場した

※この記事は『Mac Fan』2019年1月号に掲載されたものです。

1990年台初頭まで続いたMacintoshの大きな日米価格差

現在、Apple製品は、為替レート変動の影響はあるものの、アメリカ本国での価格とほぼ同額で日本でも購入できる。ところが、1990年代の初頭まで、その差は無視できないほど大きかった。

たとえば、初代Macintoshが発売された頃、USドル/円の為替レートは、1ドル240円前後で推移していた。したがって、約2500ドルの同製品は、そのまま円換算しただけで、57万5000円。しかし、実際の販売価格は約70万円だった。今なら、iMac Proを多少アップグレードしても余裕で買えてしまう。

しかもApple Japanは、為替レートが1ドル130〜145円程度になった1980年代後半〜1990年代初頭になっても、日本での価格を1ドル200円換算で設定していた。もちろん、昨今ほどの販売台数は見込めない頃だったので、物流や在庫のための諸費用を考えれば致し方ないところもあっただろう。それでもユーザにとっては、ただでさえ高価なMacが一層高嶺の花になるのが悩みの種だった。

1つの解決法は、アメリカに行って現地で購入して持ち帰ることだが、LCCもない時代にそのためだけに渡米するのでは結局、高くついてしまう。だがMacworld Expoなどを取材するついでに買って帰れば、そこそこリーズナブルになる。1986年からしばらくの間、Macintosh Plusを使い続けていた僕は、1989年に登場したMacintosh IIcxを3年ぶりのニューマシンとして購入するにあたり、この取材と組み合わせる方法で初のアメリカ買い付けを行ったのである。

コンパクト化とコストダウンを図ったMacintosh IIx

Macintosh IIcxの購入を考えた理由は、その仕様と性能にあった。Appleは、1987年のMacintosh IIによって初めてカラー表示機能をMacにもたらし、1988年にはその高速版のMacintosh IIxを発売した。ただし、6基の拡張スロットを持つそれらのマシンは大きく、高価だった。

このMacintosh IIxの拡張スロット数を3つに減らし、筐体サイズのコンパクト化とコストダウンを図った製品が、Macintosh IIcxであり、そのネーミングはそのものズバリ「コンパクトなIIx」を意味していた。アメリカでの価格は約5300ドルだったが、現在の貨幣価値に換算すると実に1万ドルを超えてしまう。そのうえ、映像出力のためのビデオカードはニーズに合わせて選択するので別売りとなっており、カラーモニタを加えるとさらに高価な買い物となった。それでも、いわゆるマルチメディアの時代に向けてカラー表示と高速処理ができるMacは仕事上も不可欠なものとなりつつあり、思い切って決断したのだ。

性能面以外にもMacintosh IIcxには大きな特徴があった。1つ目は縦・横置きが自由に選べること。2つ目は、内部がモジュラー設計となっていて、1本のネジを外すだけでパズルのように分解できることだった。そのため、内蔵ハードディスクの交換も簡単に行えた。

Macintosh IIcxには後継モデルのIIciへのアップグレードサービスが用意され、また、IIciでは初代MacやMac Plusのように開発チームのサインが内側に刻まれていた。今、改めて振り返ると、当時のジョブズなきAppleは、マルチメディア時代の到来を前に、カラー対応のベーシックマシンたるIIcxとIIciで原点回帰したかったのではと思えるのだ。

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著者プロフィール

大谷和利

大谷和利

1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。

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