乱立した健康医療相談やオンライン診療サービスには、コロナ禍を終え、差別化を図るフェーズが訪れている。そんな中、ソフトバンクの子会社であるヘルスケアテクノロジーズ株式会社が提供するアプリは能動的にユーザに寄り添う方針だという。
サービス側からだけでなく、企業を巻き込むなどして、働く人の健康のにアプローチする意図とは?
“介入型”の健康支援を目指してフルリニューアル
心身の不調のとき、医療の専門家らに簡単にアドバイスを求められる、健康医療相談アプリの利用が広がっている。
一方で、このようなアプリは特性上、どうしても「不調が起きてから」利用されることが多い。サービス側からすると、ユーザへのアプローチは受動的にならざるを得ない。アクティブ率やリテンション率を向上させるためには、ユーザの普段の生活といかに接点を持つかがカギになるだろう。
そこで、ヘルスケアテクノロジーズ株式会社のヘルスケアアプリ「HELPO」は、今年4月のフルリニューアルを機に、介入型、つまりサービス側から働きかける形での健康の支援を併せて行う、とした。
「HELPO」は、体調が悪くなり始めたときや、ちょっとした身体の不安や不調を医師・看護師・薬剤師などの医療専門チームに、24時間365日、気軽に何度でも相談できるヘルスケアアプリ。医師の診療が必要な場合は、そのままオンライン診療の受診も可能でワンストップの健康管理が可能だ。
同様のアプリが乱立する今、具体的にどのようなサービスを目指すのか、同社のプロダクトイノベーション本部・本部長の藤枝将史氏に話を聞いた。
24時間365日、医療専門チームがオンライン相談に対応
HELPOのサービス開始は2020年7月。タイミングとしてはコロナ禍の初期で、ほかの多くの健康医療相談サービスがローンチされた時期と一致する。サービス開始当初から「24時間365日いつでも医療者に相談できる」ことを謳う健康医療相談のサービスを提供。2021年6月にはオンライン診療機能を追加した。いずれも当時は法人向けのサービスで、個人向けのアプリが提供されたのは2022年12月だった。
HELPOの健康医療相談では、医師や看護師、保健師などの医療専門チームが、24時間365日対応でチャットで相談に応じる。さらに、その症状や体調に合わせて、提携医療機関の医師によるオンライン診療を受けることが可能だ。
オンライン診療は、医療機関にプラットフォームを提供する形式。診療は提携の医療機関が行うため、別途、診療費などがかかる。診療科による受付可能な曜日や時間、予約枠の有無はあるが、基本的には夜間・休日も自宅から、予約なしで当日の診療も可能だとする。診療予約から支払いまでアプリ内で完結し、PayPayやクレジットカードでの決済が可能だ。
ヘルスケアに特化した商品を幅広く取り扱い、市販薬や日用品サプリメントなどがスマホから購入できる「HELPOモール」の機能もある。
今年4月のフルリニューアルでは、UI/UXを一新し、面倒な情報の入力を省いてワンタップで健康医療相談ができるようになった。
能動的な健康推進を促す「マイカルテ」と「健康チャレンジ」
そのほか、新機能の「マイカルテ」では、アプリに健康情報を集積することにより、カラダの見える化を実現。状態に応じて、医療専門チームによるレコメンド通知、健康情報のAI(人工知能)活用によりパーソナライズされたコミュニケーションなどを可能にした。
また、新機能「健康チャレンジ」では、そうした情報に基づいた、歩数や睡眠などに関する定期ミッションに取り組める。将来的には、企業毎に独自のミッションを設定できるようにして、法人顧客の健康経営推進や福利厚生に活用しやすくなるビジョンを描く。
こうした健康チャレンジをクリアすると取得できるポイントで、プレゼントが当たる抽選に挑戦できる機能も盛り込んだ。ポイントは譲渡不可のPayPayポイントにも交換できる。アプリ利用のハードルを下げ、インセンティブを増やすリニューアルだったといえる。
このように、HELPOでは健康に関する情報をまとめて入手・管理することが可能。「さまざまなチャンネルの健康医療情報を一元管理できることがHELPOの強み」だと藤枝氏は説明する。
ゴールは社会課題の解決
2023年7月からは、新機軸として、企業の女性活躍推進を健康面で支援する新サービス「HELPO actio+」をリリース。働く世代の女性に関わる4大カテゴリの「月経・PMS」「更年期」「妊活・不妊」だけでなく、女性の“なんとなくの不調”という症状を含む「女性の病気」に関わる領域までをサポートする。
セルフチェックやコラムなどのコンテンツを展開、同社所属の医師・看護師・薬剤師・保健師などの医療専門チームが24時間365日対応するチャットでの相談が可能。調査アンケートや報告レポートの作成も実施し、導入企業に提供することで、働く女性のトータルケアができる。
個人向けのみでは、サービスの利用がユーザの意欲に左右されるが、企業を巻き込んだ仕組みににより、サービスとの距離が保たれるという側面もあるだろう。同社は「本人はもちろんその人の周囲からの多面的な働きかけで、企業を巻き込む仕組みを厚くすることでより行動変容を促進できると考える」とする。
競合サービスは多く、かつ、オンライン診療には気軽であることゆえに、特に自由診療の領域で、医薬品の乱用などの問題も社会的な関心を集めている。そんな中、同社がゴールとして掲げるのは、あくまで人々の健康増進や医療資源の最適化、国民皆保険の維持などの「社会課題の解決」と藤枝氏は語る。
「セルフケアや重症化予防にはPHRなどのデータが不可欠で、これら健康データを扱うサービスなどは多数あります。しかし、そのデータを元に適切なタイミングで専門家が介入し、最適な行動へと一気通貫でつなげることができるのは、社内で医療専門職の社員を抱えながらオンライン診療のプラットフォーム提供まで手がける私たちだけ。この介入型支援を実現することが、医療従事者の方の負担減や医療費の増大を食い止めることになり、将来的には誰もが健康を意識しなくても健康であり続けられる社会を作ることにつながると信じて、引き続きサービスを提供していきます」
※この記事は『Mac Fan』2024年9月号に掲載されたものです。
著者プロフィール
朽木誠一郎
朝日新聞デジタル機動報道部記者、同withnews副編集長。取材テーマはネットと医療、アスリート、アメコミ映画など。群馬大学医学部医学科卒、編集プロダクション・ノオトで編集/ライティングのスキルを磨く。近著に『医療記者の40kgダイエット』『健康を食い物にするメディアたち』など。